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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Pure Snow 【後編】

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眠れなかったので、突発バレンタインSS。


「わ……ホントに降ってる……」
 まだ振り始めなのか、灰色の空から、はらはらと舞い落ちる雪の花は、あっという間に地面に溶けて消えていく。
「あ~。自転車どーすっかな」
「まだ積もってないし、乗って帰っても大丈夫だと思うけど……」
「だな。先に歩いてて、すぐ追いつくからさ」
 頷いて、一度別れる。降る雪は優しくて、時折頬を濡らすけれど、傘を差すほどではない。
(きれい……)
 コートの袖に降りた雪は、本当に小さな氷の花のような形をしている。ふ、と小さく息を吹き掛けてしまうだけで、その形は失われてしまうけれど。
(こんな風に、……溶けちゃえばいいのに)
 雪花の、徹に対するこの気持ちが。雪のように簡単に溶けてしまうのなら……郁未に対して罪悪感を抱くこともないのにと思ってしまう。
「雪花、髪にも雪が張り付いてる」
 自転車のブレーキの音が聞こえたと思ったら、ストレートの黒髪を撫でられて、雪花は驚いて足を止めてしまった。
「……どした?」
「……え、あ、……ありがと……」
 あんまり意味ないけどな、と笑う徹は自転車を降りて、雪花を促して歩き始める。
「か、加川くん、先に帰っていいよ……? 私、徒歩だし……一緒に歩いてたら、時間かかっちゃう」
 せっかく早めに下校しているのに、雪花に付き合っていたら、雪は積もる一方だ。
 雪花自身はバスに乗ってしまえば、雪からは逃れられるけれど、徹は違う。
「大丈夫、積もったって凍らなきゃ。それに、郁未に釘さされてんだよ。暗くなるんだから、雪花をちゃんとバス停まで送ってけ、ってさ」
「え……」
 どうして。郁未は何故そんな事を言うのだろう。徹は郁未の彼氏で、本当なら雪花とこんな風に二人で歩いていてはいけないのに。
 郁未の優しさから出た言葉だとは解っていても────辛い。けれどそれを、……言葉には
出来ない。
 少しの、無言。あっという間にバス停に辿り着いたけれど、バスが来るにはまだ時間がある。
 二人以外に誰もいない、薄暗い待合室で、雪花はどんどん冷えていく指先を温めるように息を吐きかけた。
「お前、手袋は?」
「して来なかったの。まさか雪が降るなんて思わなかっ……」
 言葉が完全に終わる前に、右手を取られた。
「……冷たいな、お前の手」
 拒む間もなく握り込まれてしまって、離れない。────離せない。握り返すことなんて、
出来ようはずもない。
「……加川くんの手は、温かいね」
 指先は変わらず冷たいけれど、手のひらは少しずつ温かくなっていく。
「俺、心優しいから」
 徹はいたずら顔でそう宣う。確かに徹は優しい、けれど。
「待って、その理屈で行くと、私は冷たいって事にならない?」
「えー、冷たいだろ。英語の教科書貸してくれないし」
「前に貸した時、落書きして返して来た人にまた貸せと!?」
「声かけても忙しいってすぐいなくなるし」
「用事がある時に限って声をかけて来るのは誰ですか」
 からかわれていると解っていて、呆れたように言葉を返す。そんなやり取りが楽しくて。……楽しかったのは、そこまでだった。
「なら」
 真剣な声と同時に、握られた手に力が込められる。
「何で俺を避ける?」
「さ、避けてなんか……」
「避けてるよ。……委員会以外で、俺と二人にならないように」
 だって、それは────。
「あ、当たり前でしょ。加川くんは郁未ちゃんの彼氏で」
「じゃあ、何で逃げない?」
 この手から、と繋がれたままの手が持ち上げられる。
「加川くんが離してくれないから……っ」
「離せって言われなかったからだよ。────雪花」
 繋いだ手を引き寄せられる。体が傾ぎ、彼のコートの感触が、頬に伝わる。
 握り込まれていた手が離れて、抱きしめられている事に気付いたのは、言葉が紡がれてからだった。
「別れた」
「え……?」
「郁未とは別れた、って言った」
「……ど、どうして!? 郁未ちゃん、そんなこと一言も……!」
「俺が、雪花を好きになったから。俺はお前に惹かれたから……。郁未は郁未で、他に好きな奴出来たみたいだし……お互いに解ってたから、冬休みに話し合って別れたんだ」
 冬休みなんて、もう一ヶ月も前の話だ。郁未は何故話してくれなかったのだろうと思うけれど、話せるわけがないのだと思い直す。
 よりによって、雪花が好きだなんて────。
「……雪花お前、思考が違う方に飛んでるだろ」
「え」
「俺、告ったの解ってる?」
 耳元で囁かれ、雪花は言葉を反芻し。
「っ、は、離してっ」
 理解した途端、徹の腕の中から逃げ出した。
「そこまで露骨に逃げられると、さすがにちょっと傷付くな」
 苦笑いの中に、切なさが垣間見えて、雪花は彼を傷つけてしまった事に罪悪感を抱いた。
「……嘘じゃないから」
「っ!」
「俺が、雪花を好きだって事は、嘘じゃないから」
 バスはまだ、音さえ聞こえない。
「だから、もし────雪花が俺の事を受け入れてくれるなら」
 バレンタインのチョコ、くれる?
 そう、鞄を指差されて、雪花は頬に熱が上るのを自覚した。
「な、んで知って」
「栞ちゃんに聞いてたのと、さっき帰り支度してる時に見えた」
 雪花と同じクラスで、親友の栞は、ただ一人、雪花の徹への想いを知っている。
 が、何故チョコを持ってきた事を彼に話してしまうのだ、あの子は……!
「……雪花……?」
 呼び掛けられて、雪花は目の前に立つ徹を見つめる。薄暗いから、表情はあまり解らないけれど、声は、どことなく不安げで。
 今。渡すのなら、今しかない。郁未には、あとで何度でも謝ろう。
 今だけ────素直に。
 高鳴る鼓動と、震える手を、必死に宥めながら、鞄を開ける。取り出したチョコレートの箱を、両手に持ち直して、そっと差し出す。
「────加川くんが、好きです」
「雪花……っ」
「きゃ!?」
 伸ばした腕ごと引き寄せられて、息が出来ない程に強く抱き竦められる。
 小さくて透明な氷の花が、さながら祝いの紙吹雪のように舞い降る中。
 バスが来るまでずっと、雪花は徹に抱きしめられていた。

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