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暁のヨナ Never ever 【3】

暁のヨナ 目次へ 二次創作Index

Pixivに載せていたものと同じです。タイトル違いますが……。

『……どうして、こんな事に……!』


 スウォンは? そう問われたヨナは、思わず硬直した。

「……え……」
「スウォンも怪我したのか?」

 ジジィは容赦ねぇし、と笑うハクは、屈託がない。口では文句を言っても、心の底ではムンドクを尊敬している――――それはかつての彼が、よく見せた表情だった。

「どうし、て?」
「いや、だっていつも一緒だろ。スウォンが姫さんの傍にいないって事は、あいつも怪我したのかと思っただけ……姫さん?」

 硬直したままのヨナに気付いたのか、ハクが怪訝な声で問いかけてくる。

「ハ、ク……」

 もしかして、と嫌な予感がヨナの頭を過ぎる。どくん、どくん、と、鼓動の音がやけに耳につく。
 有り得ない。今の彼が、城を追い出されてからのハクが、自らスウォンの名を出す事など……まして、あんな親しみを込めて彼を呼ぶ事など。
 それに、口調も違う。ヨナの専属護衛となる少し前から、殊更に敬語が増えたハクではない。
 まるで、これは……ずっと、昔の。

「今、いくつ……?」

 小さな手で、ヨナは服をぎゅっと握る。体の震えを、押し隠すように。

「は? 何言ってんだ姫さん、姫さんに2つ足せば」
「なら、今の私はいくつに見える?」

 立ち上がったヨナが問い掛けると、その背の高さに、初めてハクは目を瞠った。

「……何で、そんなに大きくなってんだ? 怪しい薬でも飲んだのか?」
「違うわ。私は今、……16よ」

 ヨナが告げた途端、ハクは信じられないというように項垂れ、頭を手で支えた。

「……嘘、だろ……」

 そう呟いたハクは、そのまま押し黙る。
 ヨナもそれ以上何も言えずに、静寂が部屋を支配し。
 呼吸を十ほど数えた時、ハクがおもむろに自分の手を眺めた。

「覚えてるより、確かにでかいな」

 腕の太さも、手のひらの大きさも。ハクが覚えているついさっきの自分よりも、確実に成長している事が解る。

「……なんで、こんな事になったんだ?」
「頭、打ったの……。だから、かもしれない」
「なるほど」
「……あまり、動揺していないのね」
「動揺しても解決する問題じゃないしな。……とにかく、説明してくれよ姫さん」
「その前に、ハクはいつまでの記憶があるの?」
「俺は、13だ。ついこないだ武術大会で……今日はスウォンと一緒にジジィに稽古してもらってた」

 やはり、ヨナの専属護衛となるずっと前だ。ハクが彼を「スウォン様」と呼ぶようになったのは、ヨナが12になる頃だった。

「……で?」

 促されて、ヨナはゆっくりと話し始めた。時々、震えそうになる声を必死で押し殺しながら、淡々と。
 スウォンは城にいる事。ヨナとハクは伝説の四龍を探しだし、共に旅をしている事。そしてハクが怪我をするまでの経緯を話し、ここがどこであるかも告げた。
 ……スウォンの裏切りと、父が既に亡くなっている事は、話す事が出来なかったけれど。

「……何か、隠してないですか?」

 幼い頃のように、ひょいっと顔を覗き込まれるも、ヨナはにっこりと笑って見せた。

「何も隠してないわよ? とりあえずユンを……あ、えっと医術師がいるから呼んでくるわね」

 怪我、診て貰わないと。不自然にならないように立ち上がり、ヨナは部屋を出た。

「……嘘つけ」

 そう、ハクがぽつりと呟いた事に気付かぬまま。

(……どうして、こんな事に……!)

 よろよろと歩き出し、ついには壁に背中を預けて、ヨナは座り込んでしまった。

「ヨナ? どうしたの?」
「ユン……!」

 ユンと、四龍達と。気心の知れた仲間達の顔を見たらホッとして。けれど、またハクのいる部屋に戻るには、泣いた顔に気付かれるわけにはいかないと、ヨナは必死で涙を堪えた。

「雷獣は、大丈夫?」
「あの、……あのね。……みんな、驚かないで、聞いて」

 言葉を無意識に切ってしまうのは、ヨナ自身が今起きた出来事を、きちんと認識出来ていないせいかもしれない。

「ハクの、記憶、が――――」

 5年前までしか、ないの。

「……えーと、つまり?」
「13歳までしか覚えていないの。私達が城を出た理由も、そのきっかけも、……覚えていないわ」
「13歳……それは貴重だねぇ」

 にやり、といつものようにからかいを含んだ笑みを覗かせるジェハを、ユンが呆れたように咎めた。

「……ジェハ、今は冗談に付き合う気はないよ」
「解ってる、場を和ませようとしただけだよ。……で、ヨナちゃん。という事は、今のハクは僕らの事は知らないけれど、『彼』の事は覚えている、という事かい?」

 さすがにジェハは察しがいい。ヨナは小さく頷き、未だ微かに震える唇を動かした。

「……あの人が城にいる事、私達は四龍を探して旅をしてる事、今ここにいる理由は、話したわ。でも……」

 嘘のない事実は告げられた。けれど――――。

「ごめんなさい。彼の事は、……『真実』だけは、言えなかった……!」

 スウォンの名を、あれ程親しげに呼んだハクに言ったとしても、きっと信じない。
 そして、それが真実だと知った時の絶望など、もう二度とハクに与えたくはなかった。
 これは、ヨナの我がままでしかない。真実を知らせた方が良いのは解っている、でも。
 スウォンを前にした時の、あのハクの悲しい姿が、脳裏にこびりついて離れない。

「娘さん」

 俯くヨナの赤い髪にそっと触れる、優しい手の温もり。

「ゼノ……?」
「とりあえず、ボウズは兄ちゃんの怪我ちゃんと診てやって。娘さんは、辛いだろうけど……見知らぬ俺達が行くわけには、いかないから」

 ヨナと一緒にいるとはいえ、ハクが四龍の事を覚えていないというのであれば、警戒心が先に立つ事は避けられないだろう。戦闘力のないユンならば恐らく、警戒する事もない。
 ゼノの穏やかな眼差しに背中を押されたような気がして、ヨナは気丈に顔を上げた。

「……ありがと、ゼノ」
「行こう、ヨナ」

 ユンに促され、ヨナは再びハクのいる部屋へと向かう。
 その彼女を見送ると、ジェハが一人、重い溜息をついた。

「……まさか、ハクが記憶喪失とはね……」
「だが、我らはスウォンの事を何も知らぬ」
「知らなくて良いんだよ、ゼノ達は」
「……?」

 こてん、と小首を傾げるシンアの仕草に微笑を誘われながら、ゼノは告げた。

「ただ娘さんが請うたから俺達は一緒に旅をしてる。それでいいから、多分」
「それでは姫様に酷であろう」
「……きっと娘さんは、それを覚悟してるから」

 ハクに真実を伝えないと決めたならば、それはヨナ自身が背負う罪である事を。

「じゃあとりあえず、コウ君のところに……ん?」

 廊下の曲がり角、隠しきれない巨体がはみ出ていて、そして、震えていた。

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