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2/17 ヒヤシンス<紫> 「悲哀」

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拍手SSの再掲です。

2/17 ヒヤシンス<紫> 悲哀
黄昏色の詠使い カインツ×イブマリー


 夕焼け色に染まる教室の窓際で、イブマリーは一人、歌詞も何もない、小さな旋律を口ずさんでいた。
 その旋律も、足音が聞こえた時点ですぐに止めてしまう。

「……讃来歌じゃないのかい?」
触媒カタリストもないのに? ……見て」

 振り返ることなく、イブマリーは指先で窓の外を指す。彼女の横に並んだカインツは、細い指が指す方向へと視線を向けて、顔を綻ばせた。

「なるほど、ね」

 見つけたのは燕の巣だ。3羽の雛が、親鳥が持ってくるであろう餌を待っているのか、嘴を小さく開閉している。

「可愛いね」
「……あまり見ていると、親鳥が帰って来ないわよ」
「見てって言ったのはイブマリーの方だったはずだけど?」
「凝視しろとは言ってないわ」

 相変わらずの小さな意地悪に、カインツは苦笑して窓を閉める。椅子に座った彼女が、名残惜しげにチラチラと雛を見ているのは解っていたけれど。
 やがて親鳥が帰ってきて、その嘴から餌を与える様を見て。イブマリーが淡く微笑む。

(キミは、……強いね)

 今日も彼女は、躊躇いもなく夜色名詠を目指すことを告げ、クラス中から嘲笑を受けていた。少なからず落ち込んでいるから教室に一人残ったのかと思っていたが……。
 例えそうだとしても、彼女は決して揺らぎはしないのだろう。ただ目標に向かって真っすぐ、前だけを見つめ続けて。
 そんな彼女に励まされていたのは事実。同時に、自分がそばにいたことで、彼女を支えられていたならば嬉しい────素直に、そう思う。

*****

 あれから十数年が経ち、虹色名詠士となったカインツとは対称的に、彼女の名はとんと聞こえて来なかった。けれど。

(まさか、夜の真精になるなんて……予想を遥かに越えていたからね)

 夜色名詠式を作り出しただけでなく、その最上位たる真精という存在になった彼女。
 きっと、何も知らぬ他人から見れば、イブマリーの人生は悲哀と取れただろう。
 代々短命の家系、既に発症している上に助かる術はなく、有りもせぬ名詠式を作り出そうと夢見た、……作り出したとしても、その存在すら知られずに夜の真精などに身を落とした、悲しく哀れな少女だと。
 だが、カインツだけはそれを否定する。彼女にとっては、それは最大級の生きた証。喜びに包まれこそすれ、悲哀などという言葉とはほど遠いはずだと、かつての彼女を知る枯れ草色の詠使いはそっと微笑わらった。

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