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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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SS 「氷の檻に包まれて」

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#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題 「覚めない夢」です。

ファンタジーで、1600字程度です。



「チェルシー逃げろ!」
 魔法で背後の壁に大穴を開けたディーンの言葉に、チェルシーは頷く間さえ惜しいかのように、未だ砂煙が立ち上る大穴へと走り出す。けれど、その砂煙が消えた向こうには、何十人もの神官と、魔法師と、騎士。
「無駄な抵抗はせぬ事だ、チェルシー・カラルド」
「……っ」
 これだけの人数を突破することは不可能に近い。
「大人しくしろ!」
「くそ……っ!」
「ディーン!」
 騎士の野太い声が聞こえて、疲れ果てたディーンの声が、聞こえて。
 振り向いたチェルシーが見たのは、魔封じの印を額に施された、愛しき人の姿だった。
「ごめん、……チェルシー」
 泣きそうな顔で、それでもチェルシーに笑いかけるディーンに、チェルシーは首を横に振る。
 あなたが謝ることじゃない。謝らなくてはならないとすれば、むしろそれは、チェルシーの方なのに。
 見つめ会う二人の雰囲気を壊すかのように、威厳に満ちた声が、優しく響いた。
「そなたのふさわしき場所へ導こう。次代の結界を担いし巫女よ」
 巫女? 誰が、巫女だというのだ。
 生まれた瞬間に、災禍を招く子供として託宣を受けて。ずっと――――17年間ずっと、この窓のない塔の中に閉じ込められて。唯一救われる方法は、神に祈りを捧げ続けることだけ。
「災禍を招く子供が、巫女になれるはずないでしょう!?」
「託宣そのものが、偽りだったのだ」
「え……」
 一度しか会ったことのない、神官長が。厳かな声で、告げた。
「この子は神に仕えし者。穢れに決して触れさせてはならぬ、とな」
 だから、災いを運ぶと嘘をつき、この塔に隔離して。
 いずれ、この国が人々の心の穢れによって、光では打ち払えぬ闇に染まった時にこそ。チェルシーを生け贄とした結界を築き、国に平和と安定をもたらすだろう、と。
「そ、んな……」
 ただ、それだけの為に。この国の闇を払う結界の巫女として育てるためだけに、チェルシーは孤独の中にいたのか。人の温もりさえ知らず、どこにも行けぬように手足に枷を嵌められて。
 一生を神に仕えよと言われ続けたこれまでの人生で、安らぎと言えば、チェルシーを初めて「少女」として扱ってくれたディーンと共にある時だけだった。
「この国は、もう、闇に染まりすぎている。……人々の心の穢れが、神の力を弱めている」
「そのすべての浄化のために――――」
 無言で、杖を向けられる。何の魔法が来るのかと、身構えた瞬間。
「チェルシー逃げろ! 足元が!」
 暗くて良く見えない。その事が仇となったことに気づいたのは、ディーンに名を呼ばれた直後だった。
 地面につけた足が、動かない。途端、踝に感じた痛いほどの冷たさに息をのんだ。
「……何、これ……っ」
 ぴし、ぴし。ぱきん。ふくらはぎが、膝が、ゆっくりと。
 透明な氷に、覆われていく。
「結界の巫女よ、氷の中で幸せな夢を見よ」
 その夢が幸せであればある程、この国は平和であれる。
「いや……いやぁ……っ!」
 どうして、こんな目に遭わなければならないの。
 どうして私なの。どうして……。
 頬を伝い落ちる涙さえ、氷の粒と化していく。
「また、一人になるの……?」
 やっと、一人じゃないと思えたのに。ディーンと出会えて、この世界に一人きりだという孤独から、逃れられたのに。
 やはり、夢でしかなかったのか。夢はいつか、覚めるものだから。
 止めどなく溢れる涙。凍る前にその涙は、優しい温もりに拭われた。
「……一人には、させない」
「ディーン……。え!?」
 腰まで氷に包まれてしまったチェルシーの体を、背後から抱き締める、二本の腕。
「お前を泣かせたままじゃ、幸せな夢は見られない。だろ?」
 苦笑するような声音が、チェルシーの耳元で優しく囁いて。彼女を抱き締める腕の力が、強くなる。
 その腕にしがみつくように、チェルシーが手を添えると。
「……一緒に、幸せな夢を、見よう」
「……ありがと……」

*****

「チェルシー様、今日も笑ってるね」
「ディーン様と一緒だもの」
 限りなく透明な氷の檻の中で。彼女は決して覚めない夢を――――。
 幸せな夢を、見続ける。

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