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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【23】 もう一度

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『もう一度、その瞳に、私を映して』



 あれから数日が経ったけれど、未だに朱里は目覚めない。朱里の左手をギュッと掌に包み込んで瞳を閉じる竜城の表情に、藍里はどこか切ない気持ちになった。
 誰よりも、朱里の目覚めを待っているのはきっと……竜城だ。
「化け物」と呼ぶことで、ずっと朱里を遠ざけてきたけれど。
「化け物」と呼ぶことで、朱里の存在を確かなものにしていたのもまた、竜城だった。
 いつだって希薄だった朱里の存在。目を逸らせばフッと消えてしまう、いるかいないか解らない、殆ど空気と同化しているかのような、存在感。
 いい意味でも、悪い意味でも、朱里の存在を、竜城はいつも気にかけていた。それがどんな感情の上に成り立つのか、藍里には解らない。多分、竜城自身も解らないと思う。
 言葉に表すことの出来ない想いが、その表情に込められている気がして、藍里は声をかけることを躊躇った。
 いつも、竜城は朱里から藍里を守ってくれていた。ずっと傍にいて、朱里が藍里に近付かぬように目を光らせて。その光景が、周囲には恋人同士のように映ったらしく、色んな人に「付き合ってるの?」と聞かれたけれど、藍里も竜城も、互いに恋愛感情は持っていない。
 竜城にとって、藍里はほっとけない妹のような存在であることを知っているし、藍里にとって、竜城は頼りになる兄のような存在だ。
 竜城は今、きっと後悔している。その後悔は、藍里よりも深いだろう。
 だがそれも、藍里を守ろうとした為だ。朱里を傷付ける言葉も、強い口調も、全ては藍里が存在したが為。
 誰よりも償うべきは、藍里なのだ─────。

「……藍里?」

 唇をかみしめながら、開けたままのドアの傍に立ちつくしているのに気付いたのか、竜城が苦笑した。

「何突っ立ってんだよ、そんなトコで」
「……朱里ちゃんとお話ししてるの、邪魔しちゃ悪いかなって、思って」

 朱里に触れていれば、心の声は届くはずだと、藍里も信じている。
 竜城もそうなのだろう、声に出さずとも、心の中で何度も語りかけて。
 けれど朱里は目覚めない。心の扉は閉ざされてしまったのだろうか……。こんな世界にはもう、居たくないと。

「まるで眠り姫だな、こいつ」

 朱里の額にかかる前髪を、指先でそっと避けながら、竜城が呟く。眠り姫と言えば……。

「じゃあ、竜城ちゃんがキスしたら、朱里ちゃん起きるかなぁ……」

 花瓶に花を生けながら、何気なく藍里が呟いた途端、竜城がゴホッと咳き込んだ。

「な、何言い出すんだよ藍里っ」
「え、だって王道じゃない? 白雪姫然り、眠りの森の美女然り」
「そりゃ童話だろーがっ」

 思いつきで言っただけなのだが、竜城は珍しく狼狽えている。その様子が何だか笑えてしまった。……でも、どんなに大声で笑っても、朱里の瞼はぴくりとも動かない。
 まるで、世界を遮断してしまっているかのよう……。

「……起きたくないのかなぁ……。もー、こーなったら脅しちゃおっかな」
「は?」
「朱里ちゃんが起きなかったら私、また能力暴走させちゃうよーって」

 そんな気は全くないが。そもそも、暴走しようと思って出来る物でもない。
 だが……冗談でも言わないと、本当に朱里は目覚めないような気がして。

「……それはシャレにならんからやめろって……」

 呆れたように竜城が笑う。その笑顔は、とても淋しそうだった。彼の視線が、眠り続ける朱里へと移る。

「……でも、そうだな……起きたくないのかもな」
「え?」
「俺……こいつを傷付けてばっかりだった」
「竜城ちゃん、違うよ」
「違わない。藍里を守るなんて、自惚れもいいトコだ。バカみたいな考えに取り憑かれて……俺は、朱里に守られていることにも気付かなかった」
「竜城ちゃん……」

 守られていることに気付かなかったことが悪いのか、守っていることをおくびにも出さなかった朱里が悪いのか……藍里には、解らなかった。
 後悔という名の渦が、竜城を飲み込んでしまう前に、藍里ははっきりと告げた。

「それでも私は、朱里ちゃんが起きることを願うよ」
「藍里?」
「朱里ちゃんの気持ちなんて解らない。私は人の心は読めないし、朱里ちゃんのこと、何にも知らなさすぎるから、推し量ることだって出来ないけど……」

 それでも、朱里の都合などどうでも良くなるくらい、伝えたい言葉がある。
 眠る朱里にではなく、目覚めた朱里に。今は瞼に覆われている瞳に、自分を映して。

「……竜城ちゃんだって、言いたいことあるでしょう?」
「……ああ」

 竜城は朱里にどんな言葉をかけるのか。竜城の言葉に、朱里が少しでも癒される事を願う。

「そうだな。諦めてちゃ、叶わないよな」
「うんっ。それにほら、ホントにキスしたら起きるかもしれないし♪」
「あーいーりーっ」

 唸りながら振り翳す拳を笑いながら避ける藍里に、竜城は呆れたように笑った。

「ほんっとお前、この数日で変わったよな」
「強くなるって、決めたんだもん」

 眠り続ける朱里の指先を撫でる。ぎゅっ、と力を込めてその手を握る。

「だからね、朱里ちゃん。早く起きて」

 もう一度、あの笑顔を見せて。
 もう一度、その瞳に、私を映して─────……。

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