Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

桜涙【16】 決意

目次へ  一次創作Index

『優しい声も、腕も、あの微笑みも、全部消えるの……?』



「東堂先生、これは!?」
「狭心症……いえ、悪ければ心筋梗塞の疑いがあります。すみませんが、池上と一緒に救急車に乗っていって貰えますか? 俺は藍里……仁科の妹と一緒に車で追いかけます」

 一海のその言葉に、藍里は真っ先に反論した。

「どうして!? 一海お兄ちゃん、朱里ちゃんの家族は私だよ! 私も一緒に救急車に乗る!」
「黙れ! 今まで朱里をほっといた奴が、今更家族面するなっ!」

 その言葉に、藍里は思わず息を呑み、身を竦ませた。こんな険しい顔をした一海を、藍里は知らない。それだけ、朱里の身を心配して……そして、藍里に怒っているのだろう。
 茫然としたまま、竜城と保健医が救急車に乗るのを見送ると、一海に強く腕を引かれた。

「急ぐぞ」

 半ば強引に走らされ、駐車場までたどり着くと、一海は藍里を助手席に放り込んだ。物言わぬまま運転席に周り、もどかしそうにエンジンをかけ、車を発進させる。
 藍里は、何も言えなかった。一海が怒っているのは雰囲気で解っていたから、神経を逆撫でしたくなかった。

「……さっき、怒鳴ったりして悪かったな」

 車を運転する事で冷静さを取り戻したのか、先程よりも穏やかな声で、一海が藍里に話しかけてきた。

「びっくりしただろ?」

 一海の言葉に、藍里は一度コクンと頷いて、そして小さく首を横に振った。

「一海お兄ちゃんの言う通りだよ……。今更、私が朱里ちゃんの家族だなんて言う資格、ないよね……」

 今まで朱里を一人きりでいさせた藍里が、家族だなんて言えない。言えるはずがない。
 でも、血の上では確かに家族だ。彼女は藍里の姉で、そして自分の半身でもあり、きっと、自分自身────。

「でもね、私……」
「藍里。お前はどうしたい?」

 言葉を遮られて届いた一海の声に、藍里は「え?」と訊ね返す。

「朱里に、生きていて欲しいか? その代わり、お前はこれから一生、その能力と付き合っていかなきゃならない。朱里がこのまま死ねば、お前の能力も消える。ちなみに、朱里が望んでるのは後者だ」

 藍里ではなく、朱里自身が死ぬ事を望んでいる。そう聞かされて、藍里は愕然とした。

「ちょ、待って! 朱里ちゃん、そんなに危ないの!? ただ気絶したとか、そういう……」

 言葉は、途中で途切れた。一海の顔の真剣さが、藍里の求める答えを物語っている。

「2週間前、俺がお前の家に行った時、朱里はベッドの上で苦しげに蹲ってた。慌てて病院に連れて行って、下された診断は、狭心症。何の治療もしなければ、心筋梗塞になってもおかしくない」
「薬は?」
「俺達と一緒に暮らしていた時に、薬は持たせたけど……飲んでなかった」
「どうして……だって、朱里ちゃんの能力なら、病気になんてなるはずがないのに!」
「そんなわけないだろう。朱里の能力にだって限界はある。それに……そうなったのは、あいつがお前の能力を鎮め続けてきたからだ」

 そして、藍里は、自分が発熱するわけを知った。翌日にはけろりと治っていたのも、全ては朱里が治してくれていたおかげ。

「お前の能力を鎮める度に、朱里の身体は蝕まれて……。なのに、朱里は病気を知った時、薬も、手術も拒んだ。……あいつは、自分の命よりも藍里、お前を選んだんだ」

 朱里はずっと、その選択肢の中で生きてきた──────。
 朱里が藍里を殺せば、朱里は助かる。けれど、一生の後悔が必ず付き纏う。
 朱里が自分自身を傷付け、命を投げ出せば、藍里は助かる。けれど、自ら命を絶つ覚悟さえ出来なくて。
 そして朱里が選んだのは、寿命という名の安息。彼女以外、誰も犠牲の出ない、最後の選択肢。否、朱里が進んで選んだのではない。
 選ばせたのだ。藍里や、竜城や……朱里の知る、小さな世界の住人達が。
 化け物と、人ならざる者と呼んで、消滅を選ばせた。
 それはとても優しくて、哀しい選択────。

『もう、こんな怖い思い、しなくて良くなるから……』

 あの時の、優しい声。力強く、暖かく包んでくれた腕。藍里の問いを否定した時に見せてくれた、微かな笑顔。全てが─────消えてしまう……?

「やだ……」

 ぽつり、と呟く。

「やだよ、朱里ちゃんが死んじゃうなんてやだ!」
「……朱里が死ねば、お前はその能力と付き合わなくていいんだぞ?」

 藍里の能力。朱里とは違い、ただ破壊するだけの能力。暴走した時、10年前の事も思い出した。あれも藍里がやった事だ。その能力を自覚してしまった今、無くなればいいとも願う。でも、それよりも今の藍里には、もっと大切な事がある。

「……怖いよ。怖いけど……無くなればいいって思うけど! でも、でも朱里ちゃんがいなくなる事の方が怖い!」

 一時の感情かも知れない。本当に朱里が生き延びて、そして藍里の目の前に現れたら……また逃げてしまうかも知れない。傷付けてしまうかも知れない。

「だけど、逃げないように……朱里ちゃんを傷付けないように、努力する事は出来るよ」

 朱里は藍里を守ってくれた。朱里を化け物だというのなら、藍里とてそうだ。

「……ダメ、かな……?」

 こんな答えでは、一海は納得してくれないかも知れない。そう思って、運転席に座る一海の顔をそろそろと見上げると、彼は「よしっ」と笑った。

「え?」
「今はそれで充分だ。お前は朱里に生きていて欲しい。それで、いいんだな?」

 念を押すような一海の声に、藍里は力強く頷いた。


【15】へ← 目次 →【17】へ 
スポンサーサイト

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

琳架

Author:琳架

web拍手 by FC2

 ↑ 9/1変更 (全6種)
 桜涙・雨弓・明陽
 図書戦・LOVE SO LIFE・ヨナ
  ※携帯版が確認出来ないので、こちらに統合しました。

Twitter・SS専用アカウント→ @sakuraironoyoru

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

カレンダー

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

最新記事

検索フォーム

月別アーカイブ

西暦をクリックして下さい。

カウンター

FC2ブログランキング

ランキングに参加しています。

FC2Blog Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。