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暁のヨナ あかいはな

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恋じゃない」の続きっぽくなってます。

『……簡単には、消えないと思いますけど』


 横抱きにした愛しい姫が、大人しく自分の首に手を回したと思ったら、柔らかな唇がハクの首筋に触れて、思わず息を呑んだ。
 すると、耳元に届く、小さな忍び笑い。

「……何してるんですか、姫さん」

 心持ち低い声で彼女を呼ぶと、ヨナはくすくすと笑ったまま告げた。

「さっきの仕返し、よ」
「あのな」

 下手に男を煽るとどうなるか、その身を以て教えてやろうか――――そんな悪戯が頭を掠めたけれど、「そういえば」と続いた姫の言葉の前に霧散する。

「……嫌な事思い出したわ」
「嫌な事?」
「……昔聞かされた怪談よ。首筋から人の生き血を啜るって……」
「ああ、ありましたねそんな話。腐らない死体が夜な夜な人の生き血を求め彷徨い、噛まれた人間はあっという間にそいつの仲間に」
「それ以上言わないでっ!」

 ぎゅっ、と言葉を止めるように首元に抱きつかれ、ハクは喉の奥で笑った。

「っつーか、何でそんな事思い出したんですか」
「……ハクの、脈を感じたから……」

 暖かい血が、とくん、とくんと脈を打つ。その下には温かい血が流れていて、傷つけば血が流れて……そんな事を考えていたら思い出したのだとヨナは言う。

「噛み切られたら、痛いだろうな、って……」
「ま、ふつーの人間じゃ、いくら犬歯が鋭いって言っても、せいぜい血を滲ませるとか、あとは、痕を残すぐらい……」
「痕?」
「何でもないです、忘れて下さい」

 危ない。未だ男女関係に疎いこの姫に、余計な事を教えてしまうところだった。
 心の中で若干慌てながら、いつの間にか止めていた足を進める。けれどヨナがハクの服を強く握りしめて、その行動を止めさせた。

「痕って、何?」

 何故そこに引っ掛かった、と、ハクは思わず頭を抱えたくなった。

「そんなに簡単に消えないもの?」

 その、あまりにも無邪気な瞳が。興味を隠しきれない声音が、ハクを少し苛立たせた。

「……そう、ですね」

 自分は今、一体どんな表情でこの言葉を言っているのだろう。ヨナが反射的に逃げようとする程には、悪戯顔なのかも知れない。
 しかし、ヨナの体はハクが両腕で抱えている。故に――――逃げ場は、ない。

「ハク……?」

 呼び掛ける声を無視し、無言のまま顔を近づける。

「待っ……ハク……っ」

 近づくハクの顔を止めようと、ヨナの腕に力が入るけれど、同時にヨナの背中を撫でた右手で、彼女の体をハクが引き寄せているから、僅かな抵抗でしかない。
 目立つ場所につけると面倒――――特にジェハに見つかれば、かなり厄介だ。そんな思惑が働いたせいか、ハクがその唇を寄せたのは、髪に隠れるうなじの位置だった。
 滑らかな肌に唇で触れ、ほんの少しだけ舌で舐め、そして。
 強く、吸い付いた。

「……っ!?」

 ヨナが息を殺しているのが解る。でも、やめない。やめてはやらない。煽ったのはヨナの方だ。
 そんな勝手な責任転嫁をしながら、痕が付いたであろう頃を見計らって、そっと唇を離す。

「な、な……っ!」

 夕焼けのせいだけではないであろう、赤く染まった頬と、震える唇。予想以上の反応に、ハクは苦笑した。

「……簡単には、消えないと思いますけど」

 ヨナのうなじに咲いた、小さな赤い華を、ハクは満足げに目を細めて見る。

「な、何も実践しなくても……っ!」
「説明するより早かったんで」

 しれっとそう答えると、どんっ、とヨナの小さな拳がハクの胸板を叩いた。

「もうっ、歩けるから下ろして!」
「はいはい。……熱、上がってませんか?」

 わざとからかうように言葉を紡げば、未だ赤い顔のままの彼女が背を向けた。

「熱なんか、最初からないもの」
「へえ……なら何で熱っぽかったんですか?」
「う、うるさいわね」

 どうやら、首筋に触れて熱を計った事、そして今、鎖骨に赤い華を咲かせた事が原因だったらしい。後者はともかく、前者はハクにとって、無意識の行動だったのだが。

「それにしても、幽霊なら会ってみたいとか言ってた人が、何でそんな怪談を怖がるんだか」
「だって、幽霊なら……父上の幽霊なら、会いたいと思うもの」

 呟かれた言葉に、ハクは胸を衝かれた。

「会えるなら……会えるものなら、聞いてみたいわ。父上が目指したもの、理想としたもの。そして……ありがとう、って」

 誕生日のあの日。祝われるのが彼女にとって当たり前だったから、来年も当然のように言葉をもらえると思っていたから、父王に告げることなく、ヨナの胸に残った言葉。

「私をここまで育ててくれて、ありがとうって……!」

 掠れた声は、涙が零れる寸前なのだろう。ハクに背を向けたまま、華奢な体を震わせるヨナを、ハクは背後から腕を回して抱きしめた。

「……俺は、見てませんよ」
「……っ!」

 声を押し殺して、ほろほろと雫を零すヨナが俯く。その拍子に少し伸びた赤い髪が、彼女の顔を覆うように揺れて。
 先程ハクが付けた赤い華が見えた。

(……こんなん付けるの、好きじゃなかったんだけどな)

 鬱血痕は、独占欲の現れだとも、所有印だとも言われる。けれど、彼女はハクが捕らえてはいけない『姫』だ。
 だから、これは――――この赤い華は、何の意味も持たない。
 もう一度、腕の中で泣いているヨナに気付かれぬように、その赤い華に触れるか触れないかの淡い口づけを落として、護るべき姫がいつもの笑顔を取り戻せるようにハクは願った。

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