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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【5】 偶然か奇跡か S:side

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『おじいさんとおばあさんが、呼んでくれたのかも知れないね』


 高征との約束通り、紫乃はその日も公園に向かった。時間は指定されていなかったから、と少し遅めに出て来たのだが、高征は紫乃よりも早く着いていたらしい。砂場にしゃがみ込む彼に、待たせてごめんなさいと言おうとしたけれど、彼は子供達と一緒に砂遊びに夢中だった。
 入り口に背を向けて座っている高征は、もちろん紫乃には気付いていない。子供達も砂遊びに夢中のようで、あれこれと高征に指示を出している。

「おにーちゃん、ほってほって!」
「あっ、そんなにほっちゃだめ!」

 子供達の小さな手と、高征の手では取れる砂の量も違うのだろう。その事に気付いて、紫乃が思わずクスクスと笑うと、その笑い声に気付いたらしい高征が慌てて振り返った。

「しぃ!?」
「おはよ」
「おはよ、って何笑ってんだよ」
「だってたかくん、夢中になってたから。私が来たことにも気付いてなかったでしょ?」

 ちょっとだけ拗ねたような口調で告げると、高征の言葉が詰まった。

「おねーちゃんもやろー?」
「おねーちゃんはスカートだからちょっと無理かな。ごめんね」

 ワンピースの裾をちょっとだけつまんでみせると、子供達は「わかったー」とまた砂遊びに熱中し始める。

「……それ、ずるくないか?」
「だってスカートしか持ってこなかったんだもの!」

 まさか砂遊びに誘われるなんて思わなかったし、と言い訳をすれば、高征が喉の奥で笑う。そこまで笑わなくても、と思ったけれど、高征が本当に楽しそうに笑うから、少しだけその笑顔を、このまま見ていたいと思った。
 紫乃は昨日と同じ、藤棚の下のベンチに座り、彼らの砂遊びを眺めていた。
 やがてトンネルが完成し、高征がようやく子供達から解放された。紫乃の隣に腰を落とした彼は、それまで子供達と一緒になってはしゃいでいた口を、不自然に閉ざした。そして、……長い沈黙。

「……言って、良いよ?」
「しぃ?」
「覚悟、してきたから」

 どう言えば紫乃を傷つけずに済むかを考えているのなら、それは無用な心配だ。……否、無用と言うよりも多分……この沈黙こそが、紫乃の予想を裏切らないと言う事に他ならない。
 ならば、どんな言葉で事実を告げられたとしても……きっと、泣いてしまうから。

「やっぱり、……亡くなってたよ」
「……そう……」

 やっぱり、という思いが、自然と顔を俯かせる。

「うちのじぃちゃん達も、いつこの公園が出来たのか覚えてない。お孫さん……あの時のお兄さんはまだ、この町内にいるらしいけど……ほら、今個人情報漏らせないから」
「うん……そうだよね」

 あのお兄さんにだけでも、会えるものならば会いたいと思う。けれど、会ってどうすると問われれば……どうしたいのかが解らない。

「……会いたかったなぁ……」

 顔さえうろ覚えなのに。はっきりしているのは声だけなのに。それでも、もう会えないという事実が、紫乃の目頭を熱くした。

「……仕方ないんだけど、な」

 そう、仕方ない。思い出したから会いたいなんて都合が良すぎる。
 解っているけれど、涙はなかなか止まってはくれなかった。
 ハンカチを取り出すことさえ忘れて、手の甲で拭っても、止めどなく溢れてくる涙。久しぶりに泣いたことで、止め方なんて忘れてしまって、どうすればいいのか解らない。
 そのままでいると、不意に、髪に温かな感覚が乗った。
 ぽんぽん、と軽く叩いているのは、どうやら高征の左手らしい。不器用に触れてくるその手が何だかおかしくて、紫乃は小さく笑って顔を上げた。

「……何か、お父さんみたい」
「……同い年のお父さんがいたら見てみたいもんだな」
「ふふ、ごめん。……たかくんの手、優しいね」

 静かに離れて宙に浮いた高征の手を、紫乃は自分の両手で包み込んだ。いつも父が頭を撫でてくれた後そうするように、自然と自分の頬に導いていく。

「ちょ、……しぃ!」
「え? ……あっ、ご、ごめんなさいっ」

 強く名を呼ばれて、紫乃はやっと我に返った。そうだ、目の前にいるのは父じゃない。同い年の、男の子────。
 そう認識した瞬間、どくんと鼓動が跳ねた。クラスの男子にだってこんな事はしたことがないのに、高征だと何も考えずに、無意識にやってしまった。
 父に似た、でも父よりもまだ小さくて骨張っていない手は、それでも紫乃よりはごつごつしていて。
 多分、今の自分の顔は赤くなっていると思うから、高征を真っ直ぐ見る事は出来なかった。

「あ、そ、そうだ! あのね、お茶持って来たの」
「お茶?」
「そう、あと金平糖も。懐かしいでしょ?」

 あの頃の、おばあさんが淹れてくれた苦いお茶と、甘い甘い金平糖の組み合わせ。同じ数だけ小皿に分けられていたのに、紫乃の分は「たかくん」に奪われてしまった。

「今度は取っちゃわないでね」
「さすがにしないって、この歳で」

 苦笑する高征を横目に、紫乃は準備を始める。濃いめの緑茶を入れてきたステンレスボトルに数個の紙コップ。金平糖は、昨日の午後、母と買いものに行ったスーパーで見つけて、懐かしくなって大袋で一つ、買ってきてしまった。

「……ちょっと多くないか?」
「私達がここで食べてたら、子供達も欲しがるかも知れないと思って」

 ポケットティッシュから引き出したティッシュペーパーを、二人の間に引いて、その上にざらりと十数個の金平糖を乗せる。色とりどりのそれは、日の光を浴びて星のように輝いた。

「はい、どうぞ」

 高征に紙コップを渡し、緑茶を注ぐ。自分の分の紙コップにも注いで、一口飲めば苦みが口の中に広がった。

「うわ、やっぱ甘い」
「そりゃ金平糖は甘いでしょ」

 金平糖を口にした高征がちょっと顔をしかめるのを笑いながら、紫乃も一つ、と金平糖をつまむ。隣で高征はガリガリと噛み砕いているが、紫乃はコロコロと舌の上で転がして舐め溶かす。
 昔は縁側で、そして今は藤棚の下で。風景は違えど、同じ藤の傍で、再会した二人が揃ってお茶を飲む。それは……。

「……偶然なのかな、奇跡なのかな」

 高征の呟きで、同じ事を考えていたのかと笑った。

「おじいさんとおばあさんが、呼んでくれたのかも知れないね」
「したら、お孫さんも呼んでくれりゃいいのに」

 そしたらみんな揃っただろ? と、高征が淋しそうに告げたその時。

「あら、誰か先に来てるわ」
「うん、もしかしたら本当に……」

 まだ若いであろう男女の声が、背後で聞こえた。
 思わず振り向いた高征と紫乃が見たのは、柔らかく、優しい微笑みを浮かべた男性の姿。

「高征くんと、紫乃ちゃん。かな……?」

 間違いなく自分達の名前を呼ばれて、二人は静かに頷いた。男性はちょっと待ってて、とぐるりと公園を迂回し、女性と一緒に入り口から入ってくる。
 途端に、子供達がその女性を見て、パッと駆け出し、あっという間に取り囲んだ。

「けいこせんせい!」
「みんな元気ねー。先生も混ぜてくれる?」
「いーよー!」

 男性は女性に「さんきゅ」と呟いて、真っ直ぐ藤棚の下へとやってくる。どういう反応をしたらいいのか解らなくて、二人は微動だに出来なかった。

「……緑茶に、金平糖、か……。覚えていてくれるとは思わなかった」

 どこか懐かしく感じる顔形と、少しだけ淋しげな瞳。そしてその言葉に、高征と紫乃はもしかして、と期待を抱いた。

「久しぶり。埜上翔真です。君たちが知る、『藤の庭のおじいさん』の孫だよ」
「うそ」

 だって、そんな、それこそ奇跡のような事が起こるなんて────。
 止まっていた涙が、また目頭を熱くする。

「うん、嘘じゃないよ。……覚えていてくれて、ありがとう。二人とも」

 その言葉を皮切りに、紫乃の涙はまた止まらなくなった。


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