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桜涙【6】 覚悟

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『もう、終わりにしたいの』



 誰にも話していない、あの日の真実を、朱里は淡々と語った。

「竜城も、藍里も、全ては私の能力のせいだと……そう言ったわ」
「待て、じゃあその時の藍里と池上は……」
「子猫が死んだ事を認めたくなかったんだと思う……。綺麗さっぱり忘れてる」

 それから、藍里は度々熱を出すようになった。
 それが、藍里の中の能力が外に出ようとする前兆だという事に気付いた朱里は、その度に彼女の身体を癒した。能力の暴走を防ぐ為に、朱里自身の力を楔として。
 しかし、その楔はとても脆くて。例えるならば、しっかりかかっているように見えて、実はぶら下がっているだけの南京錠。錆び付き、いつ崩れてもおかしくない、ほんの少し力を加えれば簡単に取れてしまう、脆い鍵だった。

「多分、本当なら……私か藍里、どちらかに能力が集中するはずだったの。でも、元は一つの力だった物が、別々の身体に宿った事で互いに影響を及ぼすものになって……藍里は私の癒しを完全には受け入れられず、私は藍里の能力を完全に鎮める事が出来ない」

 幾度も幾度も、藍里が熱を出す度に朱里は能力を使ってきた。
 藍里の能力が、少しずつ、ほんの少しずつ、朱里の身体を蝕んでいる事に気付いても、その行為を止めることは選択肢になく。
 朱里自身、自らの能力がなければ、とうの昔に人生は幕を閉じていただろう。

「だったら! だったら藍里に自覚させればいいだろう!? お前だけが犠牲になる必要が何処にある!?」
「……化け物は、私一人で充分だから……」

 自らが生んだ娘2人共が、人ならざる能力を持っている事を知ったら、あの母親はどうするだろう。半狂乱になるならまだいい、寝込んだとしてもいつかは回復する。
 でも、事実を儚んで、生の終わりを選ぶ事だけはして欲しくなかった。

「あの人達にとって、藍里だけが娘で……藍里だけが心の拠り所だから」

 両親が可愛がるのは藍里の方。朱里はいつも拒絶されてきた。離れに住む事になったのも、あの頃からだ。

「そんなのは違うだろ! ふざけんな、そんなバカな事、あってたまるかよ……!」
「……これは、私のエゴなの……。藍里だけでも、普通の女の子でいて欲しかった。せめて、あの人達が望む普通の娘でいて欲しかったの。私の存在なんか切り捨てていいから、藍里がいてくれれば、それで……」
「朱里……」
「15年、こうして生きていさせてくれた事には、感謝してる。でもそれだけの時間、私はみんなを苦しめてきたんだもの、もう……終わらせたいの……」

 朱里の人生自体を、終わらせる。病気のせいにでもしないと、朱里は死ねない。

「な……バカ! 何言ってんだよ、終わらせるって、朱里!」
「このまま……薬も、何の治療もいらない。私が死ねば、私の能力も消える……藍里の中の能力も、一緒に消滅するはずなの。だから」

 誰も、朱里の死を悲しみはしない。むしろ諸手をあげて喜ぶだろう。化け物の消滅を。

「私には、そんな覚悟をする事しか出来なかった……」

 朱里がいなくなれば、もう誰も怯えなくてすむのに。
 解っていても、それでも。ここまで、生きてきてしまった。

「……もういい。もういいから、……少し眠れ、朱里。俺はずっと、ここにいるから」

 優しいその声に、朱里はそっと微笑みを返すと、ゆっくりと瞼を閉じた。




 規則正しい寝息が聞こえ始めた時、一海はそっと呟いた。

「バカ……お前が死んだら、俺は絶対泣くぞ……母さんだって。なぁ?」
「……本当よ。全く、この子は……」

 朱里は気付いていないようだったが、朱里の過去の話が始まった時から、既に京佳は病室の前に辿り着いていた。僅かに開けた隙間から漏れ聞こえる朱里の、淡々とした声が、とても痛々しくて……目頭が熱くなるのを、堪える事は出来なかった。

「医者は、何て?」
「……いつ発作を起こしても、おかしくない状態。今はまだ、薬で治せる範囲らしいけど」
「……拒むよな、こいつ」
「あれだけの覚悟をしてたらね……」

 京佳にも、一海にも、朱里の気持ちを推測する事しか出来ない。幸いと言うべきなのか、二人には特殊な能力など欠片もない。よしんば能力を持っていたとしても、朱里の苦しみを理解出来るかどうか、解らないが。

「とりあえず、今晩一晩だけ入院して、明日退院だって。薬も勝手に貰ってきたわ」
「あの家に帰すのか?」
「……私達の家に連れて帰るわ。知佳にもそう言って来たしね」

 その時の、知佳の行動を一海は知らない。だが、母の苦い表情を見る限り、朱里と離れる事を喜んでいたとか、そんなところだろう。

「何で……何で朱里がこんな目に遭うんだよ? 朱里は、望んでこんな能力を持って生まれた訳じゃないのに」

 人は、異質な物は徹底的に排除しようとする。少しでも自分と違う物があれば、それを煙たがり、無いものとして扱う。
 同じ人間だと、口先だけはいくらでも言えても、多種多様な人間全てを受け入れられるはずもない。だから、要らないものは消していくのだ。様々な手段を使って。

「……優しすぎるわ、この子は」

 自分が傷付く事すら厭わず、藍里という存在を生かす為に。両親の望みを叶える為に、全ての感情を隠して生きてきた。

「……朱里の気持ちも解るわ。自分が死んで全て終わるなら、それを選びたいって気持ちも。都合良く、こんな病気が発覚しちゃったしね」
「……藍里に自覚させりゃ、話は早いのに」
「……言えるの? 一海。朱里の今までの努力が無駄になるのよ?」

 解っている。それでも、あまりにも朱里が自分を大切にしていないから、どうにかしてやりたいと思うのだ。

「もどかしい、な……」

 どれだけの知識を使っても、朱里に生きる希望を見出させる言葉は出て来ない。
 それが自分の知識不足なのか、それとも世界中の誰もが持っていないのか、一海には解らない。だが。
 可愛い従妹が、死を覚悟してまで守ろうとしている存在達が、憎くて仕方なかった。


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