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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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SS 「紫陽花の傍で」

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#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題 「紫陽花」です。

年の差恋愛もの……? 1600字程度です。

 

 朝の雨の名残か、きらきらと雫が光る青紫色の紫陽花をスケッチしながら、可奈はにこぉ、と、笑った。
(うぅ~……美味しそう……)
 6月限定の、紫陽花をかたどった和菓子を思い出す。両親が和菓子店を営んでいる影響で、甘い物に目がない可奈は、とうとうスケッチの手を止めてしまった。
「こら、安西。手が止まってる」
「うあっ、はいっ! ごめんなさい!」
 こつん、と軽い拳が頭の上から振ってきて、可奈は慌てて鉛筆をスケッチブックに走らせる。そのまま場を移すかと思いきや、可奈の頭に拳を振らせたその男は、可奈の隣にどさりと腰を下ろした。
「……他の生徒のトコ、回らなくて良いんですか?」
「いや、さすが可奈ちゃん。良いとこに場所取ったなと思ってさ」
 人目につかないし、その割に景色は良いし。そう呟く彼は、彼女を名字ではなく名で呼んだ。だから可奈も、「生徒」としての立場を崩し、視線を紫陽花に向けながら、彼の「名」を呼んだ。
「真澄くん、サボってて良いの?」
「教育実習生にも息抜きは必要、だよ」
 それに、甘い物もね。と、ポケットから真澄が取り出したのは、イチゴミルクの飴玉だった。
「……不良教師」
「まだ教師じゃないし。ただの大学生だし」
「和菓子がだーい好きな、超甘党のね」
「そんな事言うと、飴、あげないぞ」
 ほれ。と、包装紙を剥がした飴玉を口元に当てられて、可奈は思わず唇を開いた。
 押し込まれるイチゴミルク。瞬間、指先がそっと可奈の唇を撫でていったけれど、それは気のせいで済ませられるくらいの触れ合いで。
 ここは学校だから。真澄は教員資格を取る為の教育実習の真っ最中で、可奈はその彼の授業を受けている一生徒でしかない空間。
 けれど、今だけは……誰も人がいないここでなら。
「……あの紫陽花、美味しそうだな」
「……真澄くんならそういうと思った」
「どーせ可奈ちゃんだってそう思ってたんだろ?」
 この時期、和菓子店には紫陽花の色彩が溢れている。寒天で作られた花の形、かたつむりまでが和菓子になっていたりもする。
(最初は真澄くん、カタツムリ食べるの怖いって言ってたよね)
 別に本物なわけではないし、実際かたどるのはカタツムリの殻の部分だけなのだが、最初はあまりにリアルに作りすぎた為、不評だったのを覚えている。
 大西真澄。彼は可奈の家の和菓子店に、良くお使いに来る年上の少年だった。真澄の祖母が、甘い物が大好きで。子供の頃から家の手伝いと称して売り子をしていた可奈と真澄が仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。
「教育実習、……もうすぐ終わりだね」
「ん? うん」
 いつもは、店でしか会えないはずの彼と、こうして学校で会える時間が出来るなんて思いもしなかったから、この時間が終わってしまう事が、少し淋しい。
 真澄の教育実習が終わったとしても、彼はいつも通りに店にやってくるだろうし、会えなくなる訳ではないと思うけれど。
「また手が止まってる」
「真澄くんがここにいるからだよ~」
「俺のせいじゃなくて、可奈ちゃんの集中力が足りないだけ」
「むー。そんな事言うなら、今日は残り物、全部私が食べちゃうからっ」
「うわ、俺の楽しみを奪う気かー?」
 教育実習生とはいえ、たくさんの生徒を相手にするのはやはり疲れるのか、彼は帰り際に店に寄り、余り物の和菓子を買って帰る。甘い物なら何でも大好きな彼は、それで一日の疲れを癒しているらしい。
「意地悪な真澄くんなんか、甘い物断ちして疲れちゃえばいーんだ」
「へーぇ?」
 不意に、真澄の声音が低くなって。怒らせてしまったかと、恐る恐る顔を向かい合わせた瞬間。
「……っ!?」
 触れた、唇。彼もイチゴミルクを舐めていたからか、ほんのり甘酸っぱいイチゴの匂いが、鼻をくすぐって。
「その時は、可奈ちゃんに癒してもらうから別にいーけど?」
「なっ、何馬鹿言って……! っていうかここガッコ……!」
「大丈夫、大丈夫」
 大丈夫じゃない、と言おうとした言葉は、また触れてきた唇に塞がれて。
 青紫色の紫陽花だけが、二人を見ていた。


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