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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【6】 残ったもの

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『覚えていてくれた事の方がきっと、奇跡なんだ』



「今朝、夢でさ。じぃちゃんとばぁちゃんが出て来たんだ」

 紫乃が泣き出し、高征が先程と同じように手を伸ばして髪を撫で、少しだけ紫乃の呼吸が落ち着いてきた頃、翔真が切り出した。

「たかくんとしぃちゃんが来てる、って。……さっきまでは半信半疑だったよ」

 夢は夢だと、片付ける事も出来たのに、翔真はこうして確かめに来てくれた。

「ここが公園になったのは、5年前。その前の年にはもう、じぃちゃんもばぁちゃんもいなくてさ。家も結構古かったし、俺は俺で別の場所にいたしで、結局取り壊して公園にしてもらって。ただ、……これだけは残して欲しいって頼んだんだ」

 そう言って、翔真は垂れ下がる藤の花に手を伸ばす。高い位置にあるその花は、高征よりも背が高い翔真でさえ届かない。

「これは、じぃちゃんとばぁちゃんをずっと見てきてくれた藤だから。……俺の成長も見てきてくれた藤だから。寿命が来るまでは、って頼んだら、こんな立派な休憩所にしてくれた」

 高征が、紫乃が聞きたかった事をかいつまんで、でもすべてを話してくれた翔真がにこりと笑う。

「まさか、君達がここに来てくれるなんて……思ってなかった」
「俺……昨日ここに来るまで、すっかり忘れてたんです。でも思い出したら、すごく会いたくなって……懐かしくなって。しぃも、だよな?」

 まだ少ししゃくり上げている紫乃にそう問いかければ、小さな頭がコクンと頷く。

「それでいいんだよ。子供の頃は詰め込む事がいっぱいあるんだから。むしろ覚えていてくれた事の方がきっと、奇跡なんだ」

 翔真のその言葉に、高征まで泣きそうになる。あの老夫婦ならそう言ってくれるであろう言葉を、翔真が口にしてくれたから……。

「翔真ー? 翔真がおねーちゃん泣かせてるって、子供達怒ってるわよー?」
「は!? ちょっと待てっ! 珪子けいこお前、何か違う事言っただろ絶対!」
「言ってないわよ。ねー?」
「ねーっ!」

 絶対共謀してやがる……と、ぶつぶつ呟く翔真が何だか自分達より遥か年上の男性だとは思えなくて、高征も紫乃も小さく笑った。

「奥さん、ですか?」
「あー、うん。一応」
「一応って何よ。初めまして、埜上珪子です。うちの人が何かしでかしました?」

 そう問いかけてくる珪子の瞳が、悪戯に輝いているのを見て、翔真をからかって遊びたいだけだと解ってしまった高征と紫乃は、くすくすと笑いながら首を横に振った。

「おねーちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。いじめられたわけじゃないよ」
「しぃ、ほら水分補給」

 紫乃の飲みかけの緑茶を差し出すと、それまで子供達の目に入っていなかったらしい金平糖に視線が移った。

「こんぺいとう?」
「あ……、うん、そうよ。食べる?」
「いいの!?」
「あっ、こらこら! みんな注目!」

 珪子の一言で、わらわらと金平糖に群がろうとしていた子供達の動きが一斉に止まる。

「もらうのはいいけど、今食べちゃダメよ? 喉渇くからね。それから、ちゃんとあとでパパとママに言う事! 誰にもらったのって聞かれたら、先生のお友達っていえばいいから」

 見ず知らずの他人がくれた物は、親に捨てられやすい。知り合いの保証付きならば安心だからと、その時の珪子の気遣いを紫乃や高征が知るのはずっと先の事になる。

「解ったかな?」
「はーいっ!」

 元気の良い子供達の返事を聞きながら、紫乃は一人一人ティッシュペーパーに金平糖を包んで、その小さな手に持たせてやった。

「珪子さんって……」
「保育士なんだよ。だからここにいる子供達の事はみんな知ってる」

 なるほど、と高征は納得した。紫乃は未だ子供達に囲まれていて、楽しそうだ。先程のような泣き方は、出来ればして欲しくない。

(しぃは、笑ってた方が可愛いし)

 そうして紫乃をじっと見ていた高征を、翔真がにやにやと面白そうな顔をして見ていた。

「? 何ですか?」
「いや、何も?」
「翔真、これ」
「あ、そうだった」

 紫乃が子供達に金平糖を配り終わり、藤棚から離れたタイミングを見計らったのか、珪子が翔真に差し出したのはデジタルカメラ。
 誰もいない藤棚に向けて、翔真がシャッターを切る。

「……毎年、一枚ずつ撮って、仏壇にあげてるのよ」
「そうなんですか……」
「高征くん、紫乃ちゃん、こっち来て並びなよ」
「え?」
「撮ってあげる」

 へ? と間抜けな返事をした高征と紫乃の背中を、珪子が後ろからとんっと押した。

「珪子さん!?」
「いいじゃない、ね?」

 ぐいぐいと押される背中に足は自然と藤棚へ向かう。珪子がじれったそうに二人をベンチの前に立たせ、自分は翔真の横へと移動していく。

「……写真撮られるなんて久しぶりなんだけど」
「私も……プリクラは撮ってるけど」

 二人の間には微妙な距離。兄妹でもないし、友達と言っていいのかも解らない。ただ幼い日の数日を共に過ごしただけの相手。どうしたってぎこちなくなる。

「表情固いって」

 喉の奥で翔真が笑うけれど、二人はどうして良いか解らない。すると子供のうちの一人が、不意に高征と紫乃の前に現れて、ピースサインをかたどった。
 次から次へと子供達がやってきて、高征と紫乃の前に座り込む。

「子供達と一緒なら緊張しないでしょ?」

 どうやら子供達をけしかけたのは珪子らしい。子供達が高征と紫乃を振り向いて、にこっと笑う。

「おにーちゃんもおねーちゃんも、わらって?」

 その笑顔を見ていると、何だか緊張していた体が解けていく。高征が紫乃を見ると、彼女も自分を見ていて……。

「しぃ、間抜け顔」
「たかくんこそ!」
「ほら、そのままこっち向いてー」

 促されるまま、翔真の方を向いて、シャッターが切られた。

「ん、いい顔が撮れた。二人とも、まだ時間ある?」
「はい、俺は大丈夫ですけど……あ、でも一応連絡だけしないとまずいかな」
「私も大丈夫だと思います、連絡すれば……」
「じゃあ、家においで。今の写真、印刷すればすぐ渡せるし、見せたいものもあるし」

 見せたいもの? と首を傾げたけれど、翔真はそれ以上何も教えてくれなかった。
 紫乃は母親から借りている携帯電話で、高征は翔真の携帯を借りて連絡をし、正午の鐘が鳴り始めた頃に公園を離れて翔真の家に向かった。

【5】 高征へ ← 【5】 紫乃へ ← Wisteria Memory 目次 → 【7】
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