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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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雨の弓【1】 叶わなかった願い

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突発的短編 (現代FT・元恋人)


「虹が見たいな」

 ホースや噴水で出来る小さな虹ではなく、青空いっぱいに広がる大きな虹が見たいと、彼女は言った。

「雨が降らなきゃ無理だよ? それに……」
「解ってるわよ、それくらい!」

 べーっ、といじけたように笑う彼女が、ほんの少し寂しそうだった。




「起っきろー、レインっ!」
「ぐえっ!」

 可愛らしい声が聞こえたかと思えば、ドスンッと、胸に重い衝撃。一瞬呼吸が止まりかけたけれど、幸い胸に落ちてきた重みはすぐに退いてくれた。

「けほっ、てめ……コーリ! いきなり何しやがる!」

 レインの体自体からは退いてくれたものの、未だベッドの上にいる彼女────コーリは、きょとんとした瞳でレインを見下ろしている。
 白いレースがたっぷりと使われた、薄いワンピースを着た少女。ふわふわの亜麻色の髪が、首を傾げると同時に揺れる。そして彼女は、にっこりと笑った。その笑顔のまま、レインの胸倉を掴みあげて。

「いつまで寝てんの、このねぼすけ! とっとと起きて支度しなさいっ!」

 寝起きの頭には、強烈な一声をお見舞いされて、レインは思わず両手で耳を塞いだ。

「だからって、この起こし方はないだろーよ……」
「そーでもしないと起きないのは誰? ほらっ、ちゃっちゃと目ぇ覚ます! 今日は仕事一つしかないんだから」
「はいはい、解ったよ」
「じゃ、噴水の前で待ってるからね! 制限時間は五分、以上!」
「待てっ、こっから噴水まで五分で行けるかっ……あのやろ、人の話聞いちゃいねぇ……」

 言うやいなや、コーリはパタパタとドアに向かって走り、あっという間に部屋からいなくなってしまった。
 仕方ない、と呟いて、のろのろとベッドから抜け出す。クローゼットに歩み寄り、扉を開けて、レインが身に纏うのは黒い服。髪も、瞳も黒いレインは、これにマントを羽織ると完全に闇に溶けてしまう。
 立てかけておいた、レインの身長よりも高い鎌を手に取る。レインが死神となってから、ずっと共に働いてきた相棒だ。

「さて、行くか」

 今日の対象は誰だか知らないけれど、多分コーリがレインの分の資料を読んでくれているだろう。いつだってレインは、対象の資料を読んだ事がない。これから命を刈り取る人間のこれまでの経歴や生き様を読むと……色んな感情が胸に渦巻くから。
 例えば、自殺する人間を見れば、「ふざけんじゃねえ!」と怒鳴りたくなるし、不治の病で死を覚悟した人間の前に立てば、レインはその人の代わりに一粒の涙を零す。
 仕事上のパートナーであるコーリは、「それでいいのよ」と笑ってくれる。見た目は小柄ながらも、死神としてはレインよりも遙かに長い時を生きている彼女は、時々そんな風に大人びた笑みを見せる。

「よお、レイン。今から仕事か?」
「ああ。アクアは?」
「俺は今日の分は終わり。まだ小さい男の子でさぁ……ショウカが泣くわ泣くわ大騒ぎ」

 ショウカはアクアのパートナーで、しっかりとした外見に似合わず、意外に涙脆かったりする少女だ。

「で、その対象の男の子まで泣き出してさぁ……。俺、ショウカと男の子と慰めんのに一時間かかったぞ」
「……そりゃ大変だったな」
「ま、仕方ない。俺がパートナーに選んだヤツだしな」

 結局それが言いたかったのか、とレインは苦笑した。アクアとショウカは死神の中でも有名なカップルで、噂によればアクアがショウカを口説き落としたという。

「じゃ、仕事頑張れよ~!」
「おうよ」

 金髪の同僚に手を振って、レインはまた歩き出す。コーリとの待ち合わせは中央ロビーの噴水の前。雲の下の世界へ行くための扉がそこなのだ。

(……怒ってるだろーな)

 と、そう解っていても足を速めないのがレインで。これでまた、コーリの雷が落ちるのは間違いない。
 そして案の定、噴水の前で仁王立ちしているコーリが彼の姿を見つけた途端。びしぃっ、と指先を突きつけられ、通路中を巻き込みかねない大声で、叫んだ。

「遅いよレイン! 5分遅刻ーっ!!」
「……コーリ、声デカすぎ」

 良くも悪くも、天使のようにしか見えない彼女。尤も、外見のみに絞れば、の話だが。中身に関して言えば……先ほどの口調そのまま、と考えて間違いはない。

「ほらっ、さっさと行って、ちゃっちゃと終わらすわよ! 今日は楽しみにしてる連続ドラマの続き見るんだから!」
「って、ドラマかよっ!」

 レインを急がせる理由が、対象の死を確認するための時間ではなく、自分の娯楽のためと知って、レインはがくりと肩を落とした。

「はいはい、いーからとっとと入るっ!」
「げっ、押すなバカっ!」

 問答無用で背中を押され、レインの体は噴水の中にバシャンッと音を立てて落ちた。


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