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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【4】 なくなったもの T:side

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『込み上げてくる思いを、どうすることも出来なくて』



「ああ、あの公園の藤か」
「そう。あそこ……昔は家じゃなかった?」
「良く覚えてるなぁ。……そうだよ、埜上のがみさんの家だった」

 正午の鐘が鳴る直前に公園で紫乃と別れ、祖父母の家に帰り着いた高征は、居間で新聞を広げて読んでいた祖父に早速聞いてみた。
 すると、あっさりと答えが返ってきた。埜上という名字を言われても、高征にとっては「藤棚の庭のおじいさんとおばあさん」だったから、あまりピンと来ないけれど。

「そういえば、高征がまだ小さい頃に、埜上さんからお電話を頂いた事があったわねぇ」
「ああ、ありましたね」

 のんびりと答えるのは、ふすまの向こうで昼ご飯の準備をしていた祖母と母だ。7歳離れた妹の紗由は、きょとんとしたまま胡座をかいた父の膝の上に座っている。

「電話? 何て?」
「藤に惹かれてやって来たみたいですから、しばらくお預かりしますって。帰りは孫に送らせますからご心配なく……だったかしら?」
「そうなんだ……」

 それで誰も迎えに来る事が無かったのだから、あの老夫婦とその孫は、少なくとも高征の家族には信頼される人柄だったのだろう。……今だから、こんな事を考えてしまうけれど。

「あそこ、いつから公園になったの」
「もう……ずいぶん経つよな? なあ」
「ええ、正確に何年前かまでは覚えてません」
「じゃあ! 住んでいた人達は?」

 知りたいのはあの老夫婦の行方だ。意気込んで身を乗り出す高征に、祖父は驚いた顔をしながらも記憶を辿ってくれた。

「……確か……ご夫婦共に亡くなられたんじゃなかったかな」
「ご高齢でしたからねぇ」
「……亡く、なった……」

 あれから9年。もしかしたらとは思っていた。けれど、現実であって欲しくはなかった。
 思い出した途端に会いたくなるなんて、身勝手も良いところだとは思ったけれど。

「でも、お孫さんが近くにいらっしゃったはずですよ」
「……その、お孫さんって……」
「この町内にいるよ。たまに散歩の時に見かけて声をかけてくれるが……家の場所までは聞いてないな」

 開発が進んで、この町内も大分家が建ってしまった上に、今は個人情報保護法が出来てしまったから、正確な住所や電話番号などは本人に聞かなければ解らない。

「そっか……」
「どうしたんだ、急に?」

 妹を膝に乗せたままの父が、不思議そうに、けれど何かを含むような笑みを浮かべて、訊ねてくる。紫乃の事を話そうとしたが、……何故だか話したくなかった。

「別に……。あそこに行ったら、昔の事思い出して、……だからもし、会えるなら……って思っただけだよ」
「ほーぉ? 〝しぃちゃん〟に会ったからじゃないのか」
「……は!?」
「その反応は、会ったんだな」
「ちょっと待て! 何で父さんが、しぃの事知ってんだよ!」
「今思い出した。確かその時のお前、ずっと「しぃがこーしたあーした」って、しぃちゃんの事ばっかりだったから」

 一体どれだけ紫乃の事を話していたのだろうかと、少しだけ過去の自分を恨みたくなった。当の自分はそんな事すっかり忘れてしまっているのに、親にはそんな何気ない事も記憶されてしまっているのだ。

「で? 真相は?」

 お昼の煮込みうどんを手に、どこかわくわくしているような母の声に訊ねられる。ここで誤魔化したとしても……きっと無駄な労力だろうな、と想像が付いてしまう。それが少し、悲しい。

「……そーだよ、しぃに会った。だから、そん時のこと色々思い出したんだ」

 だから聞いてみた、と告げると、「そうか」と父はあっさり引き下がった。

「明日も行くのか?」
「うん、しぃにもこの事教えたいし……。教えたからって、どうなるわけでもないのは解ってるんだけどさ」
「そんな事無いわよ。高征としぃちゃんが覚えている限り、埜上さんご夫妻は生きてらっしゃるんだから」

 体は失っても。そう続いた母の声に、高征は小さく頷いた。紫乃も、これを聞いたらきっとショックだろうな……と考えていると、不意に小さな手が高征の袖を引いた。

「公園があるの?」

 話の中身は解らなくても、公園があると言う事だけは解ったらしい紗由を、高征は膝の上に抱き上げる。

「うん、あるよ。綺麗なお花もある」
「あたしも見たい! お兄ちゃん、お昼食べたら連れてって!」
「紗由がお昼寝しなきゃな?」
「起きてるもん!」

 ぷうっ、と膨らんだ妹の頬を指先でつつきながら、高征は笑顔になった。

 そして昼ご飯を食べて、やっぱり少しだけ眠ってしまった紗由が起きるのを待って、高征は妹と手を繋いで、午前中にもやってきた公園へと足を運んだ。

「わあ、きれいなお花ー」
「藤って言うんだよ」
「ふじ? 富士山?」

 さすが兄妹と言うべきか、かつての高征と同じ事を言う妹に苦笑して、目の前の砂場に「富士山」と「藤」の漢字を書いてみせる。まだ小学2年生の紗由には、どちらもまだ習っていない漢字のはずだけれど、まぁいいだろう。

「こっちが山の富士。こっちが、この花の名前だよ」
「……むずかしい字……」
「その内習うから、大丈夫」

 一緒になって砂場にしゃがみ込む紗由の頭をくしゃりと撫でる。
 そう、こんな風に、おじいさんも地面に文字を書いて教えてくれた。富士山と、藤の違いを。もう、……会えない。
 それは事実。もう、どうしようもない。解ってはいるのに。
 込み上げてくる思いを、どうすることも出来なくて。

「……お兄ちゃん?」

 泣きそうな高征に気付いたのか、紗由が母の真似をして、小さな手で頭を撫でてくれる。
 涙は、零れなかったけれど……代わりに、大きく深呼吸をして、込み上げるすべての思いを吐き出した。

「……ありがとな、紗由」
「うん!」

 にこっ、と花が咲くように笑った妹が、嬉しそうに抱き付いてくる。子供特有の温かな体温が、少しだけ悲しみを溶かしてくれるような気がした。


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