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桜涙【9】 泣き顔

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『あいつの泣き顔が、頭から離れない……』



「……ん? 竜城ちゃん?」

 すぐ側で名前を呼ばれて、竜城はボーっと眺めていた窓から視線をはずした。

「あ、藍里か。どした?」

 目の前に、心配そうに竜城を覗き込む、幼なじみの少女の顔があった。ふわふわの茶髪を耳に掻きあげるその仕草が可愛い。

「どした、はこっちの台詞だよ。ずーっとボケッとしてるから、具合でも悪いのかと思って」
「いや、大丈夫だよ」
「そっか、良かった」
「……っ」

 ふわり、と笑うその微笑みが、昨日見た、彼女の笑顔と重なった。似ているのは当然だ、藍里と彼女は双子の姉妹で、しかも一卵性双生児だから、子供の頃は見間違える程そっくりだった。今は、二人を見間違える事はまず無いが。
 彼女────仁科朱里。藍里の双子の姉で、竜城のもう一人の幼なじみ。そして、人の心を読む化け物だ。
 それだけではない、人ならざる能力を持ち、10年前はその能力を暴走させて、竜城と藍里を傷付けた。それからずっと、竜城は藍里を傷付けさせない為に、朱里から遠ざけてきた。
 中身はまだまだ子供っぽくて、目を離す事が出来ない、可愛い藍里。外見もふわふわしているせいか、どうしても庇護したくなる。
 だけど、朱里は────。

(あいつが泣くの、初めて見た……)

 昨日、父親が働いている病院に、着替えを届けに行った。その帰りに寄ったサンルームの窓ガラスの向こうで、朱里が泣いていた。
 はらはらと、舞い散る花びらのように、静かに……。どこか儚げで、触れたら壊れてしまいそうで。そんな彼女を背後から抱きしめたのは、今年新任でやって来た、東堂一海だった。
 昨日まで、彼の存在はさして気にもしていなかった。だが、生徒である朱里と一緒にいた上に、彼女を抱きしめていたのであれば、それ程親密な関係なのだろう。
 じっ、とその光景を眺めていると、竜城の視線に気付いたのか、一海が竜城の方を向いた。そして、それまでよりも強く、朱里を抱きしめたように見えた。
 まるで、竜城を挑発するかのように。にやりと笑みを浮かべたままで。
 朱里は竜城の存在に気付くことなく、一海に手を引かれて歩いていった。
 今、竜城の目の前にいる藍里と同じ、ほんの少しだけほっとしたような、嬉しそうな、微笑みを残して。

「……藍里」
「なぁに?」

 東堂先生の事……と言いかけて、竜城は口を噤んだ。彼の事に触れれば、必然的に朱里の事に話が繋がってしまう。藍里には、朱里の話は禁句だ。

(ってか、何で俺気にしてんだよ? あいつは化け物なんだから、傷付くわけないのに)

 一昨日の夜だって……と思考の海に沈もうとした時、藍里の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「竜城ちゃん?」
「あ? ああ、何でもない。ほら次、化学室に移動だろ、行こう」
「あっ、待って!」

 パタパタと軽い足音が自分の後を付いてくる。ようやっと追いつき、竜城の隣に並んで微笑む藍里に、竜城も微笑み返す。
 自分が庇護すべきは藍里だ。自身の姉という存在に、怯えて暮らさなければならない恐怖を背負った少女。せめて竜城が傍にいる間は、その恐怖心を取り除いてやれると思って。



 化学の実験中、試験管を洗おうと窓際にある水道近くへ行くと、校庭でバスケをしているクラスがあった。どうやら男女混合らしい。

「何見てんだよ、竜城ー?」

 他のグループで、同じように試験管を手に持った、中学からの友達である成海航平が、ふざけて肩に腕を回してきた。

「あ? いや、男女混合なんて珍しいなと思ってさ」
「あぁ、今日女子の体育の先生、休みだからじゃね?」

 竜城にとっては、そんな情報はどうでもいい事だったので、ふーん、と返しただけだった。
 しかし、竜城の視線は校庭からはずれない。騒ぎを避けるように、少しだけその集団から距離を置いて、座っている少女がいたからだ。

「お、あれ仁科姉じゃん。ずっと一人でいるよなー、妹と違って」

 何を考えているのか解らない、無表情。くるくる表情が変わる藍里とは、本当に正反対だ。

「なに、竜城、仁科姉の事気にしてんの? ダメだろー、おまえにゃ仁科妹がいるじゃん」

 からかうように告げられた航平の言葉に、竜城は大声で怒鳴った。

「そんなんじゃねぇよっ。たまたま目に付いただけだ、誰があんなヤツ気にするかよ!」
「ど……どした、竜城。お前が声荒げるなんて珍しい」

 近くにいた実験グループも、航平も、竜城の大声に驚いていた。

「……悪い」

 自分でも、どうして大声を上げたのか解らない。ただ、何となく……何となく、目に付いたから見ただけ。それだけのはずなのに。

(くそっ、あいつの泣き顔なんて見たからだ、ずっと────)

 ずっと、見ていなかった。泣き顔だけじゃない、笑顔も、怒った顔も、どんな表情も。だから、離れないだけだ。珍しいものを見たら、誰だって気になってしまうのと同じ。

(あいつが、泣いたりするから……!)

 ガシガシと、苛立ちをぶつけるかのように試験管を洗い、竜城は自分のグループへと帰っていった。



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