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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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SS 「黙らせる方法」

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Twitterでの企画に参加してみました!
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負 5/20開催分より
お題『君の声は有料』 をお借りしました。

それでは、どうぞ。


煌太こうた!」
 その名を呼べば、少し茶色の髪がさらりと揺れて、振り返る。紗知さちは、この瞬間が好きだ。
 煌太が笑って、紗知を見てくれるから。
「やっと追い付いた! おはよっ」
 笑顔で紡ぐ挨拶に、煌太も笑顔のままこくりと頷く。そのまま鞄からスマホを取り出そうとする煌太の手を、紗知は包み込んで止めた。
「歩きスマホは危ないから、教室行ってから、ね?」
 煌太を見上げながらそう笑えば、ぽん、と大きな手が紗知の頭を撫でる。まるで、ありがとう、と告げるかのように。
 指先でそっと髪を梳られて、紗知の頬はほんの少し、朱に染まった。
(……煌太の声、忘れちゃったよ)
 かつては元気にはしゃいでいた煌太の声は、今は聞こえない。とある事故のショックで、彼はずっと言葉を封じたまま。
 きっともう、声変わりして、紗知が知っている以前の煌太の声とは違うものになっていると思うけれど。
 それでも、精神的なものが原因なら、いつかまた聞けるかなと、淡い期待を抱きながら、紗知は彼の傍にいる。
「ね、煌太」
「?」 
「あのね、今日ね」
 と、煌太の前に回り込んで、紗知が後ろ向きに歩いていた時。真横から突然、自転車が飛び出してきて。
「っ、さち……っ!」
 掠れた声が、耳に届いたと思ったら、紗知の視界は暗転した。

*****

「ん……?」
 消毒液の匂いと、真っ白な天井。瞳の先にあったのは、ホッと安堵した表情の、煌太。
「こうた……?」
 彼は、片手でスマホを操作して、いつものように画面を紗知に見せる。
『自転車にぶつかったの、覚えてる? たんこぶ出来てるけど、軽い脳震盪だって』
「脳震盪……?」
 なら、あれも、夢……? 煌太が、紗知の名前を呼んだ、なんて――――。
 けれど、あの場で紗知を名前で呼べるのは、煌太だけだったはず、で。
「煌太……?」
「?」
 こてん、と小首を傾げるその様は、いつもと変わらないけれど。何故か瞳が、紗知をじっと見つめていた。
「あの時、……私の名前、呼んだ……?」
 聞きなれぬ声。でも、名を呼んだその口調は。「紗知」ではなく、子供のように「さち」と柔らかく呼ぶその口調は、かつて紗知が身近で聞いていたものだった。
 どんな変化も見逃さない、とばかりに、紗知は煌太を見つめて。煌太は、フッと相好を崩すと、自らの喉に手を当てた。
「……まだ、掠れるんだけど、ね」
 いつのまにか、変声期を終えていた煌太の声は、覚えているよりもずっと低い。
「思わず、さちの名前、呼んじゃった」
「……っ!」
 掠れる声。その声音で、名前を呼ばれて。紗知は薄い毛布を顔まで引き上げて身を隠した。
「……何してるの、さち?」
「さ、さちって呼ばないで……!」
 どうしてだろう。心臓の鼓動が速い。
(だ、だって……!)
 突然、煌太が大人の男の人になったみたいで。声以外は、いつもの煌太と変わらないはずなのに。
 どくん、どくん、と、鼓動の音が耳につく。
「さーち」
「!?」
 ぎしっ、と寝台が軋む音。薄い毛布越しに聞こえた、どこか楽しむような声音。
「こ、煌太の声……っ! 聞き慣れないから、心臓に悪いっ!」
「……へぇ?」
「し、しばらくは喋らないで……!」
 少しずつ、慣れるように努力するから、と、言いながら、毛布から顔を出すと。思った以上に近かった、彼との距離。
「喋ったら、どーするの?」
「私がいいっていう前に喋ったら、ジュースおごってもらう!」
 咄嗟に考えた、口実に。煌太はフッとどこか意地悪な笑みを覗かせて。
「俺の声、有料?」
「む、無料にしたら私の心臓もたないもの!」
 今、名前を呼ばれただけで。間近で聞いているだけで、ドキドキとうるさい心臓は、いっそ止まってしまえばいいのにと思うほど。
「……さちなら、一番簡単な方法で俺を黙らせられるのに」
「え?」
 唇に、柔らかな熱を感じたのは、一瞬後。


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