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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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暁のヨナ 靭さ

暁のヨナ 目次へ 二次創作Index

※20日発売のコミックネタバレ有り

『ハクとゼノって、少し似てるわ』


 剣で、弓矢で。切りつけられ、刺され、心臓を貫かれ。首を刎ねられても尚、立ち上がり戦った黄龍。けれど、時が経って普通の体に戻った彼は、いつものように暖かな陽だまりのように笑っていた。怪我をした誰よりも元気に動き回って。
 それが余計、切なくなる。龍の血がもたらした鋼のような体と引き替えに、常人ならばいつか必ず迎える死を、彼は望む事さえ許されないのだから。

 ゼノが着ていた服の惨状を――――夥しく血の跡が残り、ぼろぼろになったあの服を、思い出す。

「……っ」

 涙が零れそうになって、慌てて仰向いたけれど。間に合わずに雫は頬を伝い、地面に生えた短い草に吸い取られる。

「……あいつの代わりに、泣いてるんですか」

 足音も立てずに、いつの間にか隣にやってきたハクの手が、ヨナの髪を撫でた。

「違うわ。……そんな理由で泣いたら、ゼノに失礼よ……っ」

 初代黄龍。ヨナにとっては、気が遠くなる程遠い、それこそ神話でしか知らぬ時代に生きた彼。
 想像してもしきれない。一体どれ程の絶望を味わってきたのだろう。
 取り残されていく己の体を、幾度も嘆き。あの暖かな笑顔の裏で、どれだけの涙を流したのか……。それでも、今、笑っている彼に対して、ヨナが彼の代わりに泣くなんて、そんな傲慢な事は許されない。

 だから、ヨナが流すこの涙は――――己への不甲斐なさを悔いたものだ。

「自分の無力さが、歯がゆい……!」

 何故、こんなに無力なのだろう。もっと強ければ、もっと力があれば、ゼノにあんな大怪我をさせる事もないし、ハクの隣で戦う事も出来るはずなのに。

 願いばかり、望みばかりが先走って、力は全然追いついてくれない。それがとても、悔しい。
 悔しくて、悔しくて、思わず噛んだ唇に、ふと温もりが触れた。

「噛むな」

 緩ませるかのように、ハクの親指がゆっくりと唇をなぞる。

「……傷になります」

 見上げたハクの表情は、いつもの彼とは違い、どこか切なげに映った。唇に触れる手も、……心なしか震えているようだった。
 離れていくその手を追いかけるように、ヨナはその手を取って訊ねた。

「……どうしたの? ハク……」

 見抜かれた事に苦笑を返しながら、ハクは偽りのない心を告げた。

「俺も少し、……戸惑ってるみたいです」

 武人としてのハクは、ゼノの能力に少なからず畏怖を覚えた。彼が敵だったなら、味方でなかったなら、高華の雷獣と謳われたハクとて退かざるを得ないだろう。
 繰り返し続く再生。そんなものを、何の前触れもなく、予備知識さえ無しに目の当たりにしたのなら、きっと――――。

『四龍はいーの。死んでもまた、生まれるから』

 月明かりを背に、そう言って笑った黄龍の言葉が今、とてつもなく重い。

『お前らにだって、代わりはいねーよ』

 ハクの答えに、ゼノはふわりと優しく笑って、深々と頭を下げたけれど。
 代わりのおらぬ黄龍に対して、どれほど残酷な答えだったのだろうと思う。

「ハク……」
「俺達のこんな感情も、あいつはお見通しで……気にするなって笑うでしょうけど」
「……そうね」

 多分、それがゼノだ。それが長き生を過ごした彼なのだと、ヨナは思う。
 ヨナが取ったハクの手が、きゅっと握り込まれる。まるで、心からの畏怖を拭い去るように。

「ハクとゼノって、少し似てるわ」
「……は? どこが?」
「……命を張る事に、躊躇いがないところ」

 ハクは父の命令を全うする為に(実際はハク自身がヨナを守る事を望んでいるのだが)。そしてゼノは、終わりなき命を持つが故に。

「俺は」
「道具だって言ったら、射るわよ」

 鳥を射る事で鍛えられたヨナの弓矢は、剣や大刀で叩き切ったり風圧で避けたりしなければ、確実に射止める事が出来る。
 今やその言葉は、十分な脅しと成り得る程に上達したのだ。

「ゼノも、……きっとそう」

 ゼノはヨナ達の切り札であるつもりなのかも知れない。
 ヨナやユンを守れずにハクが倒れ、キジャが、ジェハが、シンアが動けなくなった時。彼はヨナ達が望まなくともその身を敵の前に晒すだろう。
 再生される度に鋼へと変化する体を、脅威が去るまで命を奪う武器の前に晒し続けて。
 たくさんの痛い思いをしても尚、皆を守る為に。

「出来るなら、もう、二度と。そんな思いは、させたくないわ」

 だから、そうならない為には、強くなるしかないのだ。ヨナも、ハクも。きっと、皆が。

「……ハク」
「何です?」

 見下ろす瞳に、ヨナは決意を宿して彼に告げる。

「明日からも剣の稽古、お願いね」
「……はいよ」

 に、と口角を上げたハクにもきっと、伝わったのだろう。

「厳しく行きますよ?」
「望むところだわ」

 ぐっ、と力を込めて握られた手を、ヨナも負けじと握り返す。

「両手は卑怯だろ、姫さん」
「片手でハクに勝てるわけな」

 言葉の途中で、ハクが腕を引いた。彼の手を強く握っていたヨナは、そのままハクの体に倒れ込む。
 髪を梳る指先が、不意に力を込めて。

「……ハク?」
「……靭く、なりましたね」

 ハクが導かなくても、自ら答えを見つけ。ハクの微妙な心情さえ、見抜けるようになり。
 一人で涙を堪える術を、覚えてしまった。
 それは嬉しき成長なのだけれど、少し、淋しいともハクは感じていた。

「俺に、くらいは――――」
「え?」

 ハクの呟きは空に溶けて、ヨナの耳には届かなかった。
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