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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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雨の弓【3】 あの時の約束を

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突発的短編 (現代FT・元恋人)



「……私が一番最初に覚えた手の温もりは……雫だったの」

 目が見えなくなって、病院のベッドの上の不安げな彼女の手を、いつも握っていた事を思い出す。

『俺はここにいるよ』

 言葉と一緒に小さな手を温めていた……。

 目を閉じて、気持ちを落ち着かせるようにそっと深呼吸をして。自分の気持ちを確かめる。このまま誤魔化す事だって出来るけれど、……誤魔化せない。誤魔化したくない。死神となってから会えた、たった一人の過去である彼女に、嘘を付きたくない。

「……ううん、雫じゃないならそれでもいいの。きっと……私の願いを、神様が叶えてくれたんだわ……。雫に逢いたかった、例え夢でも、私は……」
「……夢じゃないよ、ひかり」
「え……」
「俺は。雫は……ちゃんと、ここにいる」

 重ねられていた手を裏返して、しわだらけのひかりの手を包み込む。老女とはいえやはりレインよりも小さな、外気に触れて少し冷えてしまったその手を、温めるように。

「レイン。……時間よ」

 コーリの厳かな声が聞こえた。
 魂を刈り取る時間。それを違える事は許されない。

「ひかり。……ごめん」
「え?」

 握っていた手を離し、代わりに額に優しく触れる。レインが人差し指で少しだけ複雑な文様を描くと、コーリが空中に小さな光の玉を生み出した。
 やがてその光の玉に導かれるように、ひかりの体から、かつての彼女が────1番幸せだった時を過ごした彼女の姿が、現れた。

「レイン」
「ああ」

 体と魂を繋ぐ細い細い糸を、右手に呼び出した大鎌で断ち切る。
 ふわりと浮いたひかりの魂が形取っているのは、高校の頃の……目が見えなくなる前の、溌剌とした少女の姿だった。

「雫……っ」

 焦げ茶色の瞳が、レインを見つける。もし今、彼女の体が伴っていたなら、きっと勢いよく駆け寄って、抱きついてきただろう。そう予想出来るほど、喜びに溢れた声だった。
 しかし、駆け寄る事さえ難しい、魂だけの状態の今は、レインに向かって両手を差し出す事が精一杯。レインは黙って彼女の腕を取り、何十年かぶりに、愛しい彼女の体を強く、強く抱きしめた。

「ひかり……」
「雫……。雫っ……! やっと会えた」
「ひかり、ごめん。俺達、何も言わずに勝手にお前を……」

 死なせてしまった。ひかりの意思を確認する間もなく、最後の願いさえ口にしていなかったというのに。

「いいの。私を迎えに来てくれたんでしょう? 他でもない、雫が」
「……何で驚かないんだ?」
「驚いてるわよ? 雫が死神って事に」
「そっちかよ」

 呆れたレインの様子が解ったのか、ひかりは薄い唇を震わせて、くすくすと笑う。

「……覚悟なんて、ずっとしてきたわ。目の手術が失敗した時、私は本当に、いつ死ぬか解らなかったもの。外に出れば、いつか車にひかれるかも知れない。家の中にいたって、どんなトラブルが起こるか解らない。だから、……いいの」
「ひかり……」

 悲しげに笑うのでも、諦観して笑うのでもない。ほっとしたような、小さな花を咲かせるような微笑みに引き寄せられ、無意識に顔を寄せる。左手を頬に触れさせて、肩から零れ落ちた髪を耳にかけるように指を滑らせ、ひかりが安心したように目を閉じて。

「……ちょっと、レイン」

 若干怒りを滲ませた声が耳に届き、レインとひかりは瞬間的に寄せていた顔を離した。

「……そーいやいたっけ、コーリ」
「いたっけ、じゃないわよ! ったく、二人の世界に入るのはいいけど、私の存在忘れてんじゃないっ!」
「悪い、ひかりしか目に入ってなかった」

 全く悪びれていないレインの言葉に、ひかりがちょっとだけ顔を赤くする。その様子を見たレインは、からかうように告げた。

「あれ? ひかり、前だったら『何言ってんのよ、もうっ!』とか言って殴って来たのに」
「む、昔の話でしょっ。おばさんになってから、誰もそんな言葉くれなかったもの、突然、そんな事言われたら……恥ずかしい、よ……」
「じゃ、もっと言ってやる」
「もうっ」

 どんっ、と胸を叩かれて、それでも全然痛くないものだから、レインは喉の奥で笑った。

「だ~か~ら~っ! 二人の世界は後にしなさいっ! とっとと最期の願い叶えて、帰りたいんだから私は!」

 そういえば、コーリは連続ドラマの続きを見るとか何とか言っていたような。だが、確か彼女はその連続ドラマを一話もかかさず録画しているはずだ。

「どーせ録画予約してあるんだろ? ならいーじゃん」
「録画してても、リアルタイムで見たいものなのっ! もーほらっ、仕事仕事っ!」
「はいはい。……ひかり、叶えたい願い、ある?」

 叶えたい願い、とくり返すように呟いたひかりは、唇に指先を当てて、「うーん」と考え込む。

「最期に、雫に逢いたいってずっと思ってたから……もう叶っちゃってるんだけど。……あ、でも一つだけ」
「ん?」
「虹が見たいな。雫と一緒に」

 あの時、果たせなかった約束を、もう一度────。

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