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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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SS 「波音に耳を傾けて」

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#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題 「海/オルゴール/君の声」です。

現代物、ちょっと切なめ(いつもか)。1600字程度です。


 ザ……ザザ……ン……。寄せては返す波の音に、耳を澄ます。
 波の音は、心が落ち着く。先程まで苛立っていた心が、嘘のように引いていく。
 瞳を閉じて。この広大な海から風が運んでくる潮の匂いをゆっくりと吸い込んで。波の音に呼吸を合わせて。
「……海、入りたいなぁ」
 水着を持ってくれば良かったと悔やんでも、もう遅い。そもそも、ここに来る予定さえなかったのだから。
「勝手だよ、みんな……」
 両腕で膝を抱えて、そこに顎をのせて。ぽつり、淋しげに呟いた有紗ありさのすぐ傍で、砂を踏む音が聞こえた。
「だからって、勝手にホテル抜けだして、一人でこんなとこにいる方が問題だと思うけど?」
「……は……春翔はると……っ!?」
「そ、俺」
 まだ夏も始まったばかりだと言うのに、見事に日焼けした春翔が、有紗の前でにこりと笑った。
「な、な……っ!?」
「別に驚くことないだろ、ここは俺にとっても地元なんだからさ」
「そうじゃなくて!」
 どうして有紗がここにいることを知っているのか。問いかけたいのに、驚きのせいで唇が言葉を紡いでくれない。
佳珠かずから連絡来たんだよ」
 ほら、と見せられたのは、スマホの画面。LINEのやり取りの最後には、『有紗がご機嫌損ねて逃げたから、フォローよろしく』の文字だった。
「……で? 何拗ねてんだよ?」
「……別に」
「なるほど、うまく言えないわけか」
「解ったように言わないでよ」
 春翔なんかに有紗の気持ちが解るわけがない。そんな風に思う反面、春翔なら解って当然だとも思ってしまう。
 どんなに遠くても。どんなに離れていても。春翔と有紗を繋ぐ絆は、変わらないから。
「曲、出したくないって、ごねたんだって?」
「だって、あの曲は」
 再来月にリリースが決まってしまったあの曲は、目の前にいる春翔と――――。
「……そっか。真那まなにあげた曲、か」
 そう。この海に消えてしまった彼女にあげた曲。大切な親友だったのに、どうして。海の事故などで、儚くなってしまったのだろう。
「歌えないよ……」
 明るく優しい、恋の歌なんて。大好きな真那がいないのに。
「あの曲は、真那と春翔だけのものなのに」
 なのに、どうして。発売することになってしまったのだろう。多少のアレンジは加えられる、それは解ってる。だけど。
 気持ちが、ついていかない――――。
「……ならさ、真那に聞いてみろよ」
「聞けるわけないじゃない」
「聞けるよ。……真那はいつだって、歌ってる」
 そうして春翔が指差すのは、目の前に広がる広大な海。
 海に消えた彼女だから。海が大好きだった彼女だから、きっと。
「波に合わせて、歌ってるよ」
 絶え間なく耳に届く、優しい小波。時には荒れて、大声で歌い出すけれど。今日はとても、とても凪いだ海。
「……この、ポエム男」
「そんな奴に歌詞書かせてるのはどこの誰だよ」
 ぽん、と頭を撫でられて。有紗はゆっくりと立ち上がる。
「真那……」
 答えて、くれる? 私の胸の葛藤に、終止符を、答えをくれる?
 一歩、二歩、歩いて。波打ち際まで足を進め、ミュールを履いたまま、踝までが水に浸かり。そこで有紗は、両手を広げた。
 この広大な海を抱き締めるように。
 すぅ、と息を吸い込んで、瞳を閉じて。
 ゆっくりと、歌い出す――――。
 かつて有紗が曲を作り、春翔が歌詞をつけた最初の歌。真那が笑って聞いてくれた、最後の歌を。
 オルゴールのように透き通った有紗の声。高校の頃はずっと、傍で聞いていた優しい音。それを春翔は、瞳を閉じて聞いていた。
(真那は、許すよ)
 きっと、この曲が自分だけのものであるよりも、たくさんの人に聞いてもらえる方が、真那も喜ぶ。
 彼女は、そういう人間だったから。
「……答えてくれたか?」
 一曲丸ごとを歌い終えた有紗に、問いかけると。
「うん」
 聞こえたよ、真那の声。
 穏やかな歌声。まるで有紗の声に合わせるかのような、少しだけ切ない波の音が。
 そんな事は有り得ないと、解っているけれど。
「でも、春翔」
「ん?」
「ちょっとだけ、歌詞、変えたい」
 全部、まるごと、このままの歌詞にはしたくない。
「……了解」
 その答えを知っていたかのように、春翔は夏の太陽みたいに笑った。


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