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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【17】 声

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『呼ばないで。私の存在は、もう……』



「真っ暗……」

 朱里は、暗闇の中を歩いていた。死んだはずのこの身は、何故こんな所を歩いているのだろうかと考えながら。
 藍里は無事なはずだ。竜城も。朱里が倒れた時見た光景が、夢でなければ。
 あと朱里がすべき事は、死への道を歩くだけ。

「それでいいの?」

 不意に、幼い声が聞こえた。暗闇の中に、ポウッと光が現れる。人の形に変わっていく。

「本当に、それでいいの?」

 自分の幼い頃そのままの姿が、淋しげな顔で朱里に問いかけてくる。まるで、朱里の心を読んだかのように。

「そうだよ。だって、私はあなただもの。あなたの心だもの。あなたがずっと昔に捨ててしまった心。ううん、ずっとずっと隠し続けてきた心が、私なの」

 もう一度聞くよ? と、少女は苦しげに訊ねてきた。

「本当に、このまま、死んでしまってもいいの……?」

 幼い自分の姿を象った少女に、朱里は柔らかな微笑みを返した。

「いいの。私がいなくなれば、全部終わる……。私にそれ以上の望みなんて、ないわ」

 やっと訪れてくれた安息。命が尽きる事で、彼らに対する贖罪になる。
 このまま歩き続ければ、いつかは出口が見えてくるだろうか。天国か、地獄か。今まで彼らを苦しめてきたのに、天国になど行けるはずもないと自嘲する。

「でも……呼んでるよ?」
「え?」
「ほら。聞こえるでしょう?」

 暗闇の中に、微かに響く、音。不明瞭だったその音は、何度も同じ言葉を繰り返しているようだった。

────あ……り、ちゃ……。
────……かり。

「……う、そ……」
「嘘じゃないよ」
「嘘よ!」

 その音が、その言葉を紡ぐ声が誰の物なのかを知った瞬間、朱里は両耳を塞いだ。地にしゃがみ込んで、身体さえも丸くして。

「いや……聞きたくない」

 たった一人の、妹の声。大切で、特別な彼の声。誰よりも守りたかった2人の声が、朱里の名を呼ぶ。
 たった一度。一度だけで良かった。最期の夢が叶うなら、それだけでいいと決めたはずなのに。

────朱里ちゃんっ。
────朱里っ。

 何度も何度も、反響するかのように暗闇の空間に届く声。

「呼ばないで!」

 もう、戻れない。否、戻りたくない。存在すら消されてきた朱里が戻る場所など、どこにもない。朱里の名すら、もうすぐ消える。それなのに……。

「呼ばないで……今更……っ」
「違うよ。存在を消してきたのは、あなた自身でしょ?」

 少女が、穏やかな声で問いかけてくる。言葉の内容とは裏腹に、その声は、とても優しい。

「本当は、いつだってあなたの存在を確かな物にする事は出来たんだよ。人に拒絶されてきたんじゃない。あなたが、拒絶してたんだよ、他人を」
「ちが……」

 言葉にしかけて、朱里は黙った。その通りだった。
 本当なら無条件で受け入れてくれるはずの両親に拒絶され、妹は怯えて瞳さえ合わせず、幼馴染みには化け物呼ばわりされて。
 そんな人間を、誰が受け入れてくれる? ずっと、そう考えてきた。
 けれど、朱里さえその気になれば、友達なんていくらでも作れた。
 孤独を選んでいたのは、朱里自身だったのだ─────……。

「……悪い事じゃないよ? そうする事でしか、あなたは自分を守れなかったんだもん。自分がとても弱い事を知っていたから」
「……そうよ……」

 傷付くのが怖くて、受け入れられないのが怖くて、それならいっそ、最初から関わらなければいいと思って……。ずっと、孤独ひとりで。
 強くなんかない。傷付かないはずがない。「淋しい」も「苦しい」も、いつだって心の奥底にあった。だけどそれを表に出す事は出来なくて。
「淋しい」と泣いても、誰も朱里を温めてはくれない。
「苦しい」と叫んでも、胸に刺さる棘を抜いてくれる人はいない。
 だから、朱里は自分を守る方法として、孤独を選んだのだ。

────朱里ちゃん……!
────朱里……!

 繰り返し繰り返し、呼びかけてくる声。

「ねえ? こんなに呼んでるのに、それでもあなたは、このまま進むの……?」

 少女の問いに、朱里は答えられなかった。


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