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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Angel's Ladder 【5】 解放

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一緒に物語を作って♪ Part4の回答を元に作った物語です。

『……あなたを、そらへ帰します』


 その時は、突然訪れた。太陽が沈み、月が昇り、数時間が経った頃。
 タン、タン、とゆっくり階段を上る音が聞こえ、フィルカは首を傾げた。

(こんな時間に、どうしたのかしら?)

 彼がここを訪ねて来るのは、いつも明るい内だった。ギアドが残した魔法書を、フィルカと共に読み耽り、彼女の足枷を解く方法を探し続けてくれていた。
 力不足でごめんなさい、と、頼りなさげに眉を下げながら。

 古い扉が、軋む音を立てて開いていく。その扉の向こう、蝋燭に照らされた青年の表情に、フィルカは思わず息を呑んだ。
 まるで生気が感じられない、虚ろな瞳────。

「……あなたを、そらへ帰します」

 ゆっくりと告げられた言葉に、フィルカは目を瞠った。

「……見つかったの? 解く方法」

 フィルカの問いに、まだ年若い(とはいえ、既に20歳は越えている)青年は、首を横に振る。

「元々僕は、『彼』を凌ぐ魔力は持っていませんから」
「なら、どういうこと?」
「魔術師にとっての禁じ手を、使います」

 真剣な瞳に射抜かれて、フィルカは一瞬理解が遅れた。
 魔術師にとっての禁じ手────それは、自分の血、あるいは命を代償とした魔法の事だ。

「そんな……何を考えているの!?」

 思わず立ち上がり、彼に詰め寄る。彼を見上げて、いつも「ごめんなさい」と謝る彼に告げていた言葉を紡いだ。

「私なら大丈夫よ? あと何年かかったって」
「けれど僕が死んだらもう誰も、あなたの枷を解くことは出来ないんです……!」

 悲しい叫びの中で聞こえた単語に、フィルカは身を固くする。

「死ぬ、って……何……」

 言葉にした瞬間に、気付いた。先程の、生気のない表情の原因に。彼を取り巻く、死を連れて来る闇の匂いに。

(────呪、い……?)

 禍々しい力の気配に、フィルカは反射的に後ずさる。そんなフィルカに、彼は自嘲した。

「解りましたか……? 僕は、呪い殺されます」
「誰に!? あなたは呪われるような人じゃないでしょう!?」

 ギアドのした事を、自分の事のように責めて。フィルカの、ともすれば死を選ぼうとする負の感情に飲み込まれそうな心を救い上げて。フィルカと一緒に屈託なく笑い、時にはケンカもしたけれど、彼は。
 決して呪い殺されるような人では、ない。

「まぁ……下手に王位に就ける人間がいるのは、不都合なんじゃないですか?」

 王位? 何故そんな単語が出て来たのだろうと首を傾げると、彼は己の出自を語った。曰く、彼は元々は戦死だとされた王子の子供なのだと。
 そして今、この国は、王位争いの真っ最中である、ということも。

「……呪いを返すことは、出来ないの?」

 天使であるフィルカには、呪いの概念そのものがないために、呪い返しは絶対に不可能だ。出来るとしたら、彼本人だけ。

「……僕よりも、相手のが遥かに優秀なんで。さすがに宮廷魔術師には勝てません」

 おどけるように肩を竦め、彼はフィルカをじっと見つめた。

「だから、どうせ死ぬのなら……最後に、貴女のためにこの命、使わせてください」
「……ダメよ。そんなのはダメ!」

 どうすれば止められる? 絶対に認めないとばかりに首を横に振るしか出来ないフィルカの肩に、そっと彼の手が置かれた。

「フィルカ」

 初めて、名を呼ばれた。思わず顔をあげる────と同時に、柔らかく唇を塞がれる。
 それが口づけだと気付いたのは、温もりが離れてからだった。

「────あなたが、好きです。あなたと過ごしたこの数年間、僕はずっと、幸せでした」

 そう、ニコリと笑うと……彼は右手に隠し持っていた短刀を、躊躇わずに左手首へと滑らせた。

「クライド!」
「ああ……。初めて、ですね」

 フィルカが彼の────クライドの名前を呼んだことが嬉しいのか。わずかに笑みを深くすると、手首から零れ落ちる赤い血を、右手の人差し指と中指に塗り付けて床に座り込み、フィルカの足枷に触れ、口の中だけで長い詠唱が始まる。

 その間も手首からとめどなく流れる血を止めようと、フィルカは癒しの聖力を使う。だが、彼を取り巻く呪いの闇が、フィルカの光を拒んだ。

「やめて……クライドやめて!」

 このままでは彼は死ぬ。
 嫌だ────……、反射的にそう思った。だから何度でも癒しの聖力を使い続ける、けれど闇に拒まれる、その繰り返しで。
 彼の手首から流れる血だろうか、床に血が溜まっていく。
 否、恐らくは呪いの効果なのだろう。今やクライドの体中に傷が出来ていた。その傷から流れ出る血が、血だまりを作っていく。

(そんなに、クライドが生きていると都合が悪いの……!?)

 酷い、と思った。そんな事がよくも出来るものだと。

「もう、少し……!」

 ピシ、と足枷に小さなヒビが入る音が聞こえた。
 ピシ、ピシ、小さかったヒビは、だんだんと細かい亀裂になっていく。

「……滅べ……っ!」

 その言葉が合図となって、金色の足枷は粉々に砕け散った。

「……どう、ですか……?」

 あちこちに呪いによる傷が出来て、血の気が失せていくよりも、フィルカを優先するクライドに応えるように、かつては何度も唱えた呪文を唇に乗せた。

「真白き翼よ」

 サァ……っ、と音もなく、静かに広がる白銀の翼にホッとしたのか、クライドの体がグラリと傾ぐ。慌ててその体を支えた時に、白い翼が血に染まったけれど、フィルカは気にしなかった。それよりも、今は。

「……良かった……、っ
「クライド……クライド、ありがとう……」

 クライドはフィルカの自由を取り戻してくれた。だから今度は、……フィルカの番だ。

(これ以上、苦しませるぐらいなら……)

 もうこれだけ血が流れれば確実に死は訪れる。それが早いか遅いかの違いだけ……そして遅ければ遅いだけ、苦痛は続く。ならば。

「……クライド、一緒に行きましょう。……そらへ」

 耳元でそっと囁くと、クライドの頭がこくりと頷く。フィルカは一度だけ強く彼の頭を両腕で抱きしめ、彼の魂を体から切り離した。

(クライド……)

 ふわふわと漂う、小さな光を、フィルカは大事に胸に抱えた。


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