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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【3】 思い出して S:side

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『うそ……。こんな事って、あるの……?』


 紫乃が少年と出会ったのは、まだ紫乃がここに住んでいる頃のことだ。

 5月のゴールデンウィークとは言え、まだ幼い弟がいる朝河家はどこに旅行に行くわけでもなく、家でのんびりと過ごしていた。あの頃のこの町は本当に田舎町と呼ぶに相応しくて、近所のおじさんおばさんは、紫乃にとっても家族と同じだった。
 そんな町だったから、5歳の紫乃が一人で歩いていても、「気をつけるんだよ」という言葉をもらうだけで、誰も紫乃を家に帰らせようとしなかった。

 一人、てとてとと歩いていると、不意に強い香りが鼻を掠めた。紫乃にとっては初めての、甘い香り。

(どこだろう……?)

 香りだけを頼りに歩き出す。きょろきょろと周囲を見回しながら、どこから香ってくるのか、匂いの元を探した。

「……おはな……?」

 当時の紫乃にとってはとても高い場所で、淡い紫色の花が風で揺れている。

(きれい……)

 はらはらと舞い散る、小さな花片。塀の向こうから話し声が聞こえて、どこからか入れるのだろうかとぐるりと塀に沿って歩き出す。
 紫乃の家よりもしっかりした門は開け放たれていて、そこからはあの紫色の花と、縁側に座ったおじいさんと、笑う男の子の姿が見えた。

「ん? またお客さんかな」
「え?」
「あ……」

 見つかった、と紫乃は一度は顔を引っ込めたけれど、縁側からやって来たお祖父さんが腰を屈めて、自分の目線と同じ位置でにっこりと笑ってくれた。

「どうしたのかな?」
「え、えっと……おはな、きれいだったから……」
「そうか。お名前は?」
「あさかわ、しのです」
「ああ、朝河さんところのお嬢さんか。おいで、近くで見ていくといい」
「あ、でも……」

 一応、知らない人の家には入るなと言われている。招かれたからと言って入って良いのだろうかと、紫乃は一瞬悩んだ。

「大丈夫だよ」

 シワだらけの顔がくしゃりと笑う。それが違う土地で暮らす曾祖父母に似ていて、紫乃は導かれるまま庭へと足を踏み入れた。

「心配するといけないからね、速水さんとこと朝河さんとこに電話かけて来ますよ」

 そう言っておばあさんが席を立った事にも気付かずに、少年と紫乃は藤棚の下で花穂を見上げていた。

「きれーい……」
「いいにおい」

 二人で一緒に呟いて、顔を見合わせて、くすくすと笑う。高征の名を知ったのも、たかくんと呼ぶようになったのも。彼が紫乃を「しぃ」と呼ぶようになったのも、あの日出会ったからだった。

*****

 大声を上げたと同時に、子供達の視線が痛い程に突き刺さったけれど、何でもないよと首を振れば、子供達はまた遊びに夢中になっていく。

「うそ……。こんな事って、あるの……?」
「俺だってびっくりだよ」

 当時の名前を呼び合った事で、互いが記憶の中の少年少女だと気付いた二人は、奇跡のような偶然に驚いていた。
 高征がここの子供ではないことは、紫乃には最初から解っていた。あの庭に辿り着くぐらい近所に住む子供なら、顔を合わせていたっておかしくなかったのだから。
 もっとも、紫乃がこの町にいたのはその後僅か一年足らずであったけれど。
 ふと疑問に思って、紫乃は高征に訊ねた。

「たかくんは、どうしてここに?」
「今年高校受験で、夏休みは夏期講習とかでどこにも行けないだろうから、ゴールデンウィークの内に休みを満喫しとけって、父さんが」

 どこの家でも、受験生という者にはちょっと厳しいらしい。「しぃは?」と訊ねられ、「似たようなものかな」と答えてから気付く。

「……って事は同い年なんだ?」
「そうなのか?」
「私も中3だもん。……何、その疑わしい目は」
「……いや、中3女子がこんなところで呑気に寝てて良いものなのかと……」

 喉の奥で笑いたいのを堪えているかのような、悪戯な瞳。幼い頃、紫乃の分の金平糖を奪った時と同じ顔をしている。

「う。だって居心地良いんだもんここ! さっきまでは解ってなかったけど、この藤絶対、おじいさんとおばあさんの所にあった藤だよ!」
「……だとしたら、何でここ、公園になってるんだ?」

 そういえばそうだ。5歳の頃の記憶なんて、かつてここに住んでいた紫乃でさえうろ覚え。数日ここにいただけの高征が、町並みを覚えているわけはない。
 けれど、もしもここが本当に、あの老夫婦が住んでいた家があった場所だとしたら……。ここが、公園になっている意味は、もしかしたら……。

「……しぃ、明日もここに来る?」
「え? うん、来られると思う。帰るのは6日の午前中のつもりだから」
「俺、今日帰ったらじぃちゃんたちに聞いてみる。あのおじいさん達がどうなったのか……ずっとここに住んでるじぃちゃん達なら、解ると思うんだ」
「……うん、お願いしてもいい?」

 かつての紫乃の家に今住んでいる叔母夫婦も、この町にやってきたのは2年ほど前だったはず。一応後で、叔母夫婦にもこの公園のことを聞いてみようと紫乃も思った。
 ……老夫婦の消息を知ったからと言って、何が出来るわけでもないけれど。

「……確か、お孫さんもいたよな……」
「うん、名前忘れちゃったけど、私とたかくんを送ってくれて、帰り際に飴玉くれたよね、お兄さん」

 あの頃の高征と紫乃には、とても大きく見えた、老夫婦の孫の青年。ただ、5歳の自分達にはきっと、今の自分達でさえ大きく見えるだろうから、彼がいくつぐらいだったかは解らない。
 しかし、例えばあの青年が今の自分達よりも年上だとしたら……そしてあの時の老夫婦が、今の自分達の祖父母と同じぐらいの年齢だとしたら。

「……やめよう、考えるの」
「……うん、そうだね」

 今考えても仕方がない。そう決めた高征と紫乃は、明日もまたこの時間にここで会う事を約束して、別れた。


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