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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【24】 望み

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『大丈夫。もう、一人じゃないよ』


 どこまで進んでも、出口は全く見えてこない。真っ暗闇の中を歩くのも、いい加減疲れてきて、朱里は溜め息をついてしゃがみ込んだ。
 もう、どれ程の時間がたっているのだろう。朝も昼も、夜もないこの空間では、当然時間など解るはずもない。

「頑張るね。まだ諦めないの?」

 また、幼い少女の声がした。呆れているようにも聞こえるその声に、朱里は反論する気になれず、ただ俯くだけだった。

「ねえ……どうしてこの声を無視するの?」

 そう、朱里を呼ぶ声は未だに聞こえてきていた。藍里の声、竜城の声、一海と京佳の声、そして有り得ない事に両親の声までも。

「だって……夢だもの」

 そう、夢だ。だって、みんなが朱里を呼ぶ理由なんて無い。これはきっと、朱里の捨てきれなかった願いが形になった、夢幻ゆめまぼろし

「夢なのに……。もう、呼ばなくていいのに……! どうして、聞こえるのっ……」

 どんなに耳を塞いでも、声はここに届く。竜城の切ない声も、藍里の柔らかな声も、両親の優しい声も。
 もう、眠りたいのに。化け物と呼ばれるのも、傷付かない振りも、もう疲れて……。

「それが、あなたの心の叫び……ううん、望みだから」

 一拍おいて、少女は続けた。

「だって、あなたは生きてるんだもの」

 小さな手が、ふわりと朱里の頬に触れて、瞳を合わせる。

「生きてるんだよ? あなたは前しか見てなかったから気付いてないみたいだけど、ホントはね、出口はすぐ後ろにあるの」
「え……?」

 そこで初めて、朱里は後ろを振り返った。今まではただ前だけを見て、出口を探していたけれど、朱里のすぐ背後に、一筋、二筋と光が漏れる、漆黒の扉があった。

「あの扉をくぐれば、あなたは戻れるんだよ」

 藍里と、竜城と、一海と……朱里に呼びかけてくる人々が、生きている世界。

「……戻りたくないって、言ってるのに……」
「……怖いの?」

 怖くないはずがない。今までずっと張りつめていた糸は、この空間に着いたと同時にぷつりと切れてしまった。糸を縒り直し、再度張りつめる気力など、もうどこにもない。

「怖いよね。また傷付くかも知れないし、この声は一時のものかも知れないし」

 敢えて朱里が声に出さなかった言葉を、少女はやすやすと唇に乗せる。

「でも戻らなかったら、藍里はまた能力を暴走させてしまうかも知れないよ?」

 少女の言葉に、朱里はハッとした。そうだ、能力が宿っているのは魂ではなく、肉体の方。魂はあくまで能力を制御するだけで、朱里の肉体が生きている限り、藍里の能力は消えない。

「藍里はもう、自覚してる。自分の中にある能力を。そして、受け入れてるんだよ? ……あなたを救う為に」

 ほら、と少女はその掌に、小さな光の珠を乗せて朱里に差し出してきた。それを朱里が指先で摘み上げると、漆黒の闇の中に、朧気ながら映像が浮かび上がった。

────まるで眠り姫だな、こいつ。

 昏々と眠り続ける朱里の額にかかる前髪をそっと避けながら、竜城が呟く。

────じゃあ、竜城ちゃんがキスしたら、朱里ちゃん起きるかなぁ……。

 竜城の隣で、花瓶に花を生けている藍里が呟くと、竜城はゴホッと咳き込んだ。ついでに言えば、朱里も一緒になって咽せた。

────なっ、何言い出すんだよ藍里っ。
────え、だって王道じゃない? 白雪姫然り、眠りの森の美女然り。
────そりゃ童話だろーがっ。

 そうだそうだと、朱里も頷く。全く藍里は、何を言い出すのやら……。そう思いながらも映像に目を向けていると、藍里の表情がフッと翳る。

────……起きたくないのかなぁ……。もー、こーなったら脅しちゃおっかな。
────は?
────朱里ちゃんが起きなかったら私、また能力暴走させちゃうよーって。
────……それはシャレにならんからやめろって……。

 呆れたように笑う竜城に、藍里も一緒に笑う。その姿は、能力の事など何も気にしていないかのようで……。少女の言う通り、藍里は、能力を受け入れている……?

────ほんっとお前、この数日で変わったよな。
────強くなるって、決めたんだもん。

 ベッドの上に出ている掌に、藍里が触れる。ぎゅっ、と指先が握られる。

────だからね、朱里ちゃん。早く起きて。

「……ね?」

 ふっ、と一瞬後、その映像は消えた。少女がにこりと笑って、朱里を見上げる。
 いつの間にか零れていた涙が、頬を濡らす。暗闇だった世界が、徐々に色鮮やかな極彩色になっていく。

「藍里……!」

 どうして。今までずっと、自分のエゴで藍里の能力を隠し続けてきたのに、それを、こんな簡単に受け入れられるはずがないのに……。
 朱里だって、何度も何度もこの能力を疎ましいと思ってきた。受け入れるのに相当の時間がかかったのだ。なのに、藍里は……。

「あなたが自分よりも藍里を選んだように、藍里も、あなたを選んだの」

 自分の能力が消える事よりも、藍里は朱里の命を選んだ。それは朱里が、自分の命よりも藍里の能力を消す事を選んだのと同じ。

「やっぱり双子だね。考える事までそっくり」

 くすくす、と少女は笑う。極彩色に彩られた世界で、少女が着ている白いワンピースが虹色に見えた。

「大丈夫。もう、独りじゃないよ」

 とん、と背中を押された。光が漏れる、漆黒の扉に向かって。

「私も一緒に行くから。だから、怖がらないで……」

 もう、泣いていいの。淋しいって言ってもいいんだよ────……。
 少女の言葉が胸に響いて、……溶けた。

「死に損ないって、……言われるかも知れないけど……」

 例えば、少女が見せてくれた映像が、偽りだったとしても。
 まだ、生きていてもいいのなら。藍里や竜城が、名前を呼んでくれるなら。

────朱里。
────朱里ちゃん。

 今までずっと、ここに響いてきたその声は、とても温かかったから。
 朱里は震える手を、そっと漆黒の扉の取っ手にかけた。


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