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桜涙【26】 大切

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『ずっと言いたかった。ごめんね、と、ありがとう、って』


「藍、里……」
「良かったぁっ!」

 ドアを開けた勢いそのままに、藍里は朱里に抱き付いた。何の躊躇いもなく、しがみつくようにぎゅっと両腕を首に回して。

「朱里ちゃんのばかっ。何で言ってくれなかったの!? ずるいよ、全部独りで背負い込んで、私、何も知らないなんてバカみたいじゃないっ。ばかばかばかっ」
「あ、藍里……」
「心配したんだからっ! このまま、朱里ちゃんが目覚めなかったらって、怖くて、冗談でも言わなきゃいられなかったんだよっ」

 今まで溜まっていた不安が、一気に言葉として流れ出す。心で叫んでいる同じ言葉も、朱里に嘘ではない事を伝えるだろう。
 朱里が生きていてくれる事が、何よりも嬉しい。そう、叫んでいる心は、本物だ。
 朱里の腕が、藍里を抱きしめ返してくれる。躊躇いがちに、藍里の背中を撫でてくれる。

「ごめんね……。ありがとう」

 朱里が囁いた言葉に、藍里は体を離して、涙を拭いながらふるふると首を横に振った。

「それは、私の台詞だよ……。今まで、何も知らなくて、ごめんね。それから」

 ことん、と朱里の肩口に額を預ける。彼女の、確かに脈打つ心臓の鼓動が伝わってくる。

「……私を、守ってくれて、ありがと……」

 あの日から、ずっとずっと言いたかった言葉。眠る朱里に語りかけるよりも、起きて、目を覚ました朱里に言いたかった。ありったけの気持ちを込めて。
 うん、と小さく頷く気配がした。ゆっくりと視線を上げると、一週間前、藍里の暴走を止めた後に見せてくれた、小さな微笑みがあった。

「……えへへ」

 嬉しい。とても、とても……朱里が生きていてくれた事が。藍里に、微笑わらってくれる事が。
 ずっと、触れ合う事のなかった姉妹。でも、生きてさえいてくれるなら、もういつだって触れ合える。

「朱里ちゃん」

 ぴとっ、と腕に張り付く藍里を、朱里は振り解かないでいてくれた。

「……触れても、大丈夫なの? 怖くない?」

 そっと、朱里が訊ねてきた。そんな朱里に、藍里は逆に訊ね返した。

「朱里ちゃんこそ、私が触れてて、嫌じゃない?」
「そんな事……!」

 即座に否定してくれた朱里に、藍里は続ける。

「私の方が、よっぽど化け物だよ? あんな、能力……。まだ、私の中で燻ってるのが解る。小さく揺らめいてるの」

 そこまで告げると、藍里がくっついている左腕とは逆の右手が、額に触れた。

「熱は、まだ無いけど……鎮めた方がいいわね」
「ううん。しなくていい」

 藍里は、きっぱりと拒んだ。言葉が悪かったのか、朱里が不安な顔をした。

「だって、私のこの能力を鎮めたら、また朱里ちゃん、病気になっちゃうでしょ? せっかく治ったのに」
「私よりも藍里よ。今までそんな能力と付き合って来なかったんだもの、……辛いでしょ?」

 自分がベッドの上にいると言う事よりも、朱里は藍里を心配してくれる。今まで知らなかった朱里の優しさに触れて、藍里は知らずに顔を綻ばせた。

「これぐらい、何ともないよ。今までずっと、朱里ちゃんが向き合ってきた事に比べれば、全然辛くない。……そりゃ、自分の中にこんな能力があるって知った時は、怖かったけど」

 でもね、と藍里は朱里の瞳を真っ直ぐに見て続けた。

「一番怖かったのは、何も知らなかった事。自分の中にある能力も、それを朱里ちゃんがずっと鎮めてくれていた事も、何も知らないで。それなのに私は、朱里ちゃんと向き合う事すらしなかった」
「それは、私がずっとそうしてきたからよ。藍里のせいじゃないわ」
「……それだけじゃ、ないと思う。結局私、ずっと甘えてたんだ、朱里ちゃんに。ううん、私だけじゃない、みんなが」

 竜城は朱里を「化け物」と呼んでも反応しない事をいい事に、言葉で傷付けて。
 藍里は全てを朱里に背負わせて。
 両親は、朱里が独りは淋しいと泣かないのをいい事に、娘の気持ちに気付きもせず。
 みんな、みんな……朱里に守られていたのだと、改めて思う。

「あのね、朱里ちゃん。朱里ちゃんが私の命を大切だって思ってるのと同じくらい、私も朱里ちゃんの事が大切だからね?」

 予想だにしてなかったのだろう、朱里の瞳が大きく見開かれ、そして、微かに潤んだ。
 あの日、朱里が倒れて、一海に全てを教えて貰った時。その時の気持ちを、藍里は語った。
 自分の能力が消える事よりも、朱里がいなくなる事の方が怖かった事。
 自分の能力を自覚して、受け入れてしまえば、朱里は生きていられる事。
 迷わなかった。あの時の自分の決断は間違っていなかったと、信じたい。

「藍里……」
「だから、私を大切に思ってくれるなら……その分、自分の事も大事にして? もう、死んでもいいなんて、思わないで……っ!」

 藍里の双瞼から涙が零れる。
 怖かったのだ。朱里が死んでしまうかも知れないと聞かされた時、胸がスッと冷えた。
 もう、あんな想いはしたくない。

「ありがとう……」

 ふわふわの茶髪を、こわごわと撫でてくれる朱里。藍里は零れる涙を慌てて拭って、パッと花が咲くような笑顔を見せた。

「退院したら、朱里ちゃん、いろんな事教えてね? 能力の事とかも、全部!」

 ……うん、と頷いた朱里は、今まで藍里が見ていたどの表情よりも、明るかった。


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