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オリジナル・二次創作小説や、好きな本の感想を綴るブログです。

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LOVE SO LIFE うれしいきもち

LOVE SO LIFE 目次 二次創作Index

コミックス未収録のネタバレがあります。ご注意下さい。
久しぶりに書いたので、別人かも知れません。
それでも良ければ追記からどうぞ。


 臼の中である程度潰した米をめがけて、政二が杵を振り下ろす。すかさず手をぬるま湯で濡らした施設の女性が、餅を折りたたむように中心に集め、そしてまた政二が杵を振り上げ、の繰り返し。
 その光景を見ていた茜が、「やるー!」と言い出したので、詩春は慌てて茜を抱き上げた。

「ダメだよ茜ちゃん、今行ったら危ないから!」

 杵の重さは確か2kg以上。ただ持っているだけならまだしも、杵が振り下ろされるのだから近寄らせてはいけないと、詩春はしゃがんで、葵の手もそっと握った。

「松永さん、代わります」
「あ、ありがとうございます」

 やがて1升分の餅がつき上がり、次へと行こうとした時に、保育園に通う子供の父親が交代を名乗り出て、政二は杵を渡し、詩春達の所へと戻ってきた。

「お疲れ様です、松永さん!」
「餅つきなんてしたの、多分小学校以来だよ」

 明日は筋肉痛かなと笑う政二に、詩春は大丈夫ですよと笑顔を返した。

「せーたんすごいー!」
「あおもやる!」
「後で子供用の杵と臼が来るから、そうしたらお餅搗こうね?」

 子供用と言っても1キロはあったはずだから、詩春も一緒にやる事になるだろう。それでも、現代の子供で餅を搗くというのはかなり貴重な体験になるはずだ。

「あ、お餅が搗き上がったみたいです。分けるの手伝ってくるんで、松永さん、二人をお願いしても良いですか?」
「うん、熱いと思うから火傷しないように気をつけてね?」

 はい! と満面の笑顔で走っていく詩春の背中を、政二は優しい瞳で見送った。

 新しい年に、あと数日を残すだけとなった今日、保育園で餅搗きが行われていた。早めに茜と葵を連れてきた政二が、一番先に蒸し上がった餅米を一生懸命こねて、搗く羽目になってしまったのはちょっと誤算だったけれど。
 周囲では、保育園に通う子供達と、その保護者達が談笑している。ここでは、政二も「茜と葵を預けている保護者」なので、必要以上に騒がれる事もない。
 時折、写真を一緒にとは言われるが、それは子供達も一緒のものだし、園の方でもこの光景は写真を撮っていてくれる。

(また焼き増し頼んで、竹川さんに送るか……)

 新しい年が来れば、……3月になれば。この子達とはお別れだ。別に一生会えなくなるわけではないけれど、余程の事がない限り、詩春とは会えなくなってしまう。
 そして、……それが本当に良い事なのか、政二は測りかねていた。

 子供用に小さく分けられたものと、詩春と政二用に大きめに分けられたものとをお盆に乗せて運んできた詩春が席に着くと、4人揃って手を合わせ、「いただきます」と告げた。

「おいしー!」
「あっ、こら茜っ! 一気に食べると喉に詰まるぞっ」
「ん~」
「あははは、葵くんのなかなか切れないね?」

 政二達が食べている横でも、まだまだ餅つきは続けられている。

「いいのかな? 先に頂いちゃって」

 餅を醤油につけて、のりを巻いた磯辺餅を手にして、政二が訊ねると、詩春が大丈夫ですよと笑った。

「一番最初にお餅を搗いて下さったのは松永さんですし、置いておけば固くなってしまうだけですし、それにすぐ次も搗き上がりますから!」
「じゃ、遠慮なく」

 手にした磯辺餅を口に入れれば、搗きたての柔らかさと温かさ、そして醤油と海苔の香りが口の中にじんわりと広がった。

「うん、美味しい」
「あとお雑煮と、あんころ餅ときなこ餅もありますよ!」

 あんまり食べ過ぎちゃうと大変ですけど、と詩春は小さく笑いながら、夢中になって食べている双子に視線を移す。彼女の言いたい事に気付き、政二も苦笑した。

「……見張ってないと際限なく食べそうだな……」

 特に茜は、と呟くと、名を呼ばれた事に気付いた茜がきょとんとする。

「せーたん?」
「何でもないよ。ゆっくり食べなサイ」
「あい!」

 言われた当初こそゆっくり咀嚼するものの、だんだんと食べるスピードが速くなっていく茜を見て、思わず詩春と顔を見合わせてしまった。

「今日は結局、何回搗くの?」
「えっと……確か6回? ですね。希望されてる方々の伸し餅の分も搗きますし」
「え。……って事は、相当な量の餅米を研ぐ羽目になったんじゃ……」

 餅を搗くには、前日の夜に餅米を研いで、水に浸しておかなければならない。一回分の餅を搗くのが何升分かは知らないが、結構な量であるはずだ。そして昨日の夜、いつもより少し早めに帰った詩春は、これから明日の準備で餅米を研ぐのだと言っていたような気がするのだけれど。

「1升を3回……だったかな……。みんなで手分けして研いだんです!」
「……でも、手は冷えたでしょう?」

 冷たい水で研がなければならないのだから、3升もの米を研いだ後は感覚が無くなっているだろう。

「終わってからすぐに温めたので、大丈夫ですよ。……その、松永さんから頂いた、手袋つけてましたから……」
「あ……」

 毛糸の手袋は、今年の詩春へのクリスマスプレゼントだ。それを使ってくれている事が嬉しかった。

「……ありがとう、使ってくれて」
「わ、私こそ……っ。ネクタイ、使って頂いてありがとうございます……っ」
「え」

 詩春から貰ったクリスマスプレゼントであるネクタイは、次の日の放送で着けていた。

「気付いてたんだ……?」
「はい。たまたまテレビを見て……それで。すごく、嬉しかったです!」

 はにかむように笑った詩春に、思わず手が伸びそうになって、慌てて腕に力を込める。一度抱き締めてしまった事があるからこそ、行動への枷が緩くなってしまっている自分に苦笑する。
 ……子供のように素直に触れる事が出来たなら……きっと触れた箇所から政二の想いは詩春に伝わってしまうだろう。……相手が相当鈍くなければ、という注釈がつくけれど。

「……うん、俺も嬉しい」

 ほのぼのとした空気が自分達を取り囲む事に気付かぬ二人は、茜と葵の「おかわり!」という言葉に我に返り、若干頬を染めながら視線を外す羽目になったのだった。


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