Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

暁のヨナ 大切なのは【3】

暁のヨナ 目次へ 二次創作Index

『ハクがハクであればいい』




 ハクの腕の中で、ヨナは彼の言葉に安心している自分に戸惑っていた。

(……姫と呼んで、と願ったのは、私なのに)

 ヨナが姫だから、ハクは自分を心配するのかと思ったら、何故か心に穴が空いたかのように淋しくなった。
 ヨナは姫で、ハクは従者で、幼馴染みで。ハクにとっての自分は姫と呼ばれるのも、姫である事も当然だったはずなのに。
 どうして今、そんな事を訊ねたのだろう。「あんただから」と言われて、何故こんなに安堵しているのだろう。

「私、だから……?」

 この気持ちに明確な答えが欲しくて、またハクに問い掛けると、体が離され、真正面から見つめられた。

「姫であることも、……俺の主であることも、付加価値でしかないでしょう」

 ヨナがヨナであればこそ、姫として、主として在るのだと、ハクは告げた。

「……幼い頃からずっと見てきたんです。……妹、のように」

 妹。そう言われた瞬間に、何故か胸が痛んだ。
 ハクには、ずっと妹扱いをされてきた。主従の関係はあれど、いつだってわがままを聞いてくれて、頼りになる兄のようで。ヨナ自身、妹のように甘えていた。……ハクが甘やかしてくれていたから、ヨナは「何も知らぬ姫」でいられたのだと、今なら思う。

(なのに、どうして……?)

 胸が軋む。声に出来ないその感情の代わりに、ヨナは俯いて、ハクの服を握り締めた。

「だから、姫さんは」
「……私、ハクの妹じゃないわ」
「? 姫さん?」
「ハクも、私の兄なんかじゃない」
「まぁ、そーですね」

 妹じゃない。兄なんかじゃない。けれど、主従の壁を、幼なじみの枠を越えてしまったら、その先に残る関係は……。

(考えたく、ない)

 無意識に、その先を考えることをやめたヨナは、そっと頭を振った。
 考えてしまったらもう、後戻りは出来なくなってしまいそうだから。

「……ハクの事だって、大事だわ」

 今のヨナに唯一言えることは、これだけだ。

「……早く、守れるようになりたい……」

 ハクが傷つかないように。誰にも傷つけられることのないように、護りたい。この小さな手でも、せめて。
 左手で作った拳を、右手で覆うように組み合わせながら、瞳を閉じて、誰よりも、何よりも、強く願う。

「またあんたはそういう事を……」

 ヨナの肩に置かれたままの指先の力が、ほんの少しだけ強くなった。

「私だって、ハクがハクだから、大事なのよ」

 主ならば、従者の心配などしないのが普通だ。いつか『俺を道具だと思え』と告げたハクは、『従者』としての立場から、そう言ったのだろうけど。
 ヨナにとって、ハクは『従者』だけの存在ではないのだから。

「ハクがハクであればいい。ただ傍にいてくれるだけで、私は」

 ハクの声が近くに聞こえただけで安堵して、意識を手放してしまった先程を思い出す。
 城から逃げた時も、火の部族に追われた時も、北山の崖から落ちた時も。離れていても、いつだってハクがいたから。緊張感はあっても、心のどこかで安心していた。

「……手を伸ばしたら、届く距離にいて。呼んだら、すぐに気づく場所にいて」

 言いながら、ハクに向かって両手を伸ばしたら、こっちの台詞だ、と、ハクの手がヨナの手を掴まえた。

「……俺の手から簡単にすり抜けてくのは誰ですか」

 苦笑しながら、きゅ、と両手の指先を握られる。その仕種はまるで、ヨナを逃がすまいとするかのようで……そして反対に、ヨナが飛び立つ為ならいつでもすぐに手放せるかのようだった。

「――――ごめんなさい」
「何で謝る?」
「ハクを、縛り付けるようなことばかり言って」

 ハクに自由を返したいといいながら、同じ口で傍にいてと願う。そしてハクは、その願いを叶えてくれる事を知っているから、言えてしまう言葉。

「わがままね、私……きゃ!?」

 自分で自分を嘲るように笑った一瞬後、掴まれたままだった両手を引かれ、再びハクの腕の中にいた。

「そんな風に、……淋しそうに笑うな。……俺は、あんたの傍にいる」

 ああ、やっぱり。意地悪なこともいうけれど、からかわれる時もあるけれど。こんな時、ハクはいつもヨナの望む言葉をくれる。
 目頭が熱くなって、涙が零れるのを抑え切れなくて、ヨナはそっとハクの背中に細腕を回し、その肩に額を寄せた。
 ゆっくりと髪を撫でられて、徐々に落ち着きを取り戻すと、微かに耳に届くハクの鼓動と、呼吸の音。
 それをもっと確かなものにしたくて、耳を鼓動に触れさせるように首を動かすと、ハクのどこか真剣な瞳とぶつかった。

「……ハク」

 音にすらならない声で、ハクの名前を呼ぶ。髪を撫でていた手が、うなじへと触れる。零れかけた涙が、ハクの唇に吸い取られる。

「……ヨナ姫」

 ヨナの頤に、もう片方の手がかけられ、僅かに上向かされ。唇から、小さな吐息が零れ、強い力で抱き寄せられて――――。

「ハク、姫様は目を覚まされたか?」

 近づいてきたハクの顔は、扉越しに聞こえたキジャの声にぴたりと止まり。その後何事もなかったかのように扉へ向かうハクとは対照的に、ヨナの頬には熱が上っていた。

【2】 へ ← 暁のヨナ 目次
スポンサーサイト

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

琳架

Author:琳架

web拍手 by FC2

 ↑ 9/1変更 (全6種)
 桜涙・雨弓・明陽
 図書戦・LOVE SO LIFE・ヨナ
  ※携帯版が確認出来ないので、こちらに統合しました。

Twitter・SS専用アカウント→ @sakuraironoyoru

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

最新記事

検索フォーム

月別アーカイブ

西暦をクリックして下さい。

カウンター

FC2ブログランキング

ランキングに参加しています。

FC2Blog Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。