Mirage

オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Wisteria Memory 【7】 小さな感傷でも

TOP
Wisteria Memory 目次へ 一次創作Index

一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『……そう言ってくれるとは、思ってなかったんだ』



 翔真の家は、公園からは大分離れた場所にあった。ちょうど高征の祖父母の家がある方向とは、公園を挟んで真逆の位置ぐらいだ。

「さ、あがって。私はお昼の用意しちゃうから」
「あ、手伝います」
「いいのよ、翔真が見せたい物があるって言ってたでしょう? パスタで良い?」

 苦手な物はある? と聞かれて、「いいえ」と高征と紫乃は揃って首を横に振った。
 翔真にこっちだよ、と連れて行かれたのは、仏壇がある和室。その仏壇には、朧気にしか覚えていなかった老夫婦と、まだ年若いであろう夫婦の写真が飾られている。
 その写真に気付いたらしい紫乃が、線香に視線を移す。それを見た高征は、彼女が自分と同じ事を考えている事を悟った。

「翔真さん」
「ん?」

 押し入れを開けて、何か捜し物をしているらしい翔真が、高征の声に振り向く。

「……お線香、あげさせてもらってもいいですか?」

 翔真は驚いたように一瞬だけ目を瞠り、次の瞬間、柔らかく笑った。

「……うん、ありがとう」

 それを許可だと受け取り、紫乃と一緒に仏壇の前に移動する。

「しぃ、先にあげる?」
「ううん……たかくんが先にあげて」

 彼女の瞳には、また涙が溜まり出す。それを横目で見ながら、高征は線香にライターで火を付けた。
 おりんを鳴らし、手を合わせる。心の中で、遅くなってごめんなさい、と謝りながら。
 高征が場を開ければ、次は紫乃だ。紫乃が手を合わせていた時間は高征よりも少しだけ長かった。

「……大丈夫か? しぃ」
「……うん、大丈夫。来ようとすればいつでも来られたのに、遅くなってごめんなさいって、謝ってた」

 言いながら、紫乃は細い指先で涙を拭いた。

「幸せ者だな、うちのじぃちゃんとばぁちゃんは。血の繋がらない他人に、しかもこんな優しい子達に悼んでもらえて」

 普通であれば、既にこの世には亡いという事実を聞いても、「そうなんだ」の一言で済んでしまうだろう。だが、高征と紫乃がそうしなかったのは、心の、記憶の奥底でずっと、この老夫婦の事を覚えていて、そして、大好きだったからだろうと思う。

「ほら、これ」

 畳の上に広げられたのは、一冊の古いアルバムだった。その右のページに、高征と紫乃、そして埜上夫妻が4人で写っている写真がある。
 その写真の下には、撮った日付と、タイトルの代わりか「たかくんと、しぃちゃん」と小さく書かれた白い紙が貼ってあった。

「うわー……小さい……」
「そりゃまだ5歳だもんな」

 そのページには他にも、老夫婦と笑っている幼い日の高征と紫乃の写真が何枚か貼り付けてあり、懐かしさに紫乃がそっと指先を伸ばした。

「いつの間にこんな写真……」
「じぃちゃんとばぁちゃんが、すごく楽しそうだったからさ。ちょうど俺がデジカメ持ってたし、そん時に撮ってたんだ」

 ただ、プリンタは無かったから、印刷して渡す事は出来なかったんだけど、と翔真が笑う。

「……翔真さん、あの……」
「ん?」
「この写真も、焼き増し出来ませんか……?」

 おずおずと紫乃が切り出した問いに、翔真は軽く驚いたような顔をする。先程からそんな顔ばかり見ているのだけれど、紫乃と同じ事を考えていた高征は、そんなに驚かれるような事を言ったのだろうかと不安になった。

「……翔真さん?」
「いや……うん、ありがとう。……そう言ってくれるとは、思ってなかったんだ」

 本当に、君達は────。口の中で呟いた翔真の声は、高征と紫乃に聞こえる事はなく。

「じゃあ、印刷しちゃうからちょっと待ってて」

 そう言って翔真は、和室から別の部屋へと移動していく。取り残された高征と紫乃の視線は、知らず知らず仏壇に飾られた遺影へと向かっていた。

「……会えたね」
「……うん」

 体はとうに失ってしまっていたけれど、それでもこうして手を合わせる事が出来て良かったと思う。
 二人は遺影を眺めたまま、しばらくその場を動かなかった。

*****

「……いい子達ね」

 お昼が出来たからと呼びに来た珪子と、写真印刷の初期設定を終えた翔真は、和室のふすまをわずかに開けただけで立ち止まっていた。
 高征と紫乃が、遺影を見つめたまま動かないその静かな空間を、壊すのが忍びなくて。

「今時珍しい……っつーか、いないよな、こんな子達」

 高征にお線香を上げて良いか聞かれた時、紫乃に写真が欲しいと言われた時、翔真が驚いたのは、別に手を合わせて欲しかったから連れてきたわけでも、写真を貰って欲しかったわけでもないからだ。
 高征と紫乃にとっては赤の他人で、ただ一時を共に過ごしただけの老夫婦。そんな小さな思い出を、高征と紫乃が大事にしてくれている事が、嬉しかった。

 例えそれが、すぐ消えてしまうであろう感傷だとしても────。

「おじいさんとかおばあさんにも育てられた子って、そうなるみたい」
「なのか?」
「翔真だって、今時の若者って枠からは、結構外れていたわよ?」

 翔真の両親は、翔真が小さい頃に事故で亡くなっている。だからずっと、翔真は祖父母に育てられてきた。

「悪かったなぁ。そんな俺を選んだのはどこのどいつだ、ったく」
「ここにいる私だけど、何か文句ある?」

 言い返せば、自信満々の答えが返ってくる。高校の頃から付き合っているが、未だに珪子に勝てた試しはない。

「さ、そろそろ声かけないと、パスタ冷めちゃうわ」
「だな」

 ふすまの脇の柱を、軽くノックして、翔真達からすればまだ幼い少年少女を、現実に引き戻した。

【6】へ ← Wisteria Memory 目次 → 【8】 高征へ → 【8】 紫乃
スポンサーサイト

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

琳架

Author:琳架

web拍手 by FC2

 ↑ 9/1変更 (全6種)
 桜涙・雨弓・明陽
 図書戦・LOVE SO LIFE・ヨナ
  ※携帯版が確認出来ないので、こちらに統合しました。

Twitter・SS専用アカウント→ @sakuraironoyoru

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

最新記事

検索フォーム

月別アーカイブ

西暦をクリックして下さい。

カウンター

FC2ブログランキング

ランキングに参加しています。

FC2Blog Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。