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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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雨の弓 【Saint Valentine's Day】

雨の弓 目次 一次創作Index

昨日の夜、「そういえば明日はバレンタインだなぁ」なんて呑気に考えていたら出来たSSです。


「あっ、ユミ、それ溶かしちゃダメ!」
「えっ!? ~~~っ、セーフ……!」
「コーリ、生クリーム終わったわよ」

 キッチンに立つ三人娘の漏れて来る声を聞きながら、レインは隣に座るアクアに訊ねた。

「……今年は何が出てくるんだと思う?」
「さぁな」

 2月14日、バレンタイン。この日は毎年、コーリとショウカから義理と称したチョコレートを貰っていた。生前から料理をしていただけあって、二人の菓子は毎年美味しくいただいていたのだが。

(今年はユミもいるからな……)

 かつて、ひかりという名の少女だったユミは、レインの────雫の記憶の中ではあまり器用ではなかったはずだ。雫が事故で命を落とす少し前から、目が見えなくもなっていたし、……今のキッチンがどんな惨状になっているか、あまり想像したくない。
 それでも、不器用ながらに一生懸命作っているであろうユミの姿が微笑ましくて、知らずのうちに顔がにやける。

「顔崩れてるわよ~、レイン」
「悪いか……って、何だその皿の数」

 コーリの左腕には大皿が2枚、右手には器を持ち、彼女は苦もなく歩いて来る。

「今年は三人で色々作って、パーティーみたいにしようって話になったのよ」

 いつもならば、コーリもショウカも自分達の部屋でそれぞれを作り、それぞれ相手に渡しに行っていた。けれど今年はレインの部屋に集合と言われて、アクアと二人、首を傾げていたのだけれど、ようやく合点がいった。

「運良くみんな、仕事が入らなかったからね~。……ヨウくんは別として」

 死神を統べる者マスターであるヨウの仕事は、途絶えることがなかなかない。故に、コーリのいるこの場所に来られるかも、微妙なところだ。

「やっぱコーリ、マスターの補佐に昇格したら?」
「い・や・よ」
「即答かい」
「いいの!」

 それだけ答えて、コーリは持っていた皿をテーブルの上に移し、足取り軽く戻っていく。かと思えば、ひょこっと顔を出して、「つまみ食い禁止!」と釘を刺していく。

「……俺、時々マスターが不憫に思えて来る……」
「俺も。いくら死神が気に入ってるからって、少しぐらい悩んでもいいと思うんだけどなー」

 レインも、アクアも知らない。コーリがヨウの補佐に回らない、本当の理由を。そしてヨウ自身も、本当に彼女を補佐とする事を望んでいないことも。
 そしてその後間もなくやって来たヨウに、男二人は若干同情の視線を送ってしまい、訝しがられた。

「光梨、咲花。どんだけ作ったんだ一体!」

 六人掛けのテーブルに、ところ狭しと並べられているお菓子の数々を見て、ヨウが呆れたように声を上げた。

「誰かさんが昔貰ってきたチョコの数より、ずーっと少ないけど?」
「いつの話をしてんだよ泪花!」
「えーと、確か透子が10歳だったから~。明人くんが高2の頃の話?」
「そういえば、泪ちゃんと私が消費担当だったよね~」

 どうやら生前のヨウはとても人気があったようだ。今このテーブルに並ぶお菓子以上に貰っていたというのなら。
 ちなみに並んでいるのは一つの直径20cm程のチョコレートケーキを中心に、マフィン、クッキー、パイにバウムクーヘン。およそバレンタインには関係ないものまであるような気がしなくもない。

「……さすがに全部は食べられないと思うぞ?」

 一つ一つは小さいものの、数がありすぎる。

「あのね、レイン。違うの」

 くい、と白く細い指で袖を引かれて、レインは左隣りに座るユミを見た。

「違う? 何が?」
「ケーキ以外は、他のお世話になってる人達にもあげられるでしょ? 味見も兼ねてなの。だから、無理に全部食べなくていいんだよ?」

 ね? と、ユミが瞳を細めて笑う。その言葉に、なるほど、と思わず納得してしまった。

「ユミが作ったの、どれ?」
「えっと……バウムクーヘン。簡単だったから……」

 普通のものよりも小さな、チョコのバウムクーヘンを口に運ぶ。想像してたよりも少ない甘味が、レインにはちょうどいい。

「ん、美味い」
「本当!? 良かった!」
「……っ」

 花が咲くように笑うユミを、思わず引き寄せて抱きしめたくなるのを堪えていると、レインの向かい側から、くすくすと笑う声。

「何だよ、コーリ」
「夜までは邪魔しないから、安心していいわよ?」
「な……っ、コーリ!」

 何を言い出すんだと言いかけた矢先、彼女の隣にいたヨウがコーリを素早く腕の中に閉じ込めた。

「なら、俺達も『夜は』邪魔されないわけだ?」

 耳元で低く囁かれて、コーリの頬がみるみるうちに赤くなる。

「よ、ヨウくんは仕事残ってるでしょ!」
「そんなのとっとと終わらせてやる」

 ヨウの腕から逃れようと頑張るが、男の力からは逃れられるはずもなく。視線でショウカに助けを求めるコーリだけれど……。

「はい、アクア」
「ん」

 ショウカは一口大に切ったケーキをアクアに食べさせていたりする。

(ま、頑張れコーリ)

 人をからかった罰だ、と心の中で意地悪く笑いながら、レインはクッキーへと手を伸ばす。

「ね、レイン?」
「どした?」
「あのね……」

 少しだけ伸び上がったユミの唇が、耳に触れ。告げられたのは、ただ一言。

「大好き、だよ?」
「うん、俺も」

 そう答えれば、ユミは嬉しそうにレインの腕にしがみついて来る。

 ひかりと雫という、命に限りある存在では、共に過ごせなかったバレンタイン。天命を迎え、死神となって、レインのそばにいることをユミが選んでくれたからこそ、この時間があるのだと────レインは胸に刻むように目を閉じた。



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