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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙 【夢の中で、君は】

桜涙 目次へ 一次創作Index

 4周年記念SS第3弾・『桜涙 竜城×朱里』です。
 アンケートでは毎年一位です、さすがに思い入れが違うだけはある、のかな?
 オリジナルに関しては、大雑把な設定でのリクエストも頂いているので、そちらも書けたら書きたいと思います。
 では、続きからどうぞ。

 こちらはフリー配布と致しますので、お気に召した方はどうぞお持ち帰り下さい。
 ですが、著作権は放棄しておりませんので、転載される場合にはこのブログのSSである事を明記して頂ければと思います。特に報告の必要はありません。



 ああ、これは夢だ。と、竜城は唐突に理解した。だって、朱里が泣いている。
 あの日、咲き乱れた桜の下で、静かに頬を涙に濡らした朱里の姿だ。

(……泣く、なよ)

 今なら、今の竜城なら。きっと手は届く。抱き締めることが出来る。だから。

(泣くな……っ!)

 そう、手を伸ばした……つもりでも。夢の中では、竜城の指先は自分の思う通りに動いてはくれなかった。
 朱里は竜城に気付きもせずに、もしかしたら己が泣いていることさえも知らずに、ただ咲き乱れた桜を見上げていた。

「あかり……!」

 自分が、彼女を呼んだ声で目が覚めた。日曜なのをいいことに、ベッドでゴロゴロしながら雑誌を見ていたら、いつの間にかうたた寝をしていたようだ。

「……なんて夢だよ……」

 上半身を起こし、夢の中で届かなかった指先をぎゅっと握り締める。体は僅かに汗ばんでいて、竜城はシャワーを浴びようと部屋を出た。
 タンタンと階段を下りていくと、扉が開けられたままのリビングから、母の楽しそうな声が聞こえた。

「……ふふ、そうそう」
(お客さんか……?)

 挨拶するにも、今か、シャワーを浴びてからにするかと悩んでいると。

「ね、こうすると素敵でしょう?」
「はい」

 短い返答。だが、竜城にはそれだけで充分だった。
 途中で止まっていた階段を駆け降りて、リビングへと顔を出す。

「あら、起きたの」
「あ。お邪魔してます」

 足音に気付いて振り返る一人は毎日見ている母親、そしてぺこりと頭を下げるもう一人は、想像に違わず。

「朱里!?」
「お昼過ぎだけど、おはよう?」

 小さく微笑みながら告げられた言葉に、反射的に答えを返す。

「ああ、おはよ……。って、な、お前何して……じゃない、えーと。……一人で、来たのか?」
「さっきまでは藍里もいたんだけど……家に呼び戻されちゃって。私は」
「花の活け方が綺麗だなんて、久しぶりに言われたわ~♪」

 るん♪ と音が聞こえそうな程嬉しげな母の声。ソファの背もたれからテーブルに視線を移すと、庭に咲いている色とりどりのビオラが、茎を短く切られて、透明なガラスの中で、水に浮かんでいる。
 それは竜城の手のひらほどの大きさだったけれど、それだけでも充分な華やかさを持っていた。

「うちにもビオラ、たくさん咲いてるから……教わっていたの」
「そっか」

 間近で見ようと朱里の側に寄ると、彼女の表情が不意に曇った。

「……嫌な夢でも、見たの……?」
「え」
「顔色、少し悪いから……」
「……うん、ちょっとな。でも大丈夫だよ。シャワー浴びて来る」
「あ、竜城。今晩、仁科さん家で焼肉パーティーですって」
「は!? 聞いてないぞ」
「今言ったわ」

 飄々と告げる母親を見て、竜城はがくりと肩を落とした。

「何で突然焼肉……? しかも朱里ん家」
「ほら、少し前に商店街でくじ引きしてたでしょ?」
「ああ、いっつもおまけのポケットティッシュで、たまにスーパーの値引き券しか当たんないやつな」
「それが今回、仁科さん家で当たっちゃったらしくて。二等の焼肉詰め合わせが」
「……くじ引いたの、朱里か?」
「? 何で解ったの?」

 解るに決まっている。何しろ藍里も、二人の母である知佳も、くじ運はあまり良くはない。というか、はっきり言ってないに等しい。
 その仁科家で当たったというのなら、今までくじ引きなどした事がないであろう朱里が当てたと考えるのが妥当だ。

「で、言い出したのは藍里だな」
「うん。量が多くて……おすそ分けするつもりだったのだけど、藍里がいきなり『焼肉パーティーしよう!』って言い出したの」

 もう少し暑い時期だったなら、恐らくはどちらかの家の庭でバーベキューパーティーだっただろう事は、容易に想像がついた。

「だから、あんたは先に朱里ちゃんと行って、お野菜持ってっといて」
「母さんは?」
「お父さんも今日は早いはずだし、後で一緒にお邪魔するわね」

 にこ、と朱里に向かって笑う母に、朱里は「はい」と嬉しげに頷いた。

「了解。じゃ、悪い朱里。ちょっと待ってて……ってか、俺の部屋で本でも読んでる?」
「あんたの本棚なんて漫画ばっかりでしょうが」

 母の突っ込みに「ほっとけ」と返すと、朱里は膝に置いた拳をきゅっと握って、躊躇うように口を開いた。

「えと、……おばさまがご迷惑じゃなければ、もう少しお花のこと、教えて頂きたい……です」

 望みを告げる朱里に、母は「もちろん♪」と言葉を返した。
 母は知らない。今の朱里の言葉に、どれほど彼女が勇気を必要としたか。
 そして、竜城も知らない。少しずつでも、誰かの為ではなく、自分の為の望みを言葉に出来るようになった朱里を、自分がどんな瞳で見ているかを。

(とりあえずシャワー浴びるか)

 楽しげに話し出す母と朱里から視線を外し、竜城はリビングを出て風呂場に向かった。

*****

「……頂いてしまって、良かったのかな……?」

 あまり保つものではないけれど、と、竜城の母は先に仁科家へと向かう朱里の手に、一番最初にビオラを活けたガラスの器を手渡した。

「いーんだよ、母さん喜んでたし。藍里は花よりもビーズとかのが好きだしな」
「ふふ、そうね」

 朱里が携帯電話を買ってもらった後、藍里は桜色のビーズで、花模様のストラップを作って彼女に渡したのだ。藍里は薄紫、竜城は濃い青で同じ花模様。三人での、初めてのお揃いだった。
 そしてそのストラップは今も、竜城と朱里のポケットで揺れている。

「ん?」

 隣を歩く朱里からの視線を感じて、竜城は問い掛ける。

「顔色、良くなったなって思って」
「あ~……。夢見が悪かったからな」
「どんな夢だったの?」
「……夢、っつーか……記憶? ……お前が、泣いてた。桜の下で」

 あの時の? と、呟いた朱里に、竜城は頷く。本当に記憶だったのなら、あの後は一海が現れるはずだったけれど、そうではなかった。ただ、朱里が静かに泣いていた。
 荷物を持っていない手を、空へ翳すように伸ばしてみる。

「――――届かなくてさ」
「え?」
「俺の声も、俺の手も。……朱里に、届かなかったんだ」
「……そう」

 夢なのに。いや、夢だからこそなのか。朱里の存在だけがやけに鮮明で、自分自身は動けもしなくて。……叫んで、目が覚めた。

「でも」
「え」

 ガラスの器を持つ朱里の片手に触れる。

「……届くだろ? 今は」

 夢の中では、届かなかった手で。朱里の指先を握り込む。

「……傍に、いるんだからさ」

 そう、竜城が告げると、朱里の黒い瞳が僅かに見開かれて、そして。
 はにかむように、微笑んだ。

「藍里が迎えに来る前に、とっとと行くか」
「え? どうして藍里が迎えに来るの?」

 意味が解らない、と小首を傾げた朱里に苦笑して、竜城は繋いだ手を引きながら笑う。

「藍里は、朱里が大好きなんだよ」

 束の間の二人きりの時間を、ゆっくり歩きたいけれど、朱里と二人でいると藍里に知られたら、絶対彼女は邪魔をしに来る。断言してもいいくらいだ。

(……携帯の電源、切っとくかな)

 と、思ったものの。片手は野菜の入った袋を持ち、片手は朱里と繋いでいる。
 さてどうしようかと悩んでいる間に、仁科家に着くのが先か、藍里が来るのが先か。

(ま、俺が出なきゃ朱里にかかってくるから結局は同じか)

 今はただ、隣に朱里がいる事だけを考えていたい。
 今日ではなくても、いつかまた彼女が夢に出てきた時は、隣で笑う朱里でありますようにと願いを込めて。

桜涙 目次
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