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暁のヨナ 大切なのは【1】

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炎が燃え盛る中、取り残された子供を助けに行くのは……。



 火事だ、と誰かが叫んだ声で、目が覚めた。

「ハク、ユンくん、ヨナちゃん起きてる!?」

 ドンドンドンッ! 荒々しく扉を叩く音と、珍しいジェハの大声に、ユンとヨナ、そしてハクの三人は飛び起きた。

「どうした!?」
「西側で火事だ、こっちはまだ火が回っていないけど、早く外へ!」
「姫さん、ユン!」

 火事と聞いて、着替えている時間はない。外套や上着を羽織り、元々まとめてあった荷物を手にし、ハクが扉を開く。
 瞬間、空気を求めているかのように、灰色の煙が部屋の中へと入り込んできた。

「煙が……けほっ」
「袖で鼻と口を覆って、姿勢を低くして!」

 言葉を紡ぐと同時に、煙を吸い込んでしまったヨナに、ユンのくぐもった声が届く。若干息苦しいけれど、それは仕方がない。浅く呼吸をしながら、ユンを先頭に、ヨナ、ハクが後に続き、宿の玄関までを歩いた。

「姫様、ご無事で!」
「私は大丈夫」

 外に出た途端、駆け寄ってきたキジャに笑いかけながら答えると、ジェハもシンアも、ゼノもホッとした表情を見せる。

「でも……」

 区画の角にあるこの宿屋は、南に玄関があり、部屋は東棟と西棟に分かれている。ヨナ達が泊まっていた東側には隣接する店があるが、西側は道しかない。ここからでも見える、燃え盛る赤い炎は、黒い煙を吐き出しながらその手を別の部屋へと伸ばしていく。

「空気が乾燥してるんだ、火の回りが早い……」
「あああ、私の宿が……!」
「こっからじゃ川も遠いな……」
「けど、ほっとけば他の家も焼けてしまうね」
「……井戸が、ある」

 シンアの呟きに、井戸の存在を思い出した宿の主人が動き出した。近隣の住民も、延焼を免れようと、ありったけの桶をかき集めてくる。

「俺達も手伝ってきます。姫さんは大人しく待ってて下さい」
「ハク」

 私も手伝う、と言いかけたけれど、多量の水を運ぶのであればヨナは足手まといにしかならない。消火するのに時間はかけられないのだから。
 悔しげに唇を噛むと、ハクの手がそっとヨナの髪を撫でた。

「とりあえずは、物陰で着替えて下さい。その格好じゃ風邪を引きます」

 寝間着に、ただ外套を羽織っただけの姿。今は宿を燃やしている炎の熱が届いているから寒くないだけなのだと思い出して、ヨナは慌てて外套の前をかき合わせた。

「ユンくん、荷物はあのご主人が預かってくれてるから」

 道を挟んで宿と反対側の店の主人が、荷物に煤が被らぬようにと、大きな布をゼノに渡しているのが見えた。

「ユン、姫さんと荷物頼んだ」
「了解。ヨナ、行こう」

 ハク達の背中を見送り、続々と集まって来る人波を抜けようと踵を返したその時、ヨナの瞳に愕然とした表情の男が映った。

「ヨナ?」

 何故だか気になって、傍に駆け寄れば、男の体からは強い酒の匂いがした。遊郭か、はたまたどこかの店でしこたま飲んだだろう事が窺える。が、酒を飲んだならば普通は赤くなるはずの顔は、見るからに蒼白だった。

「どうしたの?」
「こ、子供が……子供が中に……っ」
「っ、どこ!?」
「と、東南の角部屋……」

 ヨナ達が出てくる時点で、東側にも煙が来ていた。あれから炎は勢いを増している、既に東棟にもその赤い手は伸びているかもしれない。
 ――――などとは、ヨナの頭に欠片も思い浮かぶことはなく。
 殆ど衝動的に、ヨナは炎へと向かい走り出していた。

「え、ヨナ!?」
「娘さん!?」

 大半の人間が井戸へと水を汲みに行っている上に、この炎の中へ行く輩がいるとは思わなかった野次馬も、反応が遅れ。荷物に布を被せていて目を離していたユンも、ゼノも。
 誰もヨナを、止められなかった。

(良かった、まだ火はここまで来てないわ)

 ユンの言葉通り、袖口で鼻と口を覆いながら、東南の角部屋を目指す。ヨナ達が泊まっていた東側の部屋までの道は解る。角部屋という事は、泊まっていた部屋まで行かずとも辿り着けるはずだ。
 姿勢を低く、なるべく煙を吸わないように。籠もった熱気に汗を流しながら、ヨナは廊下を進み、そして奇妙な塊を見つけた。

(布……?)

 どうしてこんなところに、と訝しんだ時、微かに聞こえた泣き声。それが恐らくは子供だろうと察したヨナは、なるべく驚かせないようにそっと、その塊に触れた。
 びくり、と触れた手から震えが伝わり、ヨナは安心させるようにぽんぽん、と塊を叩く。いつもハクが、ヨナにそうしてくれるように。
 そろりそろりと布から現れる黒髪。涙で顔がぐしゃぐしゃになったその少年に向かって、ヨナはにこりと笑った。

「今ならまだ出られるから、大丈夫。立てる?」

 恐怖で声が出ないのか、それでも頷いた子供の顔を布で覆わせて、手を繋ぐ。泣きじゃくって熱を持った手はとても柔らかく、幼子を置いて酒を飲みに行っていたあの男に少なからず怒りが湧いた。
 いや、そもそも火事など起きなければ、この子供は平和に部屋で眠っていたはず。故意に引き起こされた火事なのか、それとも不測の事態か、今は解らないけれど。
 とにかく今は、この子供を外へと連れ出さなければと、ヨナは一歩ずつ慎重に屈んで歩いた。
 灰色だった煙が、どんどん黒くなっていく。炎はすぐそこまで来ているのだろうか。だんだん息をするのが難しくなって、どれだけ袖口で覆っていても、入り込んでくる煙がヨナの喉を刺激する。
 酸素が少なくなってきて、頭がぼうっとし始めた。この先に出口があるはずなのに、煙で視界は閉ざされてしまっていて方向が解らなくなる。

(……早く、外に出なくちゃ……)

 そう思うのに、反対に意識が遠のいて、身体が揺らいだその時。

「姫さん!」

 ハクの声が、聞こえた気がした。

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