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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙【7】 自覚

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『ねえ、私は────どうすればいい?』



「姉さん……」
「朱里は家で預かるわ。あなたも、その方が都合がいいでしょう」

 朱里の着替えを取りに戻った京佳は、玄関を開けて現れた妹にむかって、開口一番にそう告げた。

「あの子は……?」
「聞いてどうするの? どうせ、朱里のところに行こうなんて思わないでしょ」

 知佳の表情が、傷ついたものに変わる。それでも京佳は、きつい言葉を投げ続けた。

「……一つだけ言っておくわ。このままだとあの子、……死ぬわよ」
「え……」
「嬉しい?」

 冷ややかな目で妹を見下ろして。心も頭も、すべて冷えて。
 京佳はくるりと踵を返し、朱里が住んでいた離れへと向かった。



『このままだとあの子、……死ぬわよ』

「あの子が……死ぬ……?」

 京佳がいなくなり、自然と閉じられた玄関に立ったまま、知佳は誰に言うでもなく呟いた。

「まさか、だって……」

 あの子の能力は、癒しの能力。現に昔、藍里の傷を治したのを自分も見ている。だからきっと、……嘘だ。
 今の状況を打開させる為の、嘘……。

(本当に……?)

 京佳が今まで嘘をついたことがあっただろうか。知佳の知らない所ではついた嘘もあるかも知れない、だけど。
 知佳にとってはいつも誠実な姉だった。嘘をつかれた覚えなど、ない。

「あ、か、り……」

 久し振りに、その名を唇に乗せた途端。

「お母さん? どうしたの、玄関で。誰か来たの?」

 いつもは元気なはずの、藍里の静かな声が聞こえて、知佳は体を震わせた。

「藍里……」

 明るくて、誰からも好かれる藍里は、知佳にとっては自慢の娘だ。
 だから、守らなければ────。この子だけは。朱里が起こす悲劇から、どこよりも遠い場所へと。
 知佳は安心させるように、藍里に笑って見せた。



「ただいま、知佳」

 11時間近になって、ようやく出張から帰ってきた夫・友暁ともあきを出迎えれば、彼は嬉しそうに笑ってくれた。

「お帰りなさい。出張お疲れ様。ご飯は? 簡単な物なら、すぐ出来るけど」
「じゃあ頼むかな。ほんとに軽くでいいからさ」

 軽くでいいのなら、うどんかお茶漬けか……量を調整出来るのはお茶漬けの方だろう。

「藍里は? もう眠ったのか? いつもならまだ起きてるのに」

 珍しいな、と笑う友暁に、今日の事を話すかどうか迷った。けれど……一人で抱えるには、少し、辛かった。彼に話して、彼まで負担を感じてしまうかも知れないけれど……あの子の事を話すのなら、彼にも知る権利はある。

「姉さんがね、帰ってきたの」
「お義姉さんが? 久し振りだなぁ、10年振り、くらいか?」
「ええ、10年振り……なのに、私……っ、姉さんを」

 姉を怒らせてしまった────。その事実を思い出せば体が震える。足も、手も……。右手に持っていた茶碗はゴトリと音を立ててテーブルのランチョンマットの上に落ちた。

「知佳? ……どうした?」
「あの子……あの子が、離れで、一人で、怒られ……っ」

 ああ、どう言えばいいのだろう。頭の中が整理出来ていないから、言葉は切れ切れで、文にすらなっていない。解っているのに、伝えようとする喉は、唇は、動いてくれない。

「知佳。落ち着け。……何があった?」

 友暁の大きくて温かな掌が、落ち着かせるように、包み込むように震える知佳の手首を捉える。そのまま引き寄せられて、抱き締められる。

「解らない……解らないの、だけど姉さんは、このままだとあの子……死ぬわよ、って」

 友暁が息を呑むのが、抱き締めてくれる腕から伝わってくる。『あの子』が誰なのか、友暁にだって解っているのだ。
 銀行に振り込んでいた、あの子の為の生活費。通帳に記されたお金の動きでしか、生きていることを確認しなかったもう一人の娘────。

「……どういう事だ?」
「解らない……。本当に解らないのよ、一海くんが慌てて出て行った事しか……!」

 そう、何も解らない。何も答えられない。だって知佳は、外が騒がしいのに気付いても、出て行こうとしなかった。見るのが怖かった。────何を?

(あの子、を……?)

 外に出れば、朱里に会ってしまうかも知れない。憎まれていないはずがない。そして……あの子の姿を見て、怯えない自信がない。酷い言葉を口にしない保証もない。そんな自分を、見たくない。

『違う。あなた達は、自分が傷付きたくないだけよ……っ』

 姉の言葉が脳裏をよぎり、知佳は疲れたように笑った。

「ふ……ふふ、はは……っ」
「知佳?」
「私っ……! バカだ……! ホントに、バカだわ……っ」

 友暁にしがみついたまま、知佳は泣いた。子供のように声を上げて、けれど、二階にいる藍里には聞こえないように。
 ねえ、私は────どうすればいい?
 今更自覚して、自分の罪に気が付いても、あの子を見捨てた10年は変わらない。
 答えの出ないまま、知佳は泣き疲れて眠ってしまった。




「朱里が……死ぬ……」

 泣き疲れてしまった知佳を、とりあえずソファに寝かせ、友暁はそのすぐ傍で知佳の涙の跡を指先でそっと撫でた。

「何があった? 朱里────」

 友暁が朱里の能力を間近に見たのは、一度だけ。ふとした瞬間に、心を読まれた。
『今度の週末はみんなで何処かに行くかな』と思っていた言葉を読みとった朱里が、『行きたいな……』と呟いただけの、些細な出来事だ。
 それ以外の出来事はすべて、知佳と藍里から聞いただけだ。友暁が見たのはいつも、朱里の能力の残滓。
 塞がりかけている、すりむいた膝の傷。
 包帯だらけになって帰ってきた、藍里と竜城の姿。
 そして、朱里に怯える知佳と藍里の姿。
 だから朱里を離れに住まわせた。最初こそ気に掛けていたものの、いつしか義務的にお金を渡すだけになっていた。
 それでも、生きている事を確認出来たから、安心していたのだ。朱里は一人でも生きていける、と。

「……行ってみるか……」

 朱里に、何があったのか聞きに行ってみよう。そう判断した友暁は、朱里が住んでいる離れに向かったがしかし、彼女の姿は何処にもなかった。
 慌てて知佳を起こし、朱里の所在を確かめると、「姉さんが、預かってくれるって……」囁きにすらならないような小さな声で呟かれた。
 京佳の所なら大丈夫だろう。ほっとした友暁は、さすがに空腹を訴える体を満たそうと、先程知佳が落とした茶碗を拾った。


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