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桜涙【20】 傍に

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『傍にいる事を、お前は許してくれるか?』



 竜城と奎吾を驚かせたのは、朱里の伯母である京佳だった。もちろん、竜城は今まで逢った事がないので、誰だか解らなかったのだが。

「ごめんなさい、ドアが開いていたから……会話、聞こえてしまって」

 びっくりした顔そのままに自分を見つめる竜城と奎吾に、京佳が苦笑する。

「いえ……」
「この度は、朱里がお世話になりまして……。一海から話は大体聞きました。朱里を助けて下さって、有難うございます」

 深々と、綺麗な角度でお辞儀をする京佳に、奎吾が慌てた。

「顔を上げて下さい、それにまだ、完全に助かったとは……」
「ええ、解っています。けれど、命だけでも助けて下さったのは先生でしょう?」

 奎吾の言葉に、京佳はまた頭を下げた。一通りの挨拶が終わると、京佳は竜城に話しかけてきた。

「あなたが、竜城くん?」
「あ、はい」
「初めまして。朱里の伯母の、東堂京佳です」
「池上竜城です」

 ペコリと会釈をしてくる京佳に対して、竜城も会釈で返す。朱里の手を握ったままでは立てなかったのだ。
 京佳は一瞬、竜城が握りしめている朱里の手に視線を止めて、そのままベッドの上の朱里へと近付いた。

「朱里……」

 蒼白い頬を、そっと撫でるその仕草は、まるでガラス細工に触れるかのようだった。

「起きたら、お説教だからね?」

 瞳に涙を滲ませながら、京佳が呟く。とてもとても、温かな声で。

「竜城くん」

 不意に、京佳の瞳が自分を捉えて、何だか朱里の手を取っている事を咎められているような気がして、竜城はパッと両手を離した。
 そんな竜城に、京佳はくすくすと笑う。

「いいのよ、手を握っていてあげて。きっとこの子には届くから」

 話しかける声も、心の中の叫びも。きっと朱里に届くからと、京佳は笑った。

「今晩、ここに、いてあげてくれる?」
「でも……」

 家族ではない自分が、朱里の傍にいていいのだろうか。まして、朱里を傷付けてきた自分がだ。
 躊躇っていると、京佳が竜城の手に朱里の左手を搦めながら告げた。

「言ったでしょう? この子が守りたかったのは、藍里だけじゃなくて、あなたもなのよ」

 守るから……。そう言った朱里の声が、耳に蘇る。

「もしも、目が覚めて……そしたらきっと、この子はあなたと藍里を探すわ。二人の無事を確かめる為に。……だから、傍にいてあげて」

 朱里を安心させる為にと言われてしまっては、竜城に断る理由はない。けれど、竜城が朱里の傍にいる事を、京佳は快く思っているのだろうか。

「でも、どうして……どうして、俺にそんな事……」

 一海の母親なら知っているはずだ。自分が、どんなに朱里を傷付けてきたか。

「俺、ずっと朱里の事……」

 傷付けてきて、と言葉に出来なくて、竜城は黙り込む。
 そうね、と頷いた京佳は、だけど、と言葉を続けた。

「あなたがここにいる。それが答えでしょう?」

 京佳の言葉の意味が分からずに、戸惑いの視線を向けると、京佳の代わりに奎吾が答えを与えてくれた。

「朱里ちゃんの事を全く気にしていないなら、お前は今、ここにはいないだろうって事だよ」
「でも、あなたはここにいてくれてる。朱里の傍に。それで充分なのよ、私には」

 竜城が傍にいる事を、朱里がどう思うかは解らない。だが、少なくとも京佳は、竜城がここにいる事を許してくれている。
 いや、京佳だけじゃない。両親を説得する為に自宅に戻った藍里も、その藍里を連れて行った一海も、だ。
 藍里は朱里の傍にいてといい、一海は頼むと一言だけ告げて出て行った。

「俺……傍にいても、いいのかな……」
「許すも許さないも、朱里が決める事で、私達が決める事じゃないわ。ただ……傍にいると決めたのなら、逃げないで欲しい。それだけよ」

 それは逆に言えば、朱里が目覚めた時に彼女から逃げるのであれば、朱里の傍にはいるなという事だ。

「酷い事言ってるのは解ってるわ。でも、これ以上……朱里を傷付けないで」
「……逃げません。俺、こいつには言いたい事いっぱいあるんです」

 辛いなら辛いと言えば良かったのだ、朱里だって。言えない状況を作っていたのは他ならぬ竜城だから、言えた義理ではないけれど、せめて一言でも「辛い」と発したなら……。
 あの日、夕暮れの教室で、もっと朱里と話せば良かったと今更ながらに思う。
 藍里の能力を知らずとも、きっと朱里の体調が悪い事を知れば、竜城は病院に行けと言っていた。……多分。
 まぁ、例え竜城が言ったとしても、頑固な朱里が素直に言う事を聞くとも思えないが。
 考えてみれば、本当に頑固者だ。一体いつから覚悟を決めていたのか。
 一度もそれを曲げようとせずに、朱里は実行した。
 全く、本当に……。

「頑固者、とか、バカヤロ、とか……。言わないと気が済まないんで」
「……ありがとう」

 京佳の言葉に、竜城は力強く頷いた。

 それから30分程経った頃、藍里が両親を連れて現れた。
 知佳はこわごわと朱里の頬に触れ、涙を零し、娘の名を呼ぶその声は震えていて、それ以上は言葉に出来ずにいるようで。
 友暁は竜城が離した左手を両手で包み、瞳をギュッと閉じて。
 2人とも、心の中で語りかけているのかも知れないと、竜城は思った。

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