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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【13】 勘違い

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『きっと、これが最後────』



 竜城が声をかけてきた直後から、時々、竜城の視線を感じるようになった。振り返り、目が合うと、彼はいつも朱里をジッと見つめる。悲しそうな色を、瞳に宿して。
 そんな竜城の視線に、朱里は気付かないふりをし続けた。見間違いだと言い聞かせて、一週間が経った頃。放課後のホームルームが終わった直後、竜城の友達が、朱里の教室へと駆け込んできた。

「おーい、仁科姉っ! 妹がまた熱出して倒れたぞー」

 いつもだったら、「そう」と素っ気ない返事を返すだけだが、今日は竜城の友達────航平に訊ね返した。

「いつ?」
「あー……と、6時間目の授業中」
「……解った、ありがとう」

 そのまま航平をその場に残し、朱里は保健室へと向かった。
 恐らく、これが最後の癒しになるだろう。熱と共に藍里の能力を鎮め、そしていずれ朱里の死と共に、この能力が消えれば……全て……。
 保健室に辿り着き、扉をノックしても、誰の返事もなかった。扉を開けて中を覗くと、一つのベッドにカーテンが引かれていた。
 どうやら、竜城も保健の先生も席を外しているらしい。好都合とばかりに、朱里は藍里が眠るベッドのカーテンを引き開けた。

「藍里……」

 真っ赤な顔で、時折苦しそうに喘ぐ藍里。幼い頃は、本当にそっくりだった、たった一人の妹。今まで、たくさん苦しめてきた……。

「きっと、これが最後……。ごめんね、苦しい思いをさせてきて」

 首筋に、そっと片手を当てる。いつも冷たい朱里の手に届くその熱は、驚く程熱かった。

「私のわがままだったの……。一番いい方法を知っていながら、それに手を出す事が出来なくて、無様にあがいてた。でももう、熱を出して倒れる事は、ないからね────」

 触れている右の掌に、意識を集中させる。藍里の体の中から溢れ出そうとする能力を探り当て、縮小し、鎮めて─────。

「何やってんだよっ!」

 突然の怒鳴り声に、朱里はびくっ、と藍里の首筋から手を離した。
 藍里の能力を鎮める事だけに集中していたので、廊下を歩く足音も、扉を開く音も、何も聞こえなかったのだ。
 竜城は藍里と朱里の間に割り込むと、鋭い瞳で朱里を睨み付けた。

「藍里に何するつもりだった!?」
「別に……まだ熱があるかどうか、確かめたかっただけ」
「首に手をかけてか!?」
「……」

 どうやら、藍里を殺すとでも思ったらしい。確かに、首に手を当てていれば、そう見えるのも道理だが。

「う、んー……?」

 竜城の怒鳴り声に反応したのか、藍里が小さく唸る。それに気付いた竜城が、顎をしゃくった。

「ここじゃ話せない。ちょっと来い」

 竜城の言葉に、朱里は躊躇った。藍里の熱を取りたいけれど、今、竜城の前でまた能力を使えるはずがない。

(仕方ない、か)

 少し……あともう少しだけ、我慢していて。
 そう視線で語りかけて、先に保健室を出た竜城の後を、朱里は追いかけた。




「ん……たつきちゃん……?」

 竜城の声が聞こえた気がして、目を開けたけれど、傍には誰もいなかった。
 まだ体がだるい。藍里は熱でボーっとする頭を持ち上げて、上半身を起こした。
 竜城の声と、静かな、湖面に一滴の水を落としたかのような声が聞こえたような気がする。

「朱里、ちゃん……?」

 何だろう? 何だか、胸がザワザワする……。
 いや、胸だけじゃない。身体全体から、何かが溢れ出しそうだ。それを、ギリギリの所で押し止めているような、そんな、感覚。
 カラリ、と保健室のドアが開いた。竜城かと思って顔を上げたけれど、顔を出したのは航平だった。

「あ、仁科妹、起きた?」
「航平くん……。ね、竜城ちゃんは?」
「さっき、仁科姉と一緒に歩いてたけど。珍しいよな、あの2人の組み合わせ……」
「どこに行ったか、解る!?」

 ダメだ。竜城と朱里を、2人にしてはいけない。
 竜城はきっと、朱里を傷付けてしまう。藍里が傍にいる時とは違う言葉と口調で。
 藍里の鋭い言葉の響きに、航平は多分……と自信なさげに彼らが向かったであろう場所を答えた。

「ありがと!」

 熱がある事を感じさせない程の素早い動きで、藍里は布団をはねのけた。もどかしく上履きを履いて、保健室を飛び出す。

(だめ……竜城ちゃんが傷付いちゃう!)

 心ではなく、身体が。10年前、朱里の能力が暴走した時と同じように。
 朱里は、人を簡単に殺せる能力を持っているのだから。




 竜城が朱里を連れて行ったのは、保健室からは死角になる、ほぼ誰も来ない離れた裏庭だった。満開を過ぎ、見頃が終わってしまった桜の木が数本、植えてあるだけの場所。

「お前、藍里を殺すつもりかよ!?」

 まばらに咲く桜の木の下で、竜城が問いかけてくる。その瞳はいつもの、朱里を化け物だと呼んで蔑んでいた時の瞳と同じ色をしていた。

(やっぱり……見間違い、だったんだ……)

 竜城が朱里を見ていた事も、その瞳が悲しそうな色を滲ませていた事も、全て朱里の都合のいいまやかし。
 だって、竜城は今、藍里の事しか頭にないだろう。きっと。

「黙ってないで答えろよっ」
「……何を言えと言うの? 藍里を殺すつもりだったと、そう言えば満足?」

 藍里を殺すつもりがあるのなら、きっといくらだってチャンスはあった。その後に、自分も死ぬを覚悟の上で。

(でも、出来なかったから……)

 藍里が熱を出して、溢れ出ようとする能力と戦っている今でさえ、朱里は自分を殺せないのに、藍里を殺せるわけがない。
 覚悟なんて口にしても、それは所詮、机上の覚悟だという事に気付いた時、朱里は自分がとても弱い事を知った。
 泣かない事、傷付かない事が強いのではなくて。
 素直に泣いて、傷付いてもそれを受け入れる事の方が、強いというのかも知れない。
 自嘲するように笑った朱里に、竜城は一瞬だけ苦しげに顔を歪めたが、すぐに真顔に戻って宣言するように声を張り上げた。

「藍里は殺させない。絶対、お前に傷付けさせない!」

 竜城が大事なのは藍里だけ。少しでも、朱里を気にかけてくれているかも知れないなんて、そんな……淡い期待を抱いた自分が、とても愚かに思えた────。


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