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暁のヨナ Never ever 【8】

暁のヨナ 目次へ 二次創作Index

Pixivに載せていたものと同じです。タイトル違いますが……。

『もう、二度と――――離れない』


「姫様」

 そう呼んだ瞬間、ヨナが顔を上げて。決意を込めた揺るぎない瞳が、ハクを見つめた。

「私は、お前がこのままでも構わない。だから」
「……さすがにあのままは、俺が嫌です」
「……え」

 突然変わった口調に驚いたのか、丸い瞳を更に大きく見開くヨナの華奢な体を、ハクは再び抱きしめた。
 ふ、と小さく息を吐き、緩く波打つ赤い髪を指先で掻き分けて。

「……守るのは、俺の仕事でしょう?」

 露わになった耳元に囁きかけると、微かにヨナが息を呑む音が聞こえた。

「……思い、出したの……?」
「思い出さない方が良かったですか」

 苦笑混じりのその問いに、ヨナは緩く首を横に振る。

「……だけど、素直に喜べないわ」

 忘れたままでいいと、ヨナが思ったのも本当。真実は決して告げないと決めた思いも、偽りではない。
 思い出して欲しい。忘れたままでいい。相反して鬩ぎ合っていた思いが、一つの結果を突き付けられて、行き場を失(な)くしてしまったかのようだ。

「どうして、急に……」
「……姫さんのぶっさいくな泣き顔のおかげですよ」
「そういう失礼な言葉は、間違いなくハクね……」

 くくっ、と喉の奥で笑いながら、ハクはヨナの頭に顎を乗せる。尖った顎が痛くて、ヨナは思わず身じろいだ。

「ハク、重いわ」
「少しだけ、……我慢して下さい」

 ヨナの肩に、こつんと額を寄せて、ハクはゆっくりと深呼吸をする。
 一気に戻って来た頭の中の記憶を、少し、整理したかった。

 雨の日の夜。ヨナの誕生日に起きた、国王の弑逆。王位の簒奪。親友だと思っていたスウォンの裏切り、還れぬ城。抜け殻のように、魂をどこかに置き忘れたかのようなヨナの姿。
 風の地に逃れ、神官を訪ね、ユンを仲間とし。次々と四龍を集めながら旅をして、スウォンの姿を、目の前にして……。

(ああ、そうか)

 あの時、背中を強かに打ち付けて、閉ざされていく意識の中でハクは、スウォンの姿を脳裏に描いた。
 手を伸ばすハクを前にしても動かなかった、彼を。
 自らの手で討つと決めた、かつての親友を。

(……まだ、迷ってるのか。俺は)

 彼を討つ事に迷いが生じているから、裏切りごと無かった事にしたかったのかも知れない。だから、三人で何も知らずにただ笑い合っていた頃に戻りたいと、願ったのかも知れない。

(……姫さんには言えねぇな、こんな事)

 心の中で自嘲すると、躊躇いがちにヨナが声をかけてきた。

「ハク……大丈夫?」
「すみません、姫様。……ここ数日、辛かったでしょう」

 この数日の記憶もしっかり残っている。ハクがスウォンの名を出す度に見せたヨナの表情の意味も、今なら解る。
 身を起こし、真っすぐにヨナの紫紺の瞳を見て、申し訳ありません、と告げる。

「……私の、わがままだったのよ」

 だから、ハクは気にしないで。責任など、感じないでとヨナは言う。
 何度も見た、儚い微笑み。けれど今はそれに、安堵の色が含まれている。
 その笑顔が愛しくて、……愛おしくて。ハクは身を屈めながら指先で前髪を割り、そっと額に口づけた。
 触れるか触れないかの微妙な感覚を意識するより先に、ヨナは離れていくハクの顔から目が離せなかった。
 何かが吹っ切れたような、そんな穏やかな顔をしていたから。

「ハク……?」
「ありがとう、ございます」

 すみません、も、申し訳ありません、も。ヨナの行動に対して引け目を感じている言葉だ。だからハクは、敢えて感謝の言葉を告げた。

「もう、二度と忘れません。姫さんに、あんな顔はさせたくないですからね」
「大丈夫よ、私は」
「何が大丈夫なんですか」

 自信たっぷりに言い放ったヨナに、ハクは思わず呆れてしまう。

「大丈夫。ハクが私の傍にいてくれるなら」

 言葉を一度切って、ヨナはすっと息を吸い込む。これから告げる言葉に、魂を込めるかのように。

「どんな事でも、乗り越えられるわ」

 ね? と満面の笑顔を見せられて、今すぐその体の温もりを手に入れたくなる衝動と戦いながら、ハクは伸ばした手でヨナの赤い髪をそっと撫でた。

「……戻りますか」
「ええ」

 差し出された手に、ヨナは自身の手を重ね。握り込んで来る手のひらが、触れ方が、18歳のハクが戻って来た事をヨナに知らせる。

(あのね、ハク)

 心の中だけで、ヨナはハクに話し掛けた。

(本当は、ね)

 数日前の、幹にもたれてうなだれているハクを見た時、ハクを失うかと思った。怪我が軽いと知って、呼吸があると知って、その恐怖は心の奥に眠ったけれど。

(ハクを失う怖さに比べたら、何だって出来るわ、きっと)
(……俺もです)

 二人とも、言葉にはしていない。ただ、繋いだ手の温もりが、心の中の言葉を伝えてくれた。

 失わぬように。いつでも傍らに在れるように。

((もう、二度と――――離れない))

 きゅ、と同時に指先に力が込められて、ハクとヨナは顔を見合わせて笑った。

*****

「う~ん、13歳のハクも可愛かったんだけどねぇ」
「気持ち悪ぃ事言うな、変態垂れ目」
「しかし、そなたにも無邪気な時代があったのだな。姫様に対してあのような口調で」
「ま、どっちにしても記憶戻って良かったよ」
「娘さんも元気になったしな~」
「……うん。ヨナ、元気……」
「プキュ~!」
「ちょ、ちょっとゼノ、シンア! アオまで! 何を言い出すのよ!?」
「へーぇ? 姫さん、そこんとこ詳しく」
「知らないっ、ハクの馬鹿!」

【7】 ←暁のヨナ 目次 
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