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桜涙【21】 記憶

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『罪滅ぼし、なのかも知れないわね』


「……まさか、来るとは思わなかったわ」

 眠る朱里との対面を終え、病室に竜城と藍里、一海を残して来た妹夫婦に、京佳は意地悪く告げた。

「姉さん……」
「友暁君はともかく、あなたは一海や藍里が説得しても来ないと思ってた。……どういう心境の変化?」

 妹だからといって、甘やかすつもりは毛頭ない。彼女達が朱里にしてきた事は、同じ親としての立場でも許せない。

「覚悟はあるの? あの子が目覚めてからも逃げ出さないという保証がないなら、二度とここへは来ないで」

 可愛い姪が、今までこんな辛い目に遭っていた事を知らなかった償いだとしても、京佳は朱里を守りたかった。

「覚悟なんて……まだ、ないわ。でも」

 一呼吸おいて、知佳はまっすぐに京佳を見た。

「藍里があの子を守ろうとしているのに、私達だけ逃げたくないの」

 今まで逃げていたくせに。そんな言葉が、反射的に口をついて出そうになったけれど、京佳は何も言わずに知佳を見つめる。

「姉さんが求める答えには、程遠いって解ってる。こんな答えじゃ、姉さんを納得させられない事も」

 解っていても、適切な言葉が思い浮かばないのか、知佳が押し黙る。確かに納得出来るはずがない答えだが、逆に納得のいく答えを告げられても、不審に思うだけだったろう。
 否、それ以前におそらく、京佳は彼女がどんな答えを言えば納得するか、自分でもよく解っていないのだ。だから、彼女が答えられない事に、ほんの少しだけホッとしていた。

「俺達は……あの子を閉じこめる事で、守っているつもりになっていました」

 それまで黙っていた友暁が、不意に口を開き、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「俺達からも、世間からも……聞きたくもない言葉を、朱里が聞かずに済むように」
「でもそれは、あなた達が傷つきたくなかったからよね」
「……否定はしません。だけど、そうしたからこそ、朱里は今まで生きて来られたのだと思ってます」
「……どういう事?」

 友暁の言葉の意味を量りかねて、京佳は厳しい瞳のまま片眉をつり上げる。

「他人との接触を避ける事で、朱里の心は壊れずに済んだのではないか……俺は、そう思います」
「都合のいい解釈ね」

 だが、それもまた、一つの事実なのだろう。京佳と一海がこの町を去った時点で、朱里は能力を完璧に制御出来てはいなかった。
 幼心に、悪意のある言葉はトゲを刺す。他人の心にばかり触れていては、『朱里』という自我さえ失っていたかもしれない。
 正しい、とも、間違っているとも言えない、妹夫婦の選択だった。
 ただ、京佳がそれを認めたくないだけで。

「私は……私達は、私達が出来る精一杯で、朱里を守ったの」

 今となっては言い訳にしか聞こえないその言葉が、何故か京佳の胸を打った。
 精一杯。あの頃の妹夫婦には、それが最善の選択だったのだ。
 子供を産んだから、親になったから。ただそれだけの事で、急に大人になれるわけがない。子供と一緒に、親も成長していくのだ。怖いくらいの現実と向き合って。

「……解ったわ。あなた達を信じる」
「姉さん」
「だけど、朱里を泣かせたら承知しないわよ」

 朱里がまた傷つく事があれば、今度こそ彼女を引き取るつもりだ。例え朱里自身が否と首を振っても。

「保証は出来ないけど……努力はします」

 奇しくも藍里と同じ発言をした友暁に、京佳はようやく笑みを覗かせた。
 今はそれでいい。保証出来ると断言出来てしまう決意の方が、今は信じられないから。

「ねえ? 姉さんはどうして、朱里をそんなに気にかけてくれるの?」

 何気ない知佳の言葉に、京佳は一瞬虚をつかれた。自分が、朱里を気にする理由。それを真っ正面から訊ねられた事は、今までなかったのだ。

「可愛い姪っ子を心配するのは当然でしょ。……ううん、それは綺麗事ね。多分、私は……」

 朱里の中の能力を知った時から、ずっと気にかけていたのは、きっと、姪だからという理由だけではない。ならば、同じように藍里の事も気にするべきだとも思ったからだ。それなのに、朱里ばかりを気にしていたのは……。

「罪滅ぼし、なのかもしれないわね……」
「罪滅ぼし?」

 そう、と京佳は小さく笑った。まるで、自嘲するかのように。


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