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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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雨の弓【2】 忘れていない面影

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突発的短編 (現代FT・元恋人)



「……で、今日の対象は?」

 噴水に落とされたとはいえ、レインも一応は死神。空中を浮遊しながら、今日の刈り取る命の元へと移動する。一応対象の情報ぐらいは仕入れておくかと、何気なくコーリに訊ねた。

「えっと、87歳、女性。名前は砂原ひかりさん」

 胸ポケットから折りたたんだ小さな紙を取り出して、コーリが読み上げた名前に、レインは「え……?」と呟いた。

「……砂原……? おいっ、ちょっと寄こせ!」
「えっ、ちょっ……! レイン!?」
「……ひかり……」

 添付されていた小さな写真。瞳を閉じたまま写真に写っているその女性を、レインは知っていた。……否、覚えていた。「虹が見たい」といった彼女の面影が、ほんの少し残っていたから。

「何よ? 知り合いなの?」
「ひかりは……俺の、彼女……だった」

 遙か昔、もう70年も前の話だ。レインがまだ、人間として……茅原雫として生きていた頃の話。彼女とは、同じ高校で、同じクラスで……気が合って。そのまま、当然のように付き合って、子供心に、このままずっと一緒にいられたらいいと……そう思っていた。
 けれど彼女は、突然、目が見えなくなった。原因は知らない。ひかりは、レインに何も言わなかった。その病名さえも、雫に知らせる事はなく、穏やかに毎日を過ごして。
 ただ、手術をすれば治る可能性はある、と言われていたはずだ。

『目が治ったら、虹が見たいな。雫と一緒に』

 彼女はそういって笑っていた。けれど、雫は────レインは、その約束を果たす前に、不慮の事故で命を落としてしまった。

「俺が死んだ数日後に……ひかりは目の手術を受けたはずだ。なのに、この写真……何で、目を閉じたままなんだ?」

 それに、あれから70年。彼女の姓は、『砂原』のまま……。

(結婚、しなかったのか……?)

 不思議に思いながら首を傾げていると、隣で同じようにコーリも首を傾げた。

「珍しいわね? マスターが知り合いの命を刈り取らせるなんて。普通だったら私情が入るからって、敢えて避けて通らせるのに」
「……そういや、そうだな」

 生前の知り合いや、自分の子孫。そういった時は、大抵は別の死神から最期の話を聞く。実際、レインの実姉がその命を終えた時、傍にいたのはアクアだった。そして、アクアから姉の最期を聞いて……レインは自室で静かに涙を流したのだ。

「何か理由があるのかしら?」
「さーな」

 とにかく、ひかりに会いに行こう。これが死神を統べる者マスターの気まぐれや単なるミスだとしても、死んだ後、家族や知り合いにもう一度会えるなんて滅多にない事なのだから。



 懐かしい、ひかりの家。レインが覚えているよりも、大分古くなった純和風の家は静まり返っている。

「今は……姪っ子さんと一緒に暮らしてるみたいね。あんまり騒がれないといいんだけど」

 連れて行かれるのに、駄々をこねる人間が結構いるので、レイン達死神にとっては、実は一人暮らしの方がやりやすかったりする。彼らの姿は、対象以外の目に映らないとはいえ、刈り取られる側の人間の姿も、声も、彼らがその魂を刈り取るまでは生きているから、大きな声を出せば、さすがに一緒に住んでいる誰かに気付かれてしまうのだ。

「……ひかりの部屋は?」
「こっちよ」

 ぴょんっ、と門を軽々しく飛び越えて、コーリは玄関から庭に回る。レインもそれに続き、懐かしい家の外観を眺めながら歩いていく。やがて前を歩いていたコーリが、ぴたりと足を止めた。目の前には壁があり、コーリがそっと手をかざす。
 コーリの手が、そっと壁を撫でる。普通に考えれば有り得ないほどあっけなく、するりと彼女の体が壁に吸い込まれ、いつの間にか握られていた腕を引かれて、レインも分厚い壁を通り抜けた。

「……彼女よ」

 コーリが視線で示した先に、ベッドで安らかに眠る老女がいた。深く、深く呼吸をくり返す彼女に、近づく。
 あの頃、豊かになびいていた黒髪は、所々にしか残っていない。他は全て白くなってしまっていて、その長さもあの頃に比べればうんと短い。毛布の上に出ている手も、顔も、しわくちゃだったけれど。
 事故によって命を喪い、時間の流れに逆らって生きているレインの胸に、あの頃と同じ温かさが甦る。

「……ひかり……」

 かつて、子供心に愛した……いや、多分形は違えど、今でも愛している彼女の名を、囁くように唇に乗せて。震えた空気は、彼女の耳にレインの声を届けたらしい。
 衣擦れの音がして、老女は────ひかりは、横になったまま、顔だけをレインに向けた。

「真澄ちゃん……?」

 真澄。初めて聞くその名前に、首を傾げてコーリを見ると、黙って資料を差し出された。僅かな月明かりを頼りに読むと、真澄とは、今一緒にこの家に住んで、ひかりの世話をしてくれている姪っ子の事だった。
 本当なら眠っている間に魂を刈り取り、最後の願いを叶えるはずだったのに、ひかりを起こしてしまった。どうしようかと、またコーリに視線を移すと、コーリは大げさにため息をついて、ひかりの手に触れた。

「砂原、ひかりさん?」
「ええ……。あなたは、……泥棒さんですか? この家には、何も取るものなんてありませんよ? 真澄ちゃんがびっくりしてしまうから、その前に帰って頂けますか?」

(って、普通は別の事心配しないか……? つかコイツ、落ち着きすぎ)

 家の中の何かを取られる事よりも、普通は自分の命の心配をするものではないだろうか。その命を刈り取るレインが思う事ではないけれど。レインの知らない時間を生きてきた彼女は、どうやら肝が据わっているのか、はたまた何も考えてないだけか、今のレインには判断出来なかった。

「泥棒ではないわ。私達は死神。死に行く者の、最後の願いを叶えるために使わされた者。私はコーリ、そして」
「レイン、だ」

 手のひらではなく、しわくちゃになった頬に、そっと触れて指を滑らせる。あの頃、キスをする前のちょっとした合図と同じ仕草で。
 ひかりはとうに忘れてしまっただろう。70年も前に事故死した男の事など。約束を果たせずに命を終えてしまった、茅原雫を────覚えているわけが、ない。そう、思っていたのに。
 コーリに触れられている左手はそのままに、毛布から右手が現れ……レインの手を、重ねるように包んだ。

「雫……?」

 今ではもう誰も呼ばない、かつての名前。突然その名を呼ばれて、驚いて頬に触れている手を離そうとしたのに、老女とは思えない力が引き留めた。

「この手……覚えてる……。ねえ、雫なの?」

 途端に口調が幼くなったひかりの問いに、答えていいものかどうか迷って、そのまま黙り込んでしまうと。彼女の閉じられたままの瞳から、小さな滴が流れ落ちた。


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