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2014.07/12 [Sat]
拍手SS お祝いはチョコケーキ 「梅雨の或る日」
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拍手SSの再掲です。
2013年 6月 携帯用SS
お祝いはチョコケーキ 伊吹×里沙
「……俺達のデートって、いつも雨だよなぁ」
「晴れの日は部活なんだから、仕方ないじゃない?」
「まぁ、そうなんだけど……。だからってさ」
本格的に梅雨入りし、雨の日はグラウンドが使えないためにサッカー部は休みになる。そんな時はいつも、放課後の制服デートになるのだけれど。
背後を振り向いた伊吹の視線から、慌てて隠れるのは、賭け事が大好きな部活仲間達だ。
「いー加減、あいつらの賭け事の対象から外れたいわ、俺」
「今度は何を賭けてるのかしらね?」
付き合ってからも、度々伊吹と里沙は賭け事の対象にされている。大抵は途中で気付いた伊吹が中断させるのだが……。
「……鬱陶しくね?」
「……撒く?」
里沙の言葉に伊吹はコクリと頷き、次の瞬間、里沙の手を握り走り出した。
「あっ! 逃げた!」
「待てー!」
(誰が待つか!)
背後から聞こえる声に、心中で答えて、手近な公園に駆け込む。
大きな紫陽花の影に身を潜め、息も殺し。仲間達が通り過ぎるのを待つ。
「いたか?」
「ダメ」
「ちっ、逃げられたか。賭けは次回に持ち越しだなぁ」
と、ぶつぶつ言いながら帰っていく仲間達。雨音に混ざる足音が聞こえなくなった頃、伊吹と里沙はそっと立ち上がった。
「紫陽花のおかげで見つからずに済んだな」
「うん。ふふ、綺麗」
指先をそっと伸ばして、手鞠型に咲く青紫の紫陽花に触れようとすると「おいっ」と慌てたような声と一緒に指を止められた。
「? どうしたの?」
「あ、いや、紫陽花って毒があるんじゃなかったっけ」
「花じゃなくて葉の方だったと思うけど……それに、食べるわけじゃないし。触ってもあとでちゃんと手を洗えば大丈夫なはずよ?」
「そっか」
納得してから離された指先で、青紫の花弁のようなガクに触れる。
「紫陽花っつーと、なんか蝸牛がセットな気ぃする」
「うん、私もー。折り紙とか、絵とか。紫陽花の葉の上には必ず蝸牛だった。……蛞蝓は嫌だけど」
「あれは俺も嫌い。けど、蝸牛なんて見てないな、ずっと」
子供の頃は見えていたもの。大人になって、背が伸びていくにつれて、地面に近いものは見えなくなって行く。
「……見えなくなるもの、たくさんあるんだろうね」
「見たくなくても、見なくちゃいけないものもな」
子供と大人の境目にいる二人は、雨粒に濡れる紫陽花を見ながら、小さく呟いた。
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「……俺達のデートって、いつも雨だよなぁ」
「晴れの日は部活なんだから、仕方ないじゃない?」
「まぁ、そうなんだけど……。だからってさ」
本格的に梅雨入りし、雨の日はグラウンドが使えないためにサッカー部は休みになる。そんな時はいつも、放課後の制服デートになるのだけれど。
背後を振り向いた伊吹の視線から、慌てて隠れるのは、賭け事が大好きな部活仲間達だ。
「いー加減、あいつらの賭け事の対象から外れたいわ、俺」
「今度は何を賭けてるのかしらね?」
付き合ってからも、度々伊吹と里沙は賭け事の対象にされている。大抵は途中で気付いた伊吹が中断させるのだが……。
「……鬱陶しくね?」
「……撒く?」
里沙の言葉に伊吹はコクリと頷き、次の瞬間、里沙の手を握り走り出した。
「あっ! 逃げた!」
「待てー!」
(誰が待つか!)
背後から聞こえる声に、心中で答えて、手近な公園に駆け込む。
大きな紫陽花の影に身を潜め、息も殺し。仲間達が通り過ぎるのを待つ。
「いたか?」
「ダメ」
「ちっ、逃げられたか。賭けは次回に持ち越しだなぁ」
と、ぶつぶつ言いながら帰っていく仲間達。雨音に混ざる足音が聞こえなくなった頃、伊吹と里沙はそっと立ち上がった。
「紫陽花のおかげで見つからずに済んだな」
「うん。ふふ、綺麗」
指先をそっと伸ばして、手鞠型に咲く青紫の紫陽花に触れようとすると「おいっ」と慌てたような声と一緒に指を止められた。
「? どうしたの?」
「あ、いや、紫陽花って毒があるんじゃなかったっけ」
「花じゃなくて葉の方だったと思うけど……それに、食べるわけじゃないし。触ってもあとでちゃんと手を洗えば大丈夫なはずよ?」
「そっか」
納得してから離された指先で、青紫の花弁のようなガクに触れる。
「紫陽花っつーと、なんか蝸牛がセットな気ぃする」
「うん、私もー。折り紙とか、絵とか。紫陽花の葉の上には必ず蝸牛だった。……蛞蝓は嫌だけど」
「あれは俺も嫌い。けど、蝸牛なんて見てないな、ずっと」
子供の頃は見えていたもの。大人になって、背が伸びていくにつれて、地面に近いものは見えなくなって行く。
「……見えなくなるもの、たくさんあるんだろうね」
「見たくなくても、見なくちゃいけないものもな」
子供と大人の境目にいる二人は、雨粒に濡れる紫陽花を見ながら、小さく呟いた。
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