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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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続・桜涙【3】 希望

桜涙 目次へ 一次創作Index

『朱里、お前誤解して』


「……やっぱ珍しいもん見てるような気がする……」
「いい加減慣れたら? 成海くん」

 ぼそり、と背後で聞こえた航平と凪紗の声に、朱里だけではなく、朱里の右隣にいた竜城、左隣にいた藍里も揃って振り返る。

「何か言ったか?」
「ん~。今まではさ、竜城と仁科妹だけだっただろ? だから」
「いーんだよ、これで。朱里、航平の戯言なんて気にしなくていいからな」
「大丈夫よ。そう思うのが普通だもの」

 そう、今まで竜城と藍里、2人だけだった光景に、突然朱里が割り込んでしまった。というか、本当は先に家を出ていたのだけれど、途中で竜城に掴まって、そして回れ右をさせられて。そして「先に行っちゃダメ」と藍里に怒られる。
 登校するようになってから、毎朝毎朝同じ事が繰り返されるので、さすがの朱里も根負けして、藍里と一緒に家を出るようになった。
 それだけではない、凪紗の存在のおかげで、朱里の周りは目まぐるしく変化した。特に、クラスの中では。

『おっはよ、朱里ちゃん!』

 猫を拾った翌日の朝、教室に入って、席に着くまでは今まで通りだった。違ったのは、突然目の前に現れた凪紗が、にっこりと笑って挨拶をしてきたからだ。

『……おはよう?』
『ね、あの子猫、どうなった?』

 クラス中の視線が朱里に集まった。後から凪紗に聞いた事だが、どうやらクラスメイト達には、朱里との会話は成立しないものと思われていたらしい。そして予想に反して朱里が返事をしたものだから、余計に驚いたとも。

『あ、えっと……』
『ん?』

 興味津々で訊ねてくる凪紗に、朱里はどう言葉を紡げばいいのか解らなかった。

『ゆっくりでいいよ?』
『……一応、家で、飼える事になって……でも、名前はまだ決まってなくて』
『そーなんだ。良かったね! でも名前決まらないんだ?』
『……藍里がつけるって張り切ってるんですけど』

 あの様子じゃ、数日はかかりそうです。と、朱里は答えた。すると目の前で凪紗が唸り始める。

『白……白かぁ。あ。ダメだ』
『え?』
『どうしてもホワイトチョコが頭に浮かぶ……っ!』
『国見さんのお家、喫茶店でしたね』

 そう朱里が答えを返した途端、凪紗の顔が、む、と歪んだ。

『国見さん?』
『凪紗、だよ。それから敬語も! 私達同級生なんだよ? 敬語なんて使う必要ないんだからね?』
『……でも』
『いーの! 私も朱里って呼ぼうかな、池上くんみたいに。ダメ?』

 ふるふる、と朱里は反射的に首を横に振っていた。

『良かった』

 ほっ、とした顔で笑う凪紗につられて、朱里も笑った。髪を切った事でよりよく見えたその笑顔に、目を奪われた者は大勢いた、……らしい。
 朱里にしてみれば、今まで存在しないかのように振る舞ってきたのだから、急に注目を浴びてしまっても、困るだけだった。でも……。
 藍里と竜城は昼休みには必ず現れ、朱里を学食に連れて行く。凪紗は凪紗で、ここ数日朱里とばかり行動している。凪紗にだって、友達はいるはずなのに……まるで朱里を、決して一人にはしないかのように。
 一人でいいと思っていた。ずっと……。
 だけど今、誰かが傍にいてくれる事が、朱里の心に温かな光を宿す。それは多分、希望と言う名の未来。
 それを知ってしまったから、朱里から突き放す事は出来なかった。

「ねえ朱里、今日の調理実習で作るお菓子、朱里は池上くんにあげるの?」

 昇降口で藍里や竜城と別れ、凪紗が興味津々の顔で問いかけてきた言葉に、朱里は、え? と訊ね返した。

「あげないわよ、別に」
「えー、どうして?」
「今までだって、あげた事なんてなかったもの。全部自分で食べてたし……」

 調理実習なんて、自炊する為に必要なものでしかなかったから、今更誰かにあげる気など起こらない。

「竜城だって、私から貰っても迷惑なだけよ、きっと」

 竜城には藍里がいる。藍里が朱里の傍にいるから、必然的に竜城もそうしているだけで。
 朱里自身の傍に、竜城がいたいと思うはずがない。

「そうかなぁ? 見てると池上くん、藍里ちゃんより朱里の方気にしてるみたいだけど」
「気のせいよ」

 すっぱりと切り捨てて、朱里は笑った。凪紗はどこか腑に落ちないように首を傾げてから、ドアの開いている教室の中へと入っていった。

「あ、来た来た凪紗! ねぇ、数学の課題やって来た?」
「えっ? あったっけ!?」
「あったのー! 今日絶対当てられるのに~っ」

 教室に入った途端、凪紗の周りには人が集まる。朱里はそっとその輪から離れて、自分の席へと座った。

「朱里っ! 朱里はやって来た? 課題!」
「え? あ、うん、一応……」

 凪紗に聞かれては答えないわけにもいかず、朱里は正直に答えてしまった。

「やった! 仁科さん、写させて~!」
「だめっ。朱里に教えて貰うならまだしも、写すなんて図々しい!」

 パコッ、と凪紗が丸めたノートが、女子生徒の頭を叩いた。

「な、凪紗、叩かなくても……」
「いーの、千郷にはこれぐらいしないと解らないんだから!」

 頭を叩かれた女子生徒・波木千郷が「ひどっ!」と呻いたけれど、凪紗は素知らぬふり。何だか微笑ましくて、思わず口元を緩めた。

「……笑った?」
「え?」
「わぁっ、初めて間近で見た! 仁科さんが笑ったの!」
「え? え?」

 千郷だけではなく、周りに居たクラスメイト達も、何事だと詰め寄ってきて、朱里は思わず後ずさった。といっても、椅子に座っているので僅かに背中を反らしただけだが。

「かわいーっ。ね、もう一回笑ってみて?」
「あ、あの……」

 笑ってみてと言われても……笑い方が解らない。というより、無意識に零れた笑みを、再現出来ようはずもない。

「こーらっ、朱里が困ってるでしょ! いーからとっとと課題写しなさいってば」
「さっきは写すなんて図々しいって言ってたじゃない!」
「人の揚げ足取らないのっ!」
「とりあえず……やるなら早くやらないと、数学の授業までに終わらないんじゃ」

 ぽつり、と呟いた朱里の言葉に、千郷がさっと顔色を変えた。

「でも、答え合ってるかどうかは自信ないんだけど……」
「大丈夫、朱里のなら平気!」
「どんな保証よ、それ……」

 苦笑しながら凪紗を見ると、彼女もしっかりその手に数学のノートを持っていた。

「あ、じゃあ俺も俺も!」
「私もっ! いい?」

 凪紗と千郷だけではなく、クラスの殆どが、すっかり数学の課題の存在を忘れていたようである。一週間前に出された課題では、忘れるのも道理かも知れない。

「ってわけで、朱里、よろしく♪」

 にーっこりと笑った凪紗が目の前に座る。シャープペンシルを握りしめて。

 昼休み、またもや藍里と竜城が迎えに来て、朱里は凪紗と共に学食へと移動していた。今日は航平も一緒で、朱里達の為に席を取っておいてくれたようだ。

「え。朝、そんな事があったの?」

 朱里が作ったお弁当を広げながら、藍里が何故か真剣な顔で訊ねてきた。

「みんな言ってたよー。朱里の教え方は解りやすいって」
「そう?」
「ずっるーい! 朱里ちゃん、今まで私に勉強教えてくれた事なんてないのに!」

 どうやら、真剣な顔をしていたのは、単にむくれていただけらしい。と言っても、朱里には何故藍里がむくれるのかの理由が解らない。

「? 藍里には、竜城がいるでしょ?」

 藍里と同じお弁当を広げ、卵焼きをつまむ。小首を傾げた朱里の言葉に、藍里だけではなく何故か竜城までが口を開いた。

「朱里、お前誤解して」
「竜城ちゃんは怖いんだもんっ」

 竜城よりも、藍里の声の方が大きくて、結局朱里が聞き取れたのは、妹の言葉だけだった。

「えと……竜城は何て言ったの?」
「……いや、いい。ってか藍里、俺が怖いって何だよ! ちゃんと教えてるだろ?」

 小さく溜め息を吐いた竜城の矛先が、今度は藍里に向かった。パスタを搦めていたフォークで、藍里を指す。

「公式だけ教えて、解き方全然教えてくれないじゃない! 一問解くのに30分以上かかったんだよ!?」
「そりゃ単に、お前の理解力が足んないだけ」
「はいはい、夫婦喧嘩はそれぐらいにしてくれ」
「誰が夫婦だっ!」

 ずるずるとうどんを啜る航平に、竜城が怒鳴る。ウーロン茶を飲む凪紗は、くすくすと意味ありげに笑った。

「力一杯否定しなくてもいいと思うなぁ。そんなに誤解されたくない?」
「……解ってるなら止めてくれ、国見」
「やだ。見てる方が楽しいもの」

 あっけらかんと笑った凪紗に、脱力する竜城。藍里はにっこりと笑ったままだし、この会話の内容が解っていないのは、どうやら朱里と航平だけらしい。

「どうしたの、竜城?」
「……何でもない」
「でも……」

 朱里が一緒にいるせいで、竜城を疲れさせているのなら……。
 竜城は優しい。朱里が退院してきてから、ずっと。今までが今までだったから、朱里はまだまだ戸惑う事が多い。
 竜城の心を読む事は簡単だけれど、それをしてしまってはいけない事ぐらい、朱里にだって解る。だから……竜城が言ってくれないと、朱里は彼に甘えたままになってしまう。

「……竜城、無理してない?」
「してないよ、大丈夫」

 いつも藍里にしているからか、竜城の腕が朱里の頭を撫でようと伸びてくる。だけどほんの少しだけ躊躇ったかのようにその腕が止まる。
 ……触れるのが、怖いのだ。そう思って俯きかけたその時、そっと頬に触れる手のひら。

「……そんな顔するな」

 朱里はどんな顔をしていたのだろう。竜城がこんな優しい瞳で見るほど、淋しそうだったのだろうか。

「……ありがとう」
「ん」

 言葉少なに会話をする二人の間に割って入ったのは、呆れたような航平の声。

「竜城、お前……。仁科妹がいるのに」
「だーかーら、俺と藍里は付き合って」
「そーだ朱里ちゃん、もうすぐ中間テストだし、そしたら勉強教えてね?」
「え? あ、うん、いいけど……」

 またもや、竜城の言葉は藍里の声に掻き消された。だが途中まで聞こえた声は確かに、藍里と付き合っていると言っていた。

(邪魔、しないようにしなきゃ……)

 竜城と藍里の優しさに、いつまでも甘えてはいられない。今はきっと、朱里がまだこんな状況に慣れていないから……気にかけて、傍にいてくれるのだと思うから。

 学食を出て、朱里は凪紗と共に教室へと戻っていった。航平は飲み物を買うと自動販売機に走っていき、藍里と2人だけになった竜城は低い声で彼女の名を呼んだ。

「……藍里」
「なぁに?」
「……お前、わざとやってる?」

 じろり、と横目で見ると、藍里は「えへっ」と小さく笑った。

「えへ、じゃないって……」
「だって。朱里ちゃんを独り占め出来なくなっちゃうもん」
「独り占めって……俺は、別に」
「朱里ちゃんに誤解されるの、嫌?」

 今までは、周囲が誤解するままに、藍里と付き合っているなどという噂を否定せずにきたけれど、それで朱里の傍にいられなくなるのは、嫌だった。
 例え竜城が藍里ではなく朱里の傍にいたとしても、周囲からは「藍里が居るのに」と言われてしまうだろう。先程の航平のように。
 藍里の問いには答えずに、竜城は小さくため息をついた。

「未だに、俺達が付き合ってるって信じ込んでるヤツの方が多いからなぁ。特に、同じ中学の奴ら」
「ん~、面倒だったから、今まで否定しないで来ちゃったしね。……というか、今更否定しても何も変わらないような気がするんだけど」
「……俺もそう思う」

 否定しても「照れてる?」と結論付けられるし、肯定すれば言わずもがなだ。

「でもさ、朱里ちゃんだって解ってると思うよ? 竜城ちゃんが私の傍にいたのは、私を朱里ちゃんから遠ざける為だったって事くらい」
「……そーだといーけど」

 あの日、眠る朱里を前にして誓った想いは、未だ胸の中にある。
 竜城の行動で、朱里が自虐的な思いを抱かぬように。
 傍にいることで、少しでも温もりを与えられるように。


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