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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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暁のヨナ 命の音

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 久しぶりすぎてイメージ壊れてない事を祈ります。

『ハクが、守ってくれている、命の音よ』



「ハクったら、こんな所に……! 片目が見えていないんだから、大人しくしててって、ユンが言っていたでしょう?」
「片目だけ見えれば充分ですよ」

 大木に背中を預けて座り込むハクを覗き込むように、ヨナは地面に両膝をついた。

「……痛い……?」

 そっと指先を伸ばして、片目を覆っている包帯に触れようとしたヨナの手首は、ぱしっ、とハクの手に捕われる。

「大丈夫ですよ、これくらい」

 口調はいつもと変わらない。口元も余裕を表すかのように笑んでいるけれど、痛まないわけがないのだ。
 麻薬人形達は、操られているだけで普通の人間。殺すのではなく、捕らえるのを目的としたハク達だが、正気を失った人間に戦法などあるはずもなく、どんな無茶な攻撃をも仕掛けて来る。
 そう、飲んでいた麻薬入りの酒をハクに浴びせ掛けて目潰しをし、反射的に目を閉じたハクのこめかみ近くを殴り。当然戦い慣れているハクにとっては大した痛手ではなかったけれど、殴られたせいか瞼がすっぱりと切れ、血がダラダラと流れた。
 それを見たヨナとユンが、問答無用で傷薬を塗り、包帯を巻いたのだ。

『とりあえず今夜一晩だけでも、包帯しといて! 外したらハクだけご飯抜きだからね!』

 何とも間抜けな、しかし腹が減っては戦は出来ぬの理をうまく使ったユンの脅迫に、ハクは大人しく従っていたのだが。
 ヨナが気がついた時、ハクの姿は目の届く範囲にはどこにもなくて。シンアに見てもらって、ハクを連れ戻しに来たのだ。

「……どうして、黙っていなくなってしまうの」
「……少し、歩きたかっただけです」

 その答えも確かに真実だろうけれど、ハクは何だか、とても難しい顔をしていて。
 けれどきっと、彼はそれをヨナには言わない。自分が背負っているものの大きさを、誰にも言わずに抱え込んで。

(……ハク)

 あなたが何もかも背負う事はない。
 そう、言えたなら────彼がこんな難しい顔をする事はなくなるだろうか。

(いいえ……)

 背負わせているのはヨナ自身。自分で背負うことさえ出来ないのに、言葉に出来るはずもない。
 だから、せめて。

「……姫さん……?」

 何も言えないのなら、せめて────。

 ハクに捕まれていない方の腕を伸ばし、そっとハクの髪に触れる。僅かに彼の頭を引き寄せると同時に、自分の身を寄せて抱え込む。

「……聞こえる……?」
「は……?」

 戸惑いを含んだ呟きに、囁くように告げる。

「……私の、命の音。ハクが、守ってくれている、命の音よ」

 一定のリズムで、とくん、とくん、と鼓動を刻む命の音。
 それは、ハクがいるからこそ、今、ヨナが生きていられるという事実。
 自らの鼓動に耳を澄ませるように、ヨナはゆっくりと瞳を閉じた。

 ヨナの行動に、ハクが戸惑ったのは一瞬だった。
 彼女の鼓動が聞こえる。穏やかな、柔らかい温もりがハクを包み込む。
 無事な右の瞳を閉じると、ヨナの手首を掴んでいるのとは逆の腕で、彼女の身をおもむろに抱き寄せた。
 鼓動を、温もりを、もっと感じたくて。

 緩やかな行動だったせいか、ヨナから抵抗は感じられない。いつもならば一つ二つ、軽口を叩くハクだけれど、今は……この静寂が心地いい。
 互いの息遣いと、命の音と。ざわめく葉音、肌にそっと触れていく小さな風。
 視覚以外の感覚すべてで、ハクはヨナを、ヨナはハクを感じていた。

(私には、こんな事しか出来ないけれど)

 武器を持って戦うことを覚えたとは言っても、ハクの隣に立てるほどは強くない。
 だからせめて、ハクの心が、少しでも軽くなるように。

(守りたい────……)

 ヨナのそんな想いに呼応したかのように、ヨナの右手を掴んでいたハクの左手が、一度だけ僅かに力を増し。そしてその手が、ヨナの赤い髪に触れると、彼女はハクの頭を緩やかに抱えていた左腕の力を抜いて。
 見つめ合う、強い意思を秘めた3つの瞳。
 ハクの指先が、ヨナの唇をゆっくりと撫でる。

「……荒れてますね」

 日に焼けた肌と同じ、小さな赤い唇は少しだけかさついている。引き寄せて、唇に触れようとしたけれど。

「姫さ……?」

 痛みで疼く左目の、包帯の上に感じた柔らかな感触。

「おまじない、よ」

 にこ、と幼い子供のようにヨナは笑い、こつんと額同士を合わせる。

「……早く良くなりますように」

 囁かれた、慈愛に満ちた言葉。ヨナ自身には欠片の意識もなかっただろうが、何かうまく躱されたというか、先手を打たれたというか。

「……ははっ」

 何とも言えずに笑い出すと、ヨナがきょとんと小首を傾げた。

「ハク……?」

 何か楽しいことがあったかと、ヨナは自分の行動を思い返してみた。のだが、思い出すとだんだん頬が熱くなって来る。

(あ、あら……?)

 鼓動が、先程よりもうるさい。
 ヨナがハクを抱きしめて、そっと包帯の上から唇を落としただけ。そこにはただ、己の命の音を感じてほしいという意識しかなかったのだけれど。
 体が熱い。先程見つめ合っていた事が夢であったかのように、ハクを直視出来ない。

「姫さん」
「な、なにっ?」
「冷えて来たんで、着ていて下さい」

 バサ、とハクの上着を頭から着せられて、ヨナは慌てた。

「ダメよ、ハクが寒いでしょ」
「俺は大丈夫です」
「ダメ、怪我人なんだから! もうっ、早く天幕に戻りましょ!」

 そもそも、天幕から離れたハクを探しに来たのだ。戻れば焚いている火で体を温められるのだからと、ヨナは立ち上がり。

「きゃ」

 ハクに腕を引かれ、座り込むと同時に抱き締められた。

「ハ、ク……?」
「……お返しです」

 どく、どく、力強く脈打つ音。……命の音が、聞こえる。

「……うん」

 いつしかその鼓動は、ヨナと同じリズムを刻み始める。

 いつまでも戻らぬ二人を探しに来たらしいゼノの声に静寂が破られるまで、あと少し。


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