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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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暁のヨナ 大切なのは【2】

暁のヨナ 目次へ 二次創作Index

『誰よりも、何よりも。俺は、あんたが……』



 水を汲んで戻って来たハクは、ゼノがいたはずの店の前に、誰の姿もない事に気付いて、人波に視線を走らせた。

「ユン!」

 見つけたユンの表情は、珍しく狼狽えていて、その横には顔を蒼白にした男とゼノがいる。

「姫さんは? どうした?」
「兄ちゃん、娘さんは宿の中だ」
「……は!?」

 ゼノの言葉の意味を一瞬理解出来なくて、ハクは怪訝な顔で問い返した。

「子供が中に取り残されてるって聞いて、ヨナ、走って中に……ごめんハク、俺が目を離したから」
「……っの、じゃじゃ馬姫……っ」

 既に西側の部屋の消火は始まっている。ハクは宿の前に集められた、水が入っている沢山の桶の一つを手に取り、それを頭から勢いよく被った。

「え、ちょ、何してるんだいハク!?」
「姫さんが中にいる」
「何だと!?」

 ハクの行動に驚くジェハと、ヨナが中にいることを知って狼狽えるキジャなど気にせずに、ハクはもくもくと吹き上がる煙の中へと躊躇わずに入って行く。

「姫さんっ、どこだ!?」

 玄関付近はまだ、煙は少ない。どこの部屋だったかを先に聞くべきだった、と冷静さを欠いていた事に臍を噛みながら、徐々に濃くなっていく煙の向こう側を見据え――――暁色の、髪を見つけた。

「姫さん!」

 駆け出して、傾いでいくヨナの体を受け止める。

「ハ、ク……?」

 酸欠になりかかっているのだろう、くったりと体に力の入っていないヨナの姿に思わず舌打ちをして、怒鳴りたいのを必死で堪えながら、その体をきつく抱きしめた。
 炎の熱で外套も、彼女の身体も熱くはなっているけれど、外傷は見当たらない。心配なのは鼻や喉への影響だが、それはここを出てからでなければ治療も出来ない。
 はぁ、と詰めていた息をゆっくりと吐き出す。安堵したのも束の間、きゅ、と上着を引っ張られた。

(この子か)

 上着を掴む、小さな手。知らず、鋭い視線になっていたのか、子供が怯えて上着を掴んでいた手を離す。

「いいから、掴んでろ。歩けるな?」

 少しだけ柔らかい声で告げると、子供はこくん、と頷いて、またハクの上着をそっと握った。

「ハク……?」
「姫さんは黙ってろ。口元だけ覆っとけ」

 ヨナの体を横抱きにして、子供を置いて行かないようにと、ハクは慎重に足を進めた。
 外へ出ると、子供は被っていた布を払いのけて、弾かれるように走り出した。その先には膝をついて待ち構える男の姿がある。

「良かったな、姫さん」

 僅かな微笑みを浮かべながら、腕の中にいるヨナに囁く。だが、彼女からの返事は返って来ない。

「姫さん?」

 少し腕を動かして、ヨナの顔を覗き込むと、彼女の瞳は閉ざされていた。一瞬煙を吸ったせいで呼吸困難にでもなったのかと思ったが、ハクに会った事で気が緩んだのだろう。唇から零れる穏やかな呼吸にホッとした。

 それからどれ程の時が経ったのか。宿屋を襲った炎はしつこく燃えさかり、つい先程、やっと消えてくれた。水を汲み、そして炎を消すのに尽力していた四龍達も、今は宿屋の反対側、荷物を置かせてくれていたこの店の一室にいるはずだ。
 気を失ったヨナを、とりあえず横に慣れる場所へ運ぼうとしたら、薬屋の主人が狭いですが、と部屋を貸してくれた。簡素な寝台に横になったヨナは、まだ目を覚まさない。
 寝台の端に座り、指先で、額にかかった前髪をそっと避ける。ぴくりとも反応しないその様が不安を煽り、そして無性に苛立って、ハクは両手を伸ばし、白い頬に触れ。
 ぎゅむっ、と左右に引っ張った。

「いっ!?」

 突然の痛みに驚いたのか、ヨナの瞳がパッと開く。

「オハヨウゴザイマス、ヨナ姫様」

 にっこり、と笑って指を離すと、ヨナは両手で引っ張られた頬を擦った。

「痛いわよ、ハク。何をするの?」
「何を、じゃないですよ。自分が何したか、覚えてないんですか?」
「え? ……あ」

 自分の行動を思い出したのか、途端にばつの悪い顔になったヨナに、ハクは迫力のある笑顔のまま言葉を紡いだ。

「……大人しくしててくださいって、言いましたよね」
「でも」
「言いましたよね?」

 一字一字区切るように強く発音されて、ヨナはしゅんと肩を落としながら「……はい」と答えた。

「……あの、子供は……?」
(自分の事より子供の事かよ……)

 ハクは深い溜息をついた後で、無事です、と告げた。

「……子供を助けた事に関しては、よくやったと言いますが、水も被らずに火の中に飛び込むのは自殺行為です」
「……そう、なの?」
「そうです」

 答えながら、ハクはやはり、と思った。彼女の事だから、炎から自分の身を守る術を知らないかもしれないとは思っていたのだ。

(知らずに飛び込むなんて、無茶をする……)
「……あんたはどれだけ、俺に心配させれば気が済むんですか」

 額に手を当てて、うなだれるハクの耳に、体を起こしたヨナの小さな呟きが届いた。

「それは……私が姫だから?」
「姫さん?」
「私が姫だから、心配するの……?」

 微かに潤んだ瞳がハクを見上げる。

「……『あんただから』ですよ」

 両腕を伸ばして、ハクは、ヨナの身体を抱き寄せた。

「誰よりも、何よりも。俺は、あんたが……あんただから」

 どれ程心配をかけられても。どれ程彼女が無茶をしようとも。
 愛なんて言葉では、到底片付けられない程に――――男としても、従者としても護りたい、ただ一人の女。

「大事なんだよ」

 吐息に混ぜて、ハクは優しく告げた。

【1】 へ ← 暁のヨナ 目次へ → 【3】(完) 
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