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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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SS 「風邪引きさんと憧れの」

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#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題 「風邪/憧れの」

現代もので2000字程度です。


「あ~……やっぱり」
 道理で体が熱いはずだ。38度という数字を見て、智樹ともきはますます熱が上がったように錯覚する。
 体温計を持ったままの手を、パタン、と毛布の上に落とし、熱が混じった息を吐く。
「薬……あったっけ……?」
 言いながら、薬のある場所を考えるも、熱でぼやけた頭では思い出せない。ならば体を動かして、多分置いてあるであろう場所へ移動しようにも、体が怠くて動いてくれない。
 もう、何もかもが億劫だ。
 とりあえずは寝よう、そうしよう。とばかりに、横向きになって毛布を頭から被った瞬間。
 がちゃり、と玄関の鍵が開く音が耳に届いて、智樹は思わず体を強ばらせる。この部屋はオートロック、鍵番号を知っているのは家族と、ただ一人だけ。
「智樹、入るよ?」
 こん、とノックの音が一回。開かれた扉の向こうには、予想通りの顔があった。
「……お前、来るなって言ったのに……」
「以前そうしたら悪化させて、一週間も休んだじゃない。いつもならそれでもいいけど、今の時期にそれやったら後から大変よ?」
 そう、今は大学の前期試験期間の直前なのだ。もちろん後から追試も可能だろうが、確実に夏休みの何日かは潰れることになる。
「だから、栄養あるもの食べて、とっとと治しなさい」
 恐らくは、ここに来る途中で買い物をして来たのだろう。エコバッグを見せつけた恋人・映夕はゆは、まるで子供にするかのように智樹の額を撫でて、にこりと笑った。
「智樹の好きなゼリーも、買ってきたよ。食べる?」
「食べる……」
 もぞもぞと毛布から抜け出して、映夕が蓋を開けてくれたゼリーを受け取ろうとすると。
「はい、あーん」
「!?」
 さりげなく差し出されたスプーンに乗っている、ぷるぷるのみかんゼリー。早く、と告げるその声が、これ以上ないほど楽しげだ。
「で、出来るか、バカっ」
 子供の頃ならいざ知らず。いくら恋人とは言っても、そんな甘えたことが出来るかと、智樹は顔を背ける。けれど、それを追いかけるように、映夕が持つスプーンが追いかけてきた。
「えー、だって。熱で体辛いんでしょ? 毛布にこぼしたら洗うの大変だし!」
「映夕お前、単にやりたいだけだろ!?」
 いいからそれ寄越せ、と伸ばした腕も、元気な映夕は見事に避けた。
「ふふふ~、こんなに弱ってる智樹、滅多に見られないしね!」
 それに、ちょっとだけ憧れもあったのだ。智樹には言わないけれど、風邪を引いた彼氏を見舞いに来て、そして食べさせてあげるという、ちょっと少女漫画みたいな展開に。
「ほら、早く~」
 他の食材も、冷蔵庫に入れなきゃなんだから。と、映夕が笑うと。ようやく観念したのか、智樹の顔が映夕に向き直り。
 無言のままに、ゼリーに口をつけた。
「え……」
「後は勝手に食うから寄越せ」
「あーんって言ってないよ~!」
「言えるかっ! ……つーか熱あるんだから、消耗させんなよ……」
 また熱が上がってきたような気がして、智樹はそのままベッドに倒れた。
「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫だったら今頃お前をベッドに引きずり込んでる」
「な……っ!」
「湯タンポがわりにちょーど良さそうだし?」
 に、と口の端だけをあげて笑いながら告げるその声は、意地悪そのもので。わざと映夕が勘違いするような言葉を選ぶぐらいの元気はあるらしい。
「あれ? 顔赤いぞ、映夕チャン?」
「し、知らないっ! お、お粥作るからねっ!」
 慌てたように買い物袋を持って立ち上がる映夕の、黒髪の隙間から覗く耳までが真っ赤になっているのを見て、智樹は口にゼリーを運びながら言葉を投げた。
「映夕~?」
「なに」
「ねぎと生姜入れてくれる?」
「……はいはい」
 買ってきた材料の中に、ネギも生姜も入っているから大丈夫。と、髪を一つに結いながらキッチンへと向かう背中に、再度。
「映夕」
「ん? 他に何か入れたい?」
「さっきみたいなのはさ。……家族が出来たら、やってやれよ」
「……え……」
 さっきみたいなの? 家族が出来たら?
 智樹の言葉の意味を掴みかねて、振り向くと。智樹が持つゼリーはいつの間にか最後の一口になっていた。
「きっと俺なんかより、可愛いからさ」
 その、言葉の、意味を。考えると、どうしても。
 映夕の都合のいいように考えてしまう。
 智樹と、映夕と。そしてその間にいる幼子という、未来を。
「あー……。悪い、熱で今おかしいからさ、俺」
「智樹」
「忘れていいから」
 ごちそーさん、出来たら起こして。と。
 誤魔化すように毛布を頭から被った智樹を見て、映夕は。
「やぁだよ」
 忘れない。例え熱でおかしくなっていたのだとしても。
 未来を考えてくれたことが、嬉しいから。
 微笑みながら、映夕はまな板と包丁を取り出して、彼のための料理を作り始めた。

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