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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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震災SS 忘れてはいけないこと

TOPへ 東日本大震災と福島第一原発事故 目次

【注意!!】
 震災から4年。今年は書かないつもりでいましたが、やはりまた眠れなくて、思い付くままにつらつらと書いてしまったものです。今回は震災SSというよりも、ご都合主義になってしまっているような気も……一応、客観的には書いたつもりなのですが。
 いい加減にしろと思われる方、ご不快になられる方もいらっしゃると思います。お嫌な方はこのままトップページにお戻りください。



「ったく、あんたは。好き好んで戻って来なくても良かったのに」

 大学を卒業し、福島で就職を決め、地元へ戻ってきた彼は、車で駅まで迎えに来た姉に、苦笑しながらそう言われた。

「じゃあ何で姉貴はここにいんだよ」
「いいのよ、私はここが好きなんだから」
「それは俺も同じ」

 何があったとしても、ここは彼の故郷で、彼の大好きな地なのだ。

『バッカだなーお前、せっかく上京したってのに、わざわざ帰んなくたっていいじゃん』

 福島で就職を決めた時、同郷の先輩からはそんな風に言われた。先輩は、福島に帰省する度に聞かされる、原発や避難者の話が嫌だという。でも、自分は……。

「ちゃんと、現実見ようと思って」
「……一番現実を見ていないのは、私達かも知れないわよ」
「え?」
「……もう、文句を言うことしか、出来ないからね」

 やれる事など何もない。地震と津波だけの被害からは、もう大分立ち直っている。放射線量も大きな変動はない。
 後はもう、政府と専門家の仕事なのだ。一般人に原発廃炉の手伝いが出来るはずもなく、除染作業はどれだけやってもキリがない。除染をしたとて、未だ中間貯蔵施設に運ぶ事も出来ず、最終処分場など県外に作れるわけもない。
 解っていても、嫌だと言い続けるのは、現実から目を背けていることになるのだろうか。

『もう4年だろ。福島に住む人間は傷の舐め合いをしてるだけだよ』

 同郷の先輩は、そう告げた。

『まだ4年、でしょ。原発がコントロールされてるなら、汚染水が流れたりしない』

 彼女は、そう告げた。

「でも、言わなければ全部忘れられて、無かったことになるかも知れない。あんたは、どっちがいいと思う?」
「どっち、って……」

 そこで家に辿り着いてしまい、姉弟の会話は終わってしまったけれど。
 家族で外食をした際に、たまたま耳にした避難者の会話。対する地元民の愚痴に、彼は姉の言葉の意味を知った。
 諦めて、諦められなくて、諦めなくてはいけなくて、諦めたくなくて。その、繰り返し。
 誰もが望む現実を邪魔するのは、人としての感情か、際限のない欲か、それとも……現実から逃げてしまう、意志の弱さか。
 矛盾。軋轢。本音と建前。目先に囚われる人、未来を見据える人。関東圏では流れなかった、地元の報道。
 もしかしたら、県外よりも酷いかもしれない。負の感情がぐるぐる渦巻いているように、彼には見えた。

 ベッドの上に横になり、おもむろに携帯電話を取り出して、彼女の番号を呼び出した。

 ――――もしもし?
「あ……俺」
 ――――オレオレ詐欺は間に合ってます。
「……あのな」
 ――――ふふっ、冗談よ。どうかしたの?

 耳元で明るく笑う、機械越しの声に、体の中で澱んでいた何かが少しだけ和らいだ。

「お前の声が聞きたくなっただけ」

 彼は福島、彼女は関東圏。遠恋になると解っていても、彼は福島に戻ることをとりやめようとはしなかった。
 彼女は、それでいいと言ってくれたから。

 ――――嘘。声に元気がないよ?

 見抜かれて、彼はそっと笑った。そして、一つため息をついて、言葉を紡ぐ。

「こっちに帰ってきて、色んなものを見て、聞いてさ。……複雑化してんな、って思ったんだ」
 ――――うん?
「本当は簡単なはずなのに、……みんながややこしくしてるみたいだ」

 各自治体の、避難者と地元民の軋轢も。原発に対する葛藤も。言葉の矛盾も。

「言って当然の事もあるし、わがままとしか捉えられないこともあるし。何か、……結構いろいろ参った」
 ――――もう、またぐるぐる考え込んだの?
「……だな。悪い」
 ――――ううん、違うの。考え込んだっていいの。ただ、目の前のものまで見えなくならないでね。

 ほんの小さな事でも、確実に進んでる事はきっとあるよ、と、彼女は告げた。

「……うん。ありがとな。……そいやごめん、今日最後の荷造りの予定だったろ。邪魔したか?」

 今更だけど、と付け足せば、また彼女の笑い声が耳をくすぐる。

 ――――ホント、今更。でも大丈夫、もう発送の手続きはしたし、後は明日、私が行くだけだから。

 彼女は今夜、彼も知っている女友達のところへ泊めてもらい、明日になれば新たな地へと旅立つのだ。

「着いたらちゃんと連絡寄越せよ?」
 ――――はーい。……しなくても良くなりそうだけどね。
「ん? 聞こえなかった、何?」
 ――――ううん、ちゃんと連絡しますって言っただけー。

 何だか楽しそうな彼女の声に、少しは元気出た? と訊かれて、彼はもう一度礼を告げて通話を切った。
 そして、翌日――――。

「な……っ! え、は!?」
「あはははっ、あんたのそんな顔、久しぶりに見たわ~」
「作戦大成功♪」

 にこっ、と笑った関東圏にいるはずの彼女に、彼は思い切り面食らった。
 言い忘れてたけど、今日から一人、一緒に住むからと、朝食の時に姉に言われ。荷物持ちに着いて来た彼が、手持ち無沙汰で改札前にいたら、姉が聞き覚えのある名前を呼んだのだ。そんな訳無い、と思いながらも視線を移した先には和やかに会話する女二人の姿。

「な、何でお前ここにいんの! っつーか何で姉貴を知って」
「いやー、偶然て怖いわよね~。あんたん家に行くのに迷ったことがあって、その時道案内してくれたのが彼女だったのよ。それからはすっかりメル友♪」
「で、黙ってたけど私の就職先もここなの。仕事場に近いとこにはアパートなくて、そしたらお姉さんが『いっそ家に住む?』って言って下さって」
「って、父さん達は知ってんの!?」
「知ってるわよ、勿論。面接の時、家に泊まったし」

 あっけらかんと告げる姉とは対照的に、彼はがくりとうなだれてしまう。

「……何で、来たんだよ……」
「私も、何かしたいと思ったから。何も出来なくても、……自分で見てみたいと思ったから。キミの故郷を」

 そう言ってふわりと笑う彼女を、そのまま抱き寄せてしまいたい衝動と戦う彼に、彼女は追い打ちをかけた。

「……ひとりになんて、させてあげない」

 そう告げる彼女を見て、もう、我慢は出来なかった。片腕で、彼女を抱き寄せる。

 福島なんか、という人がいる。福島の力になりたい、と言ってくれる人がいる。
 際立つのはいつも批判的な言葉だけれど、そうではない言葉もたくさんある事を忘れてはならないのだろう。
 一緒に悩んで、一緒に泣いて、一緒に笑って。どんな事も、分け合って。
 そんな存在がこれからも傍にいてくれることに、彼は心の中で感謝した。
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  • 2015.03/12 12:08分
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