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暁のヨナ 人間(ひと)で在る事を

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見えない本音」でスウォンの本音を引き出せる人……と考えたら、この方しか思い浮かびませんでした。
結局引き出せてませんけど(苦笑)

『……王だとて人間。どうかそれを、お忘れなきよう』



 ……名を呼ぶ事は、出来なかった。
 昔のように呼び掛けられるはずもないのに、凍りついたかのように彼女の名も、彼の名も、呼べなかった。

(ヨナ……)

 阿波で再会した時とは違う、鋭い瞳で自分を見た少女。あの瞳に込められた感情は、何だったのだろう。憎しみ? 怒り?

(……私は、ヨナを憎んだ事など――――)

 無いと、言い切れるだろうか。本来ならば父であるユホンが王になっていて、自分は皇太子のはずだった。
 それを、悔しく思わぬ訳はない。ただ、父はそれでも笑っていたから。王座などは瑣末事だと。弟であるイルを、この国を、最前線で守ろうと笑っていたから。
 ヨナがいて、ハクがいて。ただ穏やかに過ごせればスウォンはそれでも良かったのだ。
 ……父が、殺されるまでは。

(あの日――――)

 仇討ちの夜。あの日を待っていた。ヨナに、ハクに笑顔を向けながら、心の中で機を伺い、己の味方を増やして。
 決めたのに。どうして、彼女は。

(私の、事などを)

 勘違いにしたかった。勘違いであって欲しかった。
 妹にしか見ていなかった彼女が、急に女性にしか見えなくなって、それが。
 たった一言で変えられてしまった彼女の存在が、スウォンの心を掻き乱した。

(妹の、ままだったなら)

 殺すことに躊躇いを抱かなかったかもしれない。否、生かしておいて、そのまま城に置くことも、きっと出来なかった。例えヨナがあの場にいなくても、適当な理由をつけて彼女を城から出していただろう。ハクを護衛に、それこそ風の部族にでも預けていただろう。

(――――ハク)

 思いもしなかった再会。ヨナがいるなら、ハクもいる事は解っていたけれど、かつてのヨナとの再会のようにはいかなかった。行動だけではない、気持ちの上でも。
 真正面からぶつけられた、深い深い悲しみと怒り。……そうまでさせたのは、スウォン自身。
 後悔はしない。過去は振り返らない。自分は何も間違ったことなどしていない。少なくとも、スウォン自身がそう信じなければ――――迷いは簡単に、揺らぎを生じさせるから。

「スウォン様」
「……ムンドク長老?」

 物思いに耽るスウォンにかけられた、低い声に思考が遮られた。

 スウォンを見るその瞳は、もうかつてのような優しさや慈しみを含んだものではなくなっている。それに寂しさを感じないといえば嘘になるけれど、スウォンは何事もないかのように穏やかに笑って見せた。

「テウ将軍の付き添いですか?」
「テウはもう子供ではありません。ですが、少しスウォン様にお話がありましてな」
「話……ですか?」

 はい、と先程とは打って変わったかのような、穏やかな瞳を向けるムンドクに、スウォンは目を瞠った。

「……孫のように、と言ったのは、嘘ではありませんぞ」
「……ムンドク長老……」
「あなたは王。ですが……その胸の内に抱える感情すべてを押し殺そうとすれば、いつかその身に破滅を招きかねません」

 諭すような声音に、スウォンはスッと瞳を細めた。

「……そんな事は、覚悟の上ですが?」
「生半な覚悟でないことは承知しておりますが。……亡き我が孫と姫の存在は、スウォン様にとって、それほど軽いものではなかったでしょう」

 ハクとヨナ。覚悟という言葉一つで簡単に切り捨てられる存在だったならば、今だとて、こんなに――――。
 ムンドクは、二人が生きていることを知らない。知れば風の部族は、必ず敵に回るだろう。否、ヨナがそれを望めば、かも知れないが。
 ぐっ、と服の袖の中で、強く拳を握り、声を発しようとしたスウォンを制するかのように、ムンドクがおもむろに礼の構えを取った。

「……王だとて人間。どうかそれを、お忘れなきよう」

 そしてムンドクは、そっと頭を下げて、振り向かずにその場を去っていった。

「……すみません、ムンドク師匠。その言葉は、……聞かなかったことにします」

 今は、スウォンと言う「個人」になることは決して出来ない。「王」が揺らげば臣下も、果ては「国」までが揺れる。
 ……その重圧の中で、自らの覚悟だけが、今のスウォンを支え、導いている。スウォンが「個人」になれるとしたらおそらくそれは、スウォン自身の鼓動が止まる瞬間だろう。
 ――――けれど。

「ありがとう、ございます。……師匠」

 呟いた言葉は、ゆっくりと暁の空に溶けて行った。


「あ。いたいた長老! どこ行ってたんです?」
「スウォン様にな、お願いしてきたんじゃ」
「……あの人が長老のお願いなんて聞きますかね~」

 頭をガシガシと掻きながら告げるテウに、ムンドクは苦笑を返した。

(スウォン様……。どうかあなた自身を捨てないでくだされ)

 暁の空を見上げながら、ムンドクは思う。

(人としての心……、絆や、想い。それを失くせば、付け入れられる隙が多くなる)

 いくらスウォン自身が優秀でも、年齢の差だけは如何ともしがたい。せめて傀儡にされる危険性だけでも回避せねば、次はスウォンが殺される、ということも有り得るだろう。

(姫様……。ハク)

 生きていると信じている。だが、今は決して戻れぬ二人の代わりに、この瞳でしかと見届ける。この国と――――そして、ハクとヨナが確かに大事にしていた、スウォンの行く末を。

暁のヨナ 目次
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