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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【8】 また来年も T:side

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『しぃも、俺と同じ事、考えてたんだなって』


 お昼に和風パスタを、そして食後のお茶までご馳走になった高征と紫乃は、翔真が印刷してくれたばかりの、過去と現在の写真が入った封筒を手に、また公園へと戻ってきていた。
 翔真の家からはずっと無言で、互いに何かを考えているようで。それなのに、藤棚に向かう足取りに迷いはない。
 ベンチに座り、藤を見上げながら、高征は呟くように紫乃に問いかけた。

「……しぃも明日、帰るんだろ?」
「うん……」

 何故だろう? 離れがたいと思ってしまう。
 今日を最後にもう、会えなくなるからかも知れない。住所や電話番号を聞けば、きっと会う事は出来なくても、言葉は交わせる。それは解っているのだけど、……何故だか、そうしたくはなかった。
 ただ、この場所でもう一度、紫乃に会いたい。そう考えた高征が、ゆっくりと口を開く……よりも先に、紫乃が言葉を紡いだ。

「……たかくん、来年も来る……?」
「……え」

 一瞬、反応が遅れた。視線を紫乃に移すと、彼女はどこか不安そうな顔で高征を見ていた。

「あ、あのねっ、来年になったら、携帯持てるし」
「うん……?」
「そしたら、いつでも連絡出来るし……」

 紫乃の言いたい事が、何となく解る。もしかしたら紫乃も、高征と同じ事を考えていたのかも知れない。
 頬がだんだん緩んでいくのが解っても、止められない。

「だ、だからね、来年も……っ」
「うん」

 高征が笑っている事に気付いたらしい紫乃の声が、ぷつり、と途切れた。かと思ったら、拗ねたように高征から顔を逸らす。

「っ、ずるい、私ばっかり……」

 確かに、紫乃に言わせてばかりだった。……どう言葉にすればいいのか悩んでいたから、という理由もあるが。

「ごめん。でもさ、嬉しくて」
「え?」
「しぃも、俺と同じ事、考えてたんだなって」

 今の二人を確実に結ぶのは、この時期、この場所だけ。まだ中学生である二人には、そんな約束しか出来ないから。
 高征は小指を立てた手を、無意識に紫乃に差し出した。

「約束、しよう」

 きょとん、とした瞳に、優しく語りかける。

「また来年も、ここで会おう」

 多分これが、精一杯の約束。紫乃は嬉しそうに満面の笑顔を見せて、高征よりも細くて白い小指を差し出した。

「約束、ね」
「うん、約束」
「……さすがに、歌わなくて良いよね……?」

 この歳になって指切りげんまんの歌はちょっと恥ずかしい。子供の頃ならば微笑ましいで済むが、中学3年ともなると、気恥ずかしさが先に立つ。

 紫乃の問いに対する答えとして、高征は小指を絡めたまま腕を小さく上下に振った。
 歌っている時に、そうするように。

「……指切った」

 最後のフレーズだけ、囁いて。何事もなかったように絡めた小指はすぐに離れていく。

「……待ってて下さいね」

 紫乃が、藤を見上げながら呟く。

「きっと来年も、見に来るから」

 あの老夫婦を、翔真の成長をずっと見てきた、そして、高征と紫乃を出会わせてくれた藤を見に、必ず来るから。
 心の中で呟けば、初夏の風がふわりと二人の髪を撫でた。そして────。

『またおいで。たかくん、しぃちゃん』

 それは、幼い頃の記憶に残った声か、それとも幻聴なのか。いや、今はもう、そんな事はどうでも良かった。子供の頃は、「またおいで」の声に応える事は出来なかったけれど……。

「うん。来るよ」
「だから来年も、綺麗に咲いてて下さいね」

 紫乃の言葉に応えるように、花穂がゆらりと揺れた。

「しぃ」
「はい?」
「彼氏とか連れて来るのナシな?」

 高征の言葉に、紫乃はくすくす、と喉の奥で笑い、それから挑戦的な瞳で高征を見上げた。

「たかくんこそ、彼女連れて来ないでよ?」

 お互いに、言われなくても誰も連れて来るつもりはなかった。
 だってここは……この公園の藤は、二人にとって特別な場所だから。

「あ、でも紗由は連れてくるかも」
「あー、早速約束破る気?」
「違うって、紗由は妹! 昨日の午後、ここに一緒に来たんだよ」

 藤が見たいって言うから、と何となく言い訳がましく告げると、紫乃は「え!?」と驚いた。

「たかくん、妹いるの!?」
「いるよ、今小学2年生」
「一人っ子だと思ってた」
「残念でした。じゃ、しぃは?」
「私はね、生意気な弟が一人」

 それから自分の家族の話や学校の話など、他愛ない事を二人でのんびりと話していく。
 やがて、5時を知らせる鐘が遠くで鳴って、……二人はようやっと重い腰を上げた。

「……もう、帰らなきゃね」
「ああ。……受験、頑張ろうな」
「お互いにね」

 約束はした。あとはその約束を覚えていられるか……守る事が出来るかは、解らない。
 名残惜しいけれど、それでも。今の自分達に、これ以上の約束は出来ないから。
 公園の入り口、二人が向かうのは反対方向。ここで、別れなければならない。

「じゃあ……元気でな」
「たかくんも、ね」

 先に背を向けたのは、高征の方だった。振り返らずに、まっすぐ……今の自分にとっての、未来まえだけを見て歩き出す。
 紫乃もきっと、歩き出しているはずだ。過ぎた時間は決して戻らない。ただ、思い出した二人にとっては、大切な思い出きおくを振り返る事は出来る。
 その為の、約束────。

「お帰りなさい、高征。あら、何持ってるの?」

 祖父母の家に帰ると、母が目敏く、高征が手にしていた写真が入っている封筒を見つけた。

「ああ……うん。秘密」

 何だか今日は、色んな事が一気に起こったような気がする。いや、それを言うなら紫乃と再会してからの事はめまぐるしかったように思う。
 時間にすればたった二日間の事だったのに。

「あら、母親に秘密なんて百年早いわよっ」
「いーだろ! 一つや二つぐらい見逃せっ」

 慌てたように旅行用のバッグが置いてある客間へ逃げ込む。その様子を母は楽しそうに、父と紗由は首を傾げながら見送っていた事を、高征は知らない。


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