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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【2】 何を忘れてる? S:side 

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『何か……忘れているような気がするんです』




(やっぱり、見覚えがある気がする……)

 どうしても惹かれて、気になって、紫乃は翌日もまた公園へとやって来た。
 藤棚の下に設置されたベンチに座り、風に揺れる淡い紫色を見上げる。

『────』
「誰……?」

 名前を呼ばれたような気がして、周囲を見回すけれど、人影と言えば自分だけ。

「……何を、忘れているの……?」

 自分自身に問いかけても、何かが変わるわけもなく。いつしか紫乃の体は横たわり、意識は深い眠りへと誘われていった。

 頬に髪がかかる感触がして、思わず指先で払うと同時に、閉じていた瞼をゆっくりと開いた時、小さな呟きが聞こえた。

「起きた……?」

 確かめるかのようなその呟きに、紫乃は一瞬体を強張らせた。

「……え……あ、え、私……?」

 そうだ、ここは公園だった。藤棚を見ていて、そしてそのままいつの間にか……。だけど、ここにいたのは、紫乃一人だけだったはずなのに、どうして聞き覚えのない声が聞こえるのだろう?
 そう思いながら、声の主に視線を移す。目の前にいたのは、焦げ茶色の瞳を和ませて、紫乃を見ている少年────恐らくは、自分と同い年か少し上ぐらいの年齢だろう。

「大丈夫? どこか痛いとか、怪我してるとか、そういうわけじゃない?」

 紫乃の様子から何事もないのは解っていても、念の為にか気遣ってくる優しい声。

「あ、はい! 違います、大丈夫です」
「そっか。それなら良かった」

 安心したように笑う少年に、紫乃は自分がこんな場所で眠ってしまった事実と、見られていたであろう寝顔を思って気恥ずかしくなりながらも、そっと微笑んだ。

「あっ、おねーちゃんおきた」
「ほんとだー。おはよー!」

 砂場で、ブランコで遊んでいた子供達が、一斉に紫乃の所へとやってくる。次から次へと言葉を口にする子供達に紫乃は戸惑った。この子供達は一体……? と頭の中は疑問符だらけになり、助けを求めるように少年を見れば、彼は苦笑して口を開いた。

「この子達が守ってくれてたよーなものかな。こんなとこで無防備に寝てたら、誰に襲われたか解ったもんじゃないし。……ま、この子達にとってはそんな意識、欠片もないだろうけど」

 確かに、こんなところで眠るつもりはなかったとは言え、この歳になって外で寝てしまうなんて、無防備にも程がある。子供達が傍にいることで、紫乃の身に危険が及ばなかったのなら、紫乃がするべき事はただ一つ。

「……そっか。ありがとうね?」

 身を屈ませて、一人一人の頭をゆっくりと撫でていく。子供特有の少し高い体温のせいで、少し髪が湿っていたけれど、そんな事よりも礼を述べる方が重要だった。

「あなたも、ありがとうございます」
「いや、俺は何もしてないから……」

 少年も傍にいてくれたのだろうから、と紫乃は少年にも頭を垂れた。お礼の言葉に慣れていないのか、少年は少し慌てたようだったけれど、紫乃は気にしなかった。礼を言いたいのは自分の勝手だ。

「ありがとう。もう大丈夫だから、遊んでおいで?」

 未だ自分の周りに集まったままの子供達にそう促すと、隣で呟くような言葉が聞こえた。

「……何か……忘れてるのか……?」

(え……?)

 忘れてる。それは紫乃も感じていることだ。この場所が、この藤の花が、何かを訴えかけているような気がしている。
 だから紫乃は、思わず少年に声をかけていた。

「あなたも、ですか?」
「え?」
「私も、何か……忘れているような気がするんです。この藤棚、どこかで見たような気がして……でも、思い出せなくて」

 朝からここへやって来て、ボーッと見上げていたらいつの間にか眠ってしまっていたけれど、どうしてかここから離れる気が起きない。

「……ウィステリア」

 紫乃が昨日思い出した言葉。それを口にすれば、何か思い出せるような気がした。

「……それ……」
「藤の別名です。……それを、教わったような気がするんですけど……」
「俺も。……どっかで、教わったような気がする……」

 彼もそうなのか。不思議な感覚のまま、藤の花を見上げる。
 サアッ、と風が吹く。淡い紫色の花がゆらゆらと揺れる。一緒に、口の中に広がる苦いお茶の味と、甘い金平糖を思いだして……。

『おや、いらっしゃい』
『たかくん、しぃちゃん、こっちだよ』

 シワだらけの顔と一緒に、少しだけしわがれた声が聞こえたような気がした。少年も同じだったのか、藤の花を見上げていた視線が、声を探すように空を彷徨う。

『あー! それ、しぃの!』

 しぃ。それはかつて、紫乃が自分を呼んでいた言葉だ。

『ちがうよ、ぼくのだよ!』
『こらこら、まだあるから取り合わない!』

 まだ甲高い少年の声と、青年の声。少女が紫乃ならば、あの少年は、もしかして────。
 だって、他に考えられない。同じように何かを思い出せずにいる少年。悪戯顔で笑う少年の面影が、驚いたように目を見開く彼と重なった。

「た、か……くん……?」
「……しぃ……?」

 震える声で呼んだかつての呼び名に、呼び返された自分の名前に。二人は遊んでいた子供達が驚く程の大声を上げた。

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