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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【3】 思い出して T:side

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Wisteria Memory 目次へ 一次創作Index

一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『……だとしたら、何でここ、公園になってるんだ?』



 5歳の高征と、少女が出会ったのは9年前。5月のゴールデンウィーク、たった3日間の事だった。
 連休2日目、高征は祖父母の家に遊びに来ていた。高征の本当の家は、ここよりずっと北にあって、初夏とは言えまだまだ肌寒さを感じていたのだが、ここでは長袖では少し汗ばんでしまう程だったのを覚えている。
 その頃はまだ、この町は田圃と畑だらけ、家もぽつぽつとしか建っていなかった。そんな中、ふらふらと散歩をしていると、甘く強い香りが風に乗って運ばれてきた。

(いいにおい……)

 匂いにつられて、ふらふらと歩き出す。途中で出会うたくさんの人に「おや、速水さんとこの」とか、「おでかけかい? たかくん」と声をかけられ、それに元気に返事をしながら。
 辿り着いたのは、庭に大きな藤棚がある家だった。もちろん、花と言えばチューリップぐらいしか知らない高征に、それが藤の花だと分かるわけもなかったが。
 ただ、石壁よりも背の高い、風に揺られて小さな花びらを落とすその淡い青紫色の花に、惹かれたのは確かだった。

「おや? これは小さなお客さんだ」

 急に声をかけられて、高征はびくっと体を震わせた。が、声をかけてきたのはいかにも好々爺に見えるおじいさんで、高征は知らずに肩の力を抜いた。

「あ、の……こんにちは!」
「はい、こんにちは。お名前は?」
「あ、はやみたかゆきです」

 しっかり自分の名前を告げた高征の頭を、大きなしわくちゃの手が撫でる。それが自分の祖父の手の感覚に似ていて、高征はすぐにこのおじいさんが好きになった。速水さんとこのお孫さんか、と呟くと、にっこりと笑ってくれた。

「どうしたのかな? お散歩?」
「えっと……」

 どう言っていいのか解らなくて、高征はおじいさんの背後にある大きな藤棚に視線を移す。その視線の先を辿ったおじいさんは、「ああ」と合点がいったかのように頷いた。

「今が一番香りが強いからね。近くで見ていくかい?」
「……いいの?」

 もちろん、とおじいさんが嬉しそうに頷くので、高征は少しだけ躊躇いながら庭へと入る。すると縁側では、にこにことお茶の用意をしているおばあさんも座っていた。

「このおはな、なんていうの?」
「藤というのよ。綺麗でしょう?」
「ふじ……ふじさんのふじ?」
「その富士とは違うなぁ」

 からからと笑うおじいさんは、縁側に座って、藤棚の下にいる高征を見ている。高征自身は小さな花が集まって咲く藤の花が、ゆらゆら揺れているのを楽しそうに眺めていた。

「ん? またお客さんかな」
「え?」

 じーっ、と門の向こうから少しだけ顔を出して、高征を(正確には藤棚を)見ている少女がいた。……それが、しぃ────紫乃、だった。
 おじいさんは座っていた縁側からよっこいしょと腰を上げて歩き出し、少女の前に屈み込んで、先程の高征と同じように声をかけた。

「あさかわ、しのです」

 少女────紫乃も藤の花の匂いにつられてここまで来たらしく、いつの間にか高征の隣に並んでいた。

「心配するといけないからね、速水さんとこと朝河さんとこに電話かけて来ますよ」

 そう言っておばあさんが席を立った事にも気付かずに、高征と紫乃は藤棚の下で花穂を見上げていた。

「きれーい……」
「いいにおい」

 二人で一緒に呟いて、顔を見合わせて、くすくすと笑う。それが、二人の出会いだった。

*****

 大声を上げたと同時に、子供達の視線が痛い程に突き刺さったけれど、何でもないよと首を振れば、子供達はまた遊びに夢中になっていく。

「うそ……。こんな事って、あるの……?」
「俺だってびっくりだよ」

 当時の名前を呼び合った事で、互いが記憶の中の少年少女だと気付いた二人は、奇跡のような偶然に驚いていた。
 何しろ、高征はここで生まれ育ったわけではない。祖父母の家に遊びに来たとしても、ぶらりと散歩にでも出掛けなければここには辿り着かないのだから。
 そう紫乃に話せば、「私も」と言われた。あの翌年に、紫乃の一家は県外へと引っ越し、今は叔母夫婦がかつての紫乃の家に住んでいるのだと。
 話している内に、あの頃の記憶が次から次へと蘇ってきて、いつの間にか昔のように、「たかくん」「しぃ」と呼び合っていた。

「たかくんは、どうしてここに?」
「今年高校受験で、夏休みは夏期講習とかでどこにも行けないだろうから、ゴールデンウィークの内に休みを満喫しとけって、父さんが」

 とはいえ、どこに行きたいなどという希望もなく、ならば祖父母の家にでも行ってのんびりするかという話になって、今に至る。

「しぃは?」
「私も似たようなものかな。……って事は同い年なんだ?」
「そうなのか?」
「私も中3だもん。……何、その疑わしい目は」
「……いや、中3女子がこんなところで呑気に寝てて良いものなのかと……」
「う。だって居心地良いんだもんここ! さっきまでは解ってなかったけど、この藤絶対、おじいさんとおばあさんの所にあった藤だよ!」
「……だとしたら、何でここ、公園になってるんだ?」

 幼い頃の町並みなど、殆ど覚えていないから、今いるここが、かつてあの老夫婦の家があった土地なのか、確証がない。けれど、この藤棚は確かに、あの日の藤棚によく似ている。
 もしも本当に、そうだったら。考えたくないけれど、もしかしたらもう、あの老夫婦には会えないかも知れない。
 途端に空気が沈んで、高征も紫乃も無言になってしまった。

「……しぃ、明日もここに来る?」
「え? うん、来られると思う」

 帰るのは6日の午前中のつもりだから、と答えた紫乃に、高征は告げた。

「俺、今日帰ったらじぃちゃんたちに聞いてみる。あのおじいさん達がどうなったのか……ずっとここに住んでるじぃちゃん達なら、解ると思うんだ」
「……うん、お願いしてもいい?」

 知ったからと言って、何が出来るわけでもない事は解っている。それでも、この藤を大事にしていた老夫婦の行方を知りたいと思った。

「……確か、お孫さんもいたよな……」
「うん、名前忘れちゃったけど、私とたかくんを送ってくれて、帰り際に飴玉くれたよね、お兄さん」

 あの頃の高征と紫乃には、とても大きく見えた、老夫婦の孫の青年。ただ、5歳の自分達にはきっと、今の自分達でさえ大きく見えるだろうから、彼がいくつぐらいだったかは解らない。
 しかし、例えばあの青年が今の自分達よりも年上だとしたら……そしてあの時の老夫婦が、今の自分達の祖父母と同じぐらいの年齢だとしたら。

「……やめよう、考えるの」
「……うん、そうだね」

 今考えても仕方がない。そう決めた高征と紫乃は、明日もまたこの時間にここで会う事を約束して、別れた。



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