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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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震災SS 「失ったもの、そして、得たもの」

TOPへ 東日本大震災と福島第一原発事故 目次

【注意!!】
 震災から5年。区切りとして、書きたかっただけのお話です。
 このままこのブログを続けるにしても、やめるにしても。震災を題材にしたSSを書くのは、今年で終わろうと思います。
 いい加減にしろと思われる方、ご不快になられる方もいらっしゃると思います。
 お嫌な方はこのままトップページにお戻りください。



 2016年3月11日、金曜日。今日は、5年前のあの日と、同じ曜日。
 14時46分。その時間に、地元ではまた、黙祷を知らせるためのサイレンが鳴り響いた。彼も、彼女も、仕事の手を休めて、黙祷を捧げた。
 亡くなってしまった人々へ。未だ行方不明の方々が家族の元へ還れますように、と。

「もう5年、か……」

 早いなぁ。しみじみと呟く彼に、隣を歩く彼女はクスクスと笑った。

「何だか急に年取ったみたいだよ?」
「失礼な。俺はお前と同い年だっつーの。ただ」
「……うん。解ってるよ」

 解ってる。言葉と同時に、彼女は彼の手をきゅっと強く握りしめた。

「ふふっ、良かった」
「ん?」
「キミが、『もう5年』って、言えるようになったから」
「あ……」

 そうだ。少し前までは、『まだ』だった。その言葉は、彼の気持ちが少しでも昇華したことを示していた。

 あれから、もう、5年――――。
 地震や津波で壊れた家が建つ中で、原発事故の避難区域では帰る事も出来ず。仮設住宅は未だに取り壊すことも出来ずにいる。
 道路から見えていた綺麗な海は、高い堤防に阻まれてしまって、登らなければ目にすることは出来ない。
 毎日繰り返される各地の放射線量の報道は、既に「当たり前」の日常と化した。
 こうして、夜の散歩に出て。見上げる星空は何も変わりはしないのに。
 ただ時間だけが過ぎたようにも思えてしまう。

「ここも……震災直後は歩くなって、言われてたんだって」

 緑に囲まれた森林公園。緑が多いことは、それだけ放射線量が高い事を意味する。遊具に触れることも出来なくなり、除染した土はその敷地内に埋められたという。

「どれだけの人が、頑張ってくれたんだろうな」

 こんな風に歩けるだけの放射線量に減らすまで。少し先に見えるモニタリングポストには、0.16という数字が赤く光っている。

「……大丈夫?」

 繋いでいた手が、少しだけ強く握り込まれた。

「大丈夫だよ」

 彼は、大丈夫だ。確かにここ数週間、少し気分が落ち込んでいたけれど。
 それは、あの時を思い出し、それに関係して自らが失ったものをも思い出したからだ。

「ホント……色んなもの、失ったなーって思ってさ」

 言葉に出来ないほど、たくさんのものを失った。
 同郷の先輩とも、もう連絡を取っていない。福島に対する意見が彼とは違いすぎたから。
 彼を責める気はない。福島を離れて暮らすことも、あって当然の選択肢だと解っている。
 せっかく震災を生き延びたのに、寿命尽きてしまった人もいる。彼にとっては大切な人で、たくさんの恩を返したかった人達で。もしも叶うなら、自分の命と交換にしてでも生きていて欲しかった。
 けれど、それは出来ない。悔しくて、悲しくて、どれだけの後悔が襲っても。彼の命が消えれば、悲しむ人がいるから。

「俺は、県外に出ることで、無理矢理日常を取り戻したけど……ここにいた人達は、違うもんな」
「……お姉ちゃんね、昨日言ってた。最初の一年は、時間が止まってたって」

 生きているという実感がなくて、それでもお腹は空いて。ゆっくりゆっくりと日常が戻ってきても、今までの日常にはなかった放射線量を気にして、たくさんの情報を見て、読んで、それでも安心出来なくて。

『正直、帰ってきてくれて良かったわ。あの子の分も、あなたの分も、ちゃんとヨウ素剤もらえたもの』

 ここにいなければもらえない、再び危険な原発事故が起きた時に飲む錠剤。姉はそう言って、笑っていた。

「5年っていう月日が、長いのか短いのかはその人次第。でも、みんなが今生きてることは変わらない事実。……そう言ってたよ、お姉ちゃん」
「そっか……。姉貴も色んなもの、失くしたからな」
「……でも、得たものも、あるよね?」
「うん」

 失ったものが、大きすぎて。そればかりが目についてしまうけれど。
 言葉に出来ないだけで、得たものもきっとあったはず。

(こいつとか、な)

 まさか、彼女までがここに来てくれるとは思わなかった。離れていれば、いつかは失ってしまうかもしれないと思っていたから。

「……っつーか、お前の姉じゃないだろ」

 思わずぼそり、と呟くと、彼女はまた笑う。
 共に暮らしてる内に、彼女と彼の姉は本当の姉妹のように仲良くなっていった。最初は「お姉さん」だったのが、「お姉ちゃん」に変わる程に。

「あれ? お姉ちゃんに焼きもち? それとも私?」
「……どっちも、かもな?」
「正直者~。キミがシスコンだとは思わなかったよ」
「待て、シスコンと呼ばれるほど酷くはないはずだぞ!?」
「無自覚なのがシスコンの証拠だよー♪」
「お前なぁ……」

 こんな、他愛ない会話でも。今日この日の想いを紛らわせてくれることが、嬉しい。

 いつか、もっと長い時間が経てば。この想いもどんどん過去になっていくだろう。
 それでも、覚えていられることは覚えていよう。
 震災から5年。その大半を県外で過ごした自分には、そんな想いは傲慢でしかないかもしれないけれど、それでも。
 あの震災を生きた自分に、自分自身が価値を見いだせるように。

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