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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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桜涙 【言葉の価値】

桜涙 目次へ 一次創作Index

 3周年記念SS第3弾・『桜涙 竜城×朱里(おまけで藍里)』です。アンケートでは毎年1位です。有り難いです、本当に。

 今回はめちゃくちゃシリアスになりました。まぁ、いつもシリアスなんですけどね。しかも長いです。3000字超えちゃいました。

 こちらもフリー配布と致しますので、お気に召した方はどうぞお持ち帰り下さい。
 ですが、著作権は放棄しておりませんので、転載される場合にはこのブログのSSである事を明記して頂ければと思います。特に報告の必要はありません。

 では、続きからどうぞ。


「ったく、何で藍里の買い物を俺達がしなきゃなんないんだよ」
「でも、お菓子作ってくれるって。藍里のお菓子初めてだから、私は楽しみ」

 そう朱里が笑いかけると、竜城は少しだけ切なそうな顔をした後に「今日は何作る気だろうな?」とごまかすように笑う。ちなみに書いてある材料を見ても、何を作るのかさっぱり解らない。朱里も、料理は作れてもお菓子は未知の領域だ。

「あれ、池上?」
「ん? おー、久しぶりじゃん」

 名前を呼ばれた竜城が声の方向に視線を向ける。朱里も一緒に向けた視線の先には、軽く手を挙げている見覚えのある顔。去年までは朱里と同じクラスだった川代かわしろだ。竜城や藍里とも良く一緒にいるグループの中の一人だったはず。
 そんな事を考えている僅かな間に、突然手に温もりを感じた。

「え……」
「藍里ちゃん、久しぶり! 髪切ったんだ?」
〈あー、相変わらず藍里ちゃん可愛いなぁ。俺の好みそのまんまだし♪〉

 驚いて、能力の制御を疎かにしてしまったらしく、川代の心の声が頭に響いた。努めて平静を装い、能力に鍵をかける。どうやら彼は、朱里を藍里だと認識しているようだ。

「今度さ、またみんなで集まろうよ。高校みんなバラバラだしさー」
「あ、あの」

 手を離して、と言う前に、竜城の手が朱里から無理矢理川代の手を引き離した。

「朱里から手ぇ離せ!」
「は? 池上お前、彼女の名前間違えるなよ。藍里ちゃんだろ?」
「二重の意味で違う。こいつは朱里!」
「……げ!? ドッペルゲンガーの方かよっ!」

 ああ、そう言えば、中学ではそう呼ぶ人もいたっけ。そんな呑気な朱里の横で、竜城が低い声で告げた。

「……今、何て言った」
「池上? 何だよ怖い顔して」
「何て言ったかっつってんだよ!」

 突然川代の肩を掴み、ともすれば殴り掛かりそうな竜城に驚いて、朱里は思わず竜城を呼ぶ。

「竜城!」
「ドッペルゲンガーだ? ふざけんな、朱里は一人の人間だ!」
「な、お前だって似たようなこと言ってただろ!?」

 そう、元々は竜城も同じような言葉を言っていた。朱里がどんな言葉を言われても、自分には関係ないと、本当の事だからと気にもせずに。
 けれど、今は。

「ああ、そうだよ! 俺に怒る資格がないことぐらい解ってる! けどな……っ!」
「竜城やめて!」

 鋭い制止の声に竜城の動きが止まる。ホッと息をついた朱里は、小さく笑顔を見せた。

「朱里……」
「大丈夫、だから」

 竜城に告げた後、朱里は川代に向き直り、「ごめんなさい、藍里じゃなくて」と頭を下げた。

「いや……俺も、ごめん」

 謝られても、「はい」とも、「いいえ」とも言えなくて、曖昧に微笑む。

「……行くぞ朱里」
「え、竜城……っ。ごめんなさい、失礼します」

 手を取られて、歩き始めた竜城に引きずられる朱里。川代に一応挨拶をし、ずんずん進む竜城を懸命に追い掛けた。
 何を思ったのか、竜城はスーパー裏の公園に入り、ベンチにどさりと座り込む。

「……ごめん」
「……どうして、謝るの?」

 空いているスペースにちょこんと座り、うなだれて謝る竜城に朱里は声をかけた。

「一番お前を化け物呼ばわりしてたのは、俺なのに。……川代に怒る資格、ないのは解ってたんだ。でも……許せなくて」

 朱里はきっと怒らない。そうさせてきたのは竜城だし、だからこそ、自分自身を許せなくて。

「────ありがとう、竜城」
「え……」

 思いもしなかった言葉を告げられて顔を上げれば、嬉しそうに微笑む朱里の姿があった。

「怒ってくれて、嬉しい。……でも、そうやって過去の事で竜城が傷つくのは、嫌」
「逆だろ。俺は傷つけた方で……あいつと一緒だ」
「竜城は違うわ。……あのね、うまく言葉に出来ないんだけど……私、何を言われても別に気にしなかったの」
「あんな事言われたのにか?」
「だってあの人達にとって私は、どうでもいい存在だったから」

 そう、いてもいなくてもいい存在。目には見えているけれど、誰にとっても重要ではない存在だった。高校に入学するまでずっと、周囲の認識は変わらなかったはずだと断言出来る。

「竜城と藍里は、私を認識してくれていたでしょう? 要らない存在、いてはいけない存在として」

 言葉を交わさなくても、視線が合わなくても。藍里を朱里から守ろうとする彼の思いは、痛い程に感じていた。
 早く、竜城や藍里にとってどうでもいい存在にならないかと、いつも願っていた。けれど同時に、違う想いも確かにあった。

「今だから、言える事かも知れないけど……多分私は、それが嬉しかったんだと思う」
「言葉、間違えてないか?」
「ううん。……一番、辛くもあったけど、嬉しかったの。……だから私、死ねなかったのかも知れない」
「朱里……」

 どうでもいい存在でいることより、向けられるのが敵意でも悪意でも、認識されている事実が嬉しかったというのか。

「お前は……お前はそうやって、全部許せるのか……?」
「竜城?」
「俺の罪も、藍里の罪も全部なかったことにして、お前が静かに傷付くなら、俺は」

 ちゃんと罰を受ける。それが朱里に償える唯一ならば。

「私が……竜城や藍里を許せないことなんて、ないわ」

 そもそも大元の原因は、朱里と藍里が持って生まれてしまった能力だ。誰を責めるわけでもない。責められるわけもないのだ。

「竜城、言ってくれたでしょう? 辛いなら辛いって言えばいい、って。……その言葉をもらえただけで、充分なのよ」

 そう、たった一つのその言葉が、朱里にとってどれだけの価値があるか……。きっと竜城には、解らない。

「……だったら、約束しろ」
「え?」
「何かあったら……何もなくてもいいけど、絶対一人で抱え込まないって」

 真摯な表情で告げる竜城の声音が、次の瞬間には一転して柔らかなものに変わった。

「それが約束出来ないなら、お前の言葉、全部疑ってかかるからな?」
「……それは、ちょっと……困る、かも……」

 口にした言葉がすべて裏に取られるのは、少し淋しい。

「なら、守れよ? 俺も……過去にするように頑張るから」
「────うん」

 過去の事で傷付く竜城は見たくない。それに対する答えを得て、朱里は小さく微笑んだ。

「川代にも悪い事したな~。今度謝っとこ」
「……そういえば、川代くん、藍里の事好きみたい」
「は?」
「突然で、びっくりしちゃって……聞こえちゃった。相変わらず藍里、可愛いって。俺の好みそのまんま、とか……」
「とか言いながら、朱里と藍里間違えてりゃ世話ねーよな」

 確かに。好きだというのなら、間違えるなど言語道断だろう。

「ま、解るけどな。朱里も可愛くなったし」
「え?」

 藍里ではなく、『朱里』を「可愛い」と言った……?
 急激にその言葉を意識して、朱里は顔が熱くなるのを自覚した。

「ぷ。頬っぺた真っ赤」
「だ、だってそんな事言われたことないもの……!」

 はははっ、と笑いながら立ち上がり、座ったままの朱里に、差し出される竜城の手。

「行こう。遅くなる」
「うん」

 躊躇いながらも重ねた手を、解けないように力強く握ってくれる竜城。それが嬉しくて、今度は胸が熱くなった。

*****

「何それーっ! 川代くん、絶対二度と口きかないっ!」

 藍里がケーキを作ってくれたから、と朱里が台所でコーヒーの準備をしていると、リビングから聞こえた妹の怒りの声。

「竜城ちゃんも! 何かムカつくからケーキお預け!」
「何でだよっ!?」
「だって一人で川代くんに怒っちゃうんだもん、私も怒りたかった!」
「文句は川代に言え! つーか、だったらお前が買い物行け、最初から!」
「……何か、論点ずれてない……?」

 朱里の呟きは、藍里と竜城の止まらぬ口喧嘩の狭間に消えた。


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