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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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Wisteria Memory 【1】 惹かれたのは

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一緒に物語を作って♪ バトン の回答を元に作った物語です。

『名を呼ばれたような気がして』



(少年side)

 名を呼ばれたような気がして、少年はふと足を止めた。
 この地に来たのはかれこれ9年ぶり。知り合いなど祖父母以外いないはず。例え少年の事を知っていたとしても、それは9年前の幼い姿だけだろう。
 そう思うのに、何故か、足は止まったままだ。
 目の前には小さな公園。そしてそこには、立派な藤棚があった。甘い香りを放つ、淡い紫色の花が揺れる。……その光景が、少年の胸を締め付ける。

『────』
「誰だ?」

 また、呼ばれた。名前は聞き取れないのに、どうして自分の事だと思うのだろう。懐かしいような、どこか淋しいような声音……そんな感覚に襲われる。
 トク、トク、トク。静寂の中で耳に付く鼓動は、変わりなく緩やかで。それなのに、心が何かを訴えるかのようにざわめいている。感傷────何に?
 淡い色を見上げたまま、少年はしばらくその場を動かなかった。どうしてこんなに惹かれるのか、解らないまま。

「……げ、もうこんな時間か」

 ふと我に返って、左腕にはめた腕時計で時間を確かめると、思いの外時間が経っていた事に気付いた。
 目に映る藤棚も、その向こうに見える木々も、初夏の風の匂いもそのままに。ただ、空の色だけが変化していた。

(さすがにボーッとしすぎだろ……)

 呼ばれたように感じて立ち止まり、淡い紫色の花を眺めていただけなのだが。

「……帰るか」

 周囲は段々と薄暗くなっていく。夕方には帰るからと言い置いた手前、もう帰らなければならない。
 遠くで聞こえる鐘の音。早く帰れと急かされているようにも感じる、重厚ながらもどこか軽快な音が、空に響き渡る。
 少年はくるりと踵を返し、祖父母の家へと歩き出す。踏み出した足は止まることなく、少年が振り返る事もなく、地面だけを見て歩いていたはずなのに……視界の端に藤色が見えて、思わずまた足を止めてしまった。
 いつの間にかぐるりと一周回り込んでいたらしい。藤棚は変わらず目の前にあって、甘い香りを風に乗せてくる。けれどもう、少年を呼ぶ声は、聞こえない。
 何故、どうしてこんなに気になるのだろう? あの藤の花には、何か特別なものがあったのだろうか。少年にとって大切な何かが……。
 そう首を傾げても、思い出す事は出来なくて、帰ったら祖父母にこの藤棚の事を聞いてみようとまた歩き出した。

*****

(少女side)

 少年がこの公園にやってくる3時間程前。同じようにこの公園の前で足を止め、藤の花に惹かれた少女がいた。

「うわ……随分変わっちゃったなぁ……」

 昔は田圃だらけだったのに、と少女は微かに覚えている過去の記憶と、今の町の姿を照らし合わせながらゆっくりと歩いて行く。
 けれど、5歳の時の記憶はかなり曖昧で、照らし合わせる事も途中で止めてしまい、ただ風景を眺めていくだけになっていったが。
 懐かしさを感じると言うよりは、全く知らない町を歩いているようで、何だか冒険しているような気分になってくる。
 軽い足取りで歩いていると、ふと視界に入ってきた、淡い青紫色。

(綺麗……)

 小さな公園の中、大きな藤棚の下には、休憩用のベンチが備え付けられている。そのすぐ前には5メートル四方程の砂場があり、子供が作ったのだろう砂のお城が少し形を崩して残っている。
 青紫色の花から漂ってくる、甘く強い香り。古来は女性を表す代名詞でもあった藤。
 何かを思い出しそうで、だけど記憶の底に埋もれてしまっているようで、少しだけもどかしい思いをした中で浮かんだのは、たった一つの言葉。

「ウィステリア……」

 藤の別名だ。それを教えてくれたのは、誰だっただろう。
 遠くで正午を知らせる鐘が鳴って、少女はハッと我に返った。

「えっ、もう12時!?」

 叫ぶと同時に、ポシェットに入れて置いた母の携帯電話がけたたましく鳴り始めた。

「も、もしもし!?」
『こーら、迷子になってないでしょうね?』

 慌てて電話に出れば、少しだけ呆れたような母の声。

「だ、大丈夫だよ、多分……」
『ならいいけど、迷ったら連絡しなさいね。迎えに行くから。りゅーちゃんが』
「自分じゃないのね……。いやでも、それはさすがに……」

 いくら今現在ここに住んでいるからと言って、年下の従弟に迎えに来て貰う羽目になるのはちょっと情けない。

『早くいらっしゃい、みんな待ってるわよ』
「はーい」

 ぴ、と通話を終わらせて、少女はもう一度藤棚に視線を移す。

(やっぱり、何か……見た事があるような気がする)

 それとも、どこかで似た光景でも見たのだろうか。藤棚は結構探せばどこにでもあるし、その下にベンチというのも定番と言えば定番だ。ただ、紫乃の周囲にそんな光景があるかというと……覚えがない。
 どこか釈然としないまま、少女は、家族の待つ今日の宿泊先へと向かうべく足を動かし始めた。

 少年の名は速水はやみ高征たかゆき、少女の名は朝河あさかわ紫乃しの
 心の奥底に眠る、小さな小さな記憶を彼らが思い出すのは、翌日のことになる。

Wisteria Memory 目次 → 【2】 高征へ → 【2】 紫乃
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