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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【19】 後悔

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『だから俺は、謝らない』



「朱里……」

 今まで、決して触れる事の無かった朱里の左手を、竜城はそっと両手で包む。

「聞こえてるか……? 朱里……」

 意識のない人間に呼びかけても、何の反応も返ってこない事は解っているけれど、人の心を読む事が出来る朱里になら、言葉は届くかもしれないと信じたかった。
 今、病室には竜城と眠っている朱里だけだ。藍里は、両親をここに連れてくる為に、一海と共に自宅に戻っている。

『竜城ちゃん、お願い。朱里ちゃんの傍にいて』

 もしも目が覚めた時、誰もいないのは、淋しいと思うから。
 そう、竜城に告げて。

「俺さ……ホントにお前が藍里を殺す気だと思ったんだ」

 藍里の首に手をかけていた朱里を見た時、その真剣な瞳は、何かの覚悟を秘めているように見えた。今思えばそれは、藍里を殺す覚悟ではなく、己の命を使い果たす事への躊躇いを、切り捨てる覚悟だったのだろう。

「でも、俺があの時守りたかったのは藍里じゃない……。朱里、お前だよ」

 藍里が殺されるのを防ぐ為ではなく。朱里に、藍里を殺させたくなかった。元より、朱里が藍里を殺す場面など見たくもないが。
 だからこそ、朱里に藍里を傷付けさせないと言葉にしたのだ。藍里が傷つけば、朱里自身も傷つく。何の根拠もなかったけれど、そう思ったから。
 きっと、あの時の朱里は、竜城の言葉を違う意味に取ったのだと思う。ほんの一瞬、彼女の瞳が揺れたのを見た。
 その誤解を解こうと言葉を探している内に、保健室にいたはずの藍里が姿を現したのだ。

「まさか、藍里だったなんてな」

 10年前、竜城を怪我させたのが藍里だったとは思いもしなかった。ずっと、朱里だと思い込んできた。真実を問いかけた竜城に言葉で答えなかったのが、彼女の答えだった。
 あの瞬間、ザッと血の気が引いたような気がした。言葉にすれば短いのに、とてもとても長い10年間。朱里はどんな気持ちで、竜城の言葉を聞いていたのだろう。
 それなのに、そんなに酷い言葉を投げつけてきた竜城を、守ると彼女は言った。

『……大丈夫。守るから……。あなたも、あなたの大切な藍里も』
『お前は、……どうなる』

 心のどこかで知っていた。これだけの能力を鎮める朱里とて、ただでは済まないと。それでも違う答えを聞きたくて問いかけたのに、朱里は何も答えなかった。
 まるで、竜城の考えている事が正解だというように、見つめてくるだけで。

『……朱里っ……!』

 藍里の能力を鎮めようと歩き出す彼女を、竜城は止める事が出来なかった。
 数年ぶりに彼女の名前を呼んでも、朱里は足を僅かに止めただけで、振り向かずに。

『……さよなら、竜城』

 そして朱里は、藍里の放つ能力の奔流に飲み込まれていったのだ。
 藍里の能力が静まった時、2人の姿を見てホッとした。2人とも無事なのだと、何も心配する事はないと。
 だが、ホッとしたのも束の間、朱里の身体が頽れた。一海の腕の中で、浅い呼吸を繰り返す朱里の名を、竜城がもう一度唇に乗せた時、朱里は何を呟いたのだろう?
 解るのはただ、朱里が藍里を、命をかけて守り抜いた事だけだった。自分よりも何よりも、藍里が大切だった朱里。今ならそれを本当だと思える。
 朱里が処置室にいる間、竜城は藍里と一海から何もかもを聞いていた。藍里の能力も、朱里が隠し続けてきた事も、全て。
 聞いた後、竜城を襲ったのは、言い表しようのない、後悔の渦。

「ずっと、ずっと……辛い思い、させて」

 ごめん、と口にする事は出来なかった。謝る事は簡単だ。しかし、謝って済む事と、済まない事がある。朱里を散々傷付けておいて、今更許されようなんて、虫がいいにも程がある。
 ましてや、今まで朱里の心を決めつけて、本当の朱里と向き合わずにいたのだ。そんな自分を許す事は出来ない。だから、竜城は謝らない。

「朱里……」

 早く目を覚ませ。そして一度だけでいい、お前に向き合うチャンスを、俺にくれ。
 また傷付けてしまうかも知れないけれど。逃げてしまうかも知れないけれど。
 いつか、お前の凍り付いてしまった心に、優しい炎を灯せるように。
 自虐的な言葉を、お前が使わずに済むように、努力するから。
 だから、生きてくれ─────……。

 強く、そう思った。心の声が、朱里に届くように願いを込めて。
 コンコン、とドアがノックされた。返事をすると、ドアが静かに開けられる。奎吾だ。

「父さん……」
「まだ、目は覚めないか」
「うん……。朱里を診たの、父さんだって? ……教えてくれたら良かったのに」

 朱里が病気を抱えている事を知っていれば少なくとも、朱里の体調を気にかける事が出来たのに。

「医者には守秘義務があるの、解ってるだろ。それに……朱里ちゃんが望まなかった」

 薬も、治療も拒んだ朱里。そんな哀しい選択をさせたのは、竜城だ。
 ベッドに横たわる、蒼白い顔の朱里を見つめる。微かに聞こえる呼吸の音が、朱里が今、確かに生きている証。

「……このまま、泊まるか?」

 朱里の目が覚めるまで、傍に付いているかと聞かれたけれど、竜城は否と答えた。

「きっと、藍里がおじさんとおばさんを連れてくる。俺は……家族じゃないから」

 ただの、幼なじみだ。いや、既に赤の他人だろう。何しろ、幼なじみなど名ばかりだったのだから。

「だけど、朱里が守りたかったのは、間違いなくあなたと、藍里よ?」

 突然聞こえてきた声に、竜城も、奎吾も驚いて振り返った。


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