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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【4】 なくなったもの S:side

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『覚悟だけは、……しておかなくちゃ』


「ねーちゃん、どうしたんだ? 帰ってきてから元気ないぞ?」

 4歳年下の弟・しんは、生意気盛りとは言え優しい少年に育っている。こんな風に、少し元気のない紫乃を見れば、問いかけてくるぐらいには、だが。

「うん……ちょっとね」
「元気のない紫乃ねえって不気味だよなー」

 臣と同い年の従弟である隆矢りゅうやが背後から現れ、からかうように告げたものだから、紫乃はくるぅり、と笑顔を貼り付けて振り向いた。

「りゅーちゃん? そんな事を女の子に言ったらモテないわよっ」
「え? 女の子? どこ?」

 ご丁寧にきょろきょろと周りを見回す仕草までくっつける隆矢に、紫乃はがくりと肩を落とした。いつもなら応戦するのだが、今はそんな元気もない。

「……どうした? 紫乃姉?」
「ねぇ、りゅーちゃん。ここから少し行った先にある公園に、大きな藤棚があるじゃない?」
「公園? 藤って……ああ、あそこ?」
「あそこ、いつから公園になったのか知ってる?」

 隆矢が知っているとは思わなかったけれど、一応と思って確かめてみた。

「いつからって……俺がここに来た時にはもう公園だったよ? だよねー、お母さん」

 え? どこ? と台所にいる叔母が聞き返してきたので、もう一度同じ事を告げる。と、叔母は「そうね、元から公園だったわね」と答えを返した。

「あら、藤棚といえば……埜上さん夫妻のお家にもあったわよね」

 叔母の隣で一緒に料理をしている母が思い出したように呟いたのを、紫乃は聞き逃さなかった。

「お母さん、覚えてるの!?」

 埜上という名に聞き覚えはなかったが、夫妻という単語と、藤棚があったという事実。それだけでも、今の紫乃には充分な情報だった。

「そりゃ覚えてるわよ。突然埜上さんからお電話頂いて、紫乃がお邪魔してるって聞いて驚いたもの。あの頃の紫乃、結構人見知りだったはずなのに」

 確かに、幼稚園に行ってもなかなか友達と打ち解けることが出来なかった。それなのに、藤の花の香りに惹かれて辿り着いたあの場所では……。

「紫乃が覚えているとは思わなかったわ」

 紫乃だって、きっと高征と会わなければ思い出すことはなかった。

「その藤棚がどうかしたの?」
「……あの公園にあった藤、……おじいさん達の庭にあった藤と同じ気がするの……」

 気がする、ではない。きっとそうだと思う。けれど、それに付随する様々なことを考えてしまうと……どうしても口が塞ぐ。

「……そう。そうね、ご高齢だったし、今が公園になっているのだとしたら……」
「うん……」

 母も、紫乃が言いたいことを察したらしい。二人で黙り込んでしまったから、何も知らない叔母と男二人は首を傾げて理由を訊ねてきた。
 けれど、紫乃には答えられなくて……これ以上、会えないかも知れないという想像を膨らませたくなくて、窓から外を見上げた。その間に、大雑把に母が三人にかつての出来事を説明していたけれど。

「紫乃」
「……はい」

 呼ばれて、のろのろと視線を母に移す。

「気にしたって仕方ないわよ。今の私達に、埜上さんご夫妻の消息を知る術はないわ」

 ご近所中を訊ね歩くわけにも行かないし、母には高征と再会したことを告げていないから、その意見は至極真っ当だ。

「うん……。でも、もしかしたら解るかも知れないの。たかくんが……」

 あ。自分から高征の名前を出してしまった。それを聞き逃す母と叔母ではなく、叔母が興味津々の眼差しで紫乃を見る。

「たかくん? たかくんって誰? 紫乃ちゃんの口から男の子の名前が出るなんて!」
「たかくんって……あ」
「覚えてる?」
「確か、速水さんのお孫さんじゃなかった? 紫乃がお世話になったから、後日ご挨拶に行った時、たまたま速水さんの奥さんと一緒になって名前を聞いたけれど……。……え。ちょっと、何で今頃たかくんの名前が出て来るの?」

 たかくんって誰よー、と問いかけてくる叔母をそっちのけにして、紫乃は今日高征と再会したことを告げた。藤棚を思い出したことも、同時に老夫婦を思い出したことも。

「……だから、明日また、出掛けてもいい? たかくんが、聞いてきてくれるはずなの」
「そう……そうね、行ってらっしゃい。解ったら、お母さんにも教えてね」
「うん」

 そうして紫乃は、からりと窓を開けた後に一人、縁側へと座り込んだ。

(たかくん……今頃お家の人に聞いてるのかな)

 高征と過ごしたのはたった数日だったけれど、紫乃はその後、藤の花が終わるまでちょくちょく会いに行った。そうは言っても会いに行けるのは日曜日くらいだったから、その回数もさほど多くはない。
 いつしか老夫婦の所へ行くよりも、生まれたばかりの臣の面倒を見る方が多くなって、彼らの記憶すら忘れてしまっていたけれど。
 引っ越してしまった紫乃達とは違い、ずっとここにいたという高征の祖父母なら、あの場所の事も解るだろう。

(覚悟だけは、……しておかなくちゃ)

 思い出した途端に会いたくなるなんて、身勝手も良いところなのは解っているけれど。

 ことん、と紫乃の座る傍らに、麦茶の入ったコップが置かれた。

「ねーちゃん、元気出せ?」
「……ありがと、臣」

 こういう時は優しい弟だ、と笑顔でコップを持ち上げ、口に含む。

「んっ!?」

 口に含んだ瞬間、ものすごいしょっぱさが舌を刺激した。思わず庭に降りて吐き出して、コップの底をよく見ると……溶けきらなかったであろう小さな粒がいくつか。

「臣っ! あんた麦茶に何入れたのっ!」

 多分塩だろうけれど、それ以外に妙なものを混ぜなかっただろうかと疑ってしまう。

「俺じゃねーよ、隆矢だっ!」
「解ってて持って来てんだからあんたも同罪よっ! りゅーちゃん!?」
「紫乃姉引っかかった!」
「子供みたいなことしてんじゃないわよ!」
「「俺達子供だもん」」

 悪びれもせずあっけらかんと答えた臣と隆矢が逃げ出したため、紫乃は思わずその後を追いかけて縁側から畳へと上がる。

「紫乃(ちゃん)も充分子供よ……」

 途端にバタバタし始めた室内に、母と叔母は口を揃えて呟いた。


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